二人暮らし ~Side・White~
バレンタインデー……チョコ……ウフフ……
朝、鳥の声で目が覚めた。すっきりと、重たく絡んでいたものが落ちたようなすっきりとした目覚め。
「……んー……」
上体を起こして大きく伸びをする。
「?」
あれ、ここ何処だっけ?
「俺……違う、あ、ゲーム。うん、本当、拾われて……夢じゃない?」
見覚えのない景色に少し戸惑ったけど、昨日の記憶がよみがえってきた。
ゲームに閉じ込められて、どうしたらいいかわからなくて、迷って、もう生きる気力的なのがなくなって、落ち込んでたところをクロに拾ってもらったんだ。
ゲームに閉じ込められたのも夢じゃなかったけど、クロに拾われたのも夢じゃないから、いいのか悪いのか。
……いや、いい。うん、クロはやっぱりいい人で、少しでも俺はクロの中で居場所を持っていたってはっきりさせてくれた。嬉しい。
クロにとっては大勢の中の一人だろうなと思ってたけど、拾ってくれたのは俺だけみたいだし。えへへ。すっごく嬉しい。
喜びをかみしめて、ニヤニヤしてたけど、はっとする。
あ、昨日、すっごくクロに迷惑かけた。俺泣いちゃったし、うだうだしてて、子供じゃないんだから……あぁ、最悪……引かれたよね? 気持ち悪いって思われたかな? あまちゃんでバカみたいなかまってちゃん?
ど、どどど、どうしよう!?
ただ喜んでる場合じゃなかった。あほ! 俺のあほ!!
クロってあんまり騒がしいの好きじゃないんだよね。仲間内でならいいけど、バカ犬みたいにきゃんきゃん耳障りなのは嫌い。だから静かにしてたのに! いや、話すのが苦手って言うのもあるけど、でも!!
昨日のあれは完全に耳障りだよ!!
あぁぁぁあああぁあぁあああぁぁぁ……!!
こんこんっ
「っ!?」
自己嫌悪で落ち込んでいるとドアをノックされた。過剰に驚く。
し、心臓が縮む!
「ハク? 起きてる?」
「あ、ぁ……」
心臓がバクバクいって言葉が出ない。
どうしようどうしよう!?
軽くパニックになる。
「起きてるね? 準備できたらリビングおいで。ゆっくりでいいからよ」
クロはさすが、俺の扱いを心得てる。いや、俺が心得させたのかもしれないけど、何も聞かずにゆとりを持たせてくれた。
これで少し気持ちを整える時間ができた。あんまりゆっくりもしてられないけど!
とりあえず息を整えて、ベッドから降りる。
まずは着替えかな。いつもの白いローブに着替えて、髪飾りは今は置いておく。
顔洗うのは、お風呂の所でいいのかな?
下に降りて、洗面所へ。
鏡を見て、すっきりしてる顔を見て少し笑う。やっぱりちゃんとした睡眠は大事だね。あと食事。
顔を水でさっと洗ってから、気づく。
……タオルのこと忘れてた。また借りてもいいかな? 先になんか布だしとけばよかった……。
「ほい、タオル」
後ろからクロの声が聞こえてまたびくぅっとなる。
「ぷっw 驚きすぎ」
「あ、ごめ……」
でもね、突然背後に黒づくめの人が現れたらだれでもびっくりすると思うの。
「いいから顔拭けよ?」
「あ、ありがと……」
クロからタオルを受け取ってささっと拭く。
「食欲ある? アップルパイ作ったぜ?」
アップルパイ! 覚えててくれたんだ。……けどそれは朝ごはん?
首をかしげるとクロは続けて他のものも提案してきた。
「昨日の残りのチキンライスもあるし、パンもあるけど、何かリクエストある? ちなみに今十時半くらい」
リビングの方に移動しながら会話を続ける。
十時半なら、まだ朝ご飯だよね。それともお昼? アップルパイは食べたいけど、それとご飯も食べたらお昼までにお腹すくのかな?
「朝は軽め? 朝からがっつりいく系? リクエストあんなら作るけど?」
俺はダイニング、クロはキッチンに入って話を続ける。
「あ……アップルパイだけでいい」
そんなにお腹は減っていない気もするし。
「おけ。飲みもんは?」
「牛乳ある?」
「つめたくていい?」
「ん」
「おーけー。ちょっと待ってて」
……。
あ、話し方!!
昨日のことも謝ってないし!!
「~~~……」
「ど、どした? ハクー? ハクさーん?」
机に突っ伏した俺の上からクロの声が降ってくる。
恥ずかしすぎて顔があげられないけど、ちゃんと言わないと……。頑張って少しだけ顔をあげた。
「クロ……」
テーブルにアップルパイと牛乳、クロ用のだろうコーヒーを置きながら顔を覗き込まれた。
「え、なになに? まじどうした? よく眠れなかったか?」
「いや、よく眠れた」
「そりゃよかった。んじゃ、なんかあったか?」
頭をさらっと撫でて、クロは俺の前に座る。コーヒーを飲む姿がかっこいい。
「あ……」
どう、話せばいいんだろう……。
「えっと、俺、本当はこんなんで……子供っぽくて、ごめん……」
「え?」
「かまってちゃんで、あの、えっと……」
「あ、話し方? 性格が? どっちでもいいけど、謝る必要ねぇよ?」
首をかしげながら怪訝な顔(多分)をするクロに、話しの続け方がわからなくなる。
「でも……」
「昨日も言わなかったか? 嫌ならとっとと帰れっつってるって」
言われた。でもそんなの……ちゃんと俺の泣き言きく前じゃなかった? だからさ……。
「で、でも……」
「あーはいはい。ハク、ネガティブっ子だな。とりあえずパイを食え! 甘いもん食べりゃ少しは癒されんだろ。んで、後でしっかり俺の話を聞きなさい!!」
強めの口調で突き放されて、しつこくしすぎたと悟った。あぁ、ただでさえ好感度低くなっちゃってんのに、また低く……。
そのままクロはコーヒーを飲みながら何か作業を始めた。紙に何か色々書いたり、どこかにメールを送ったりしているみたいだ。
俺は黙ってアップルパイを一口食べる。
「……」
おいしい……!!
パイはサクサクで、中身はしゃきしゃきもするし、とろりともしている。甘酸っぱくて、食べやすい。
甘ったるいと朝から気持ち悪くなりそうだけど、これなら全然大丈夫だ。
クロ、料理うまいけど、一体料理人レベルいくつなんだろう……というより、元の腕?
「ん、んまい?」
いつの間にか少し笑っていた。
それに気が付いたのか、クロが声をかけてくる。
「うん、おいしい」
「よかった」
くすっと笑って作業に戻る。俺もパイを食べすすめていく。
あんまり怒ってないみたいでよかった。
静かだけど、居心地の悪さは感じない。穏やかな時間が過ぎていった。
「ごちそうさまでした」
「お粗末さんっした~」
「あ」
食べ終わったから流しに運んだ方がいいのかと、キッチンに入る許可をもらおうとしたが、先に食器をさらわれた。
「うっし。んじゃ、ちょいと大事なお話しやしょ?」
戻ってきたクロは、自分の前に散らかった紙を何枚か残して、まとめて避けた。
「ハクさ、ここに住むだろ? 昨日も言ったけど、そんなにしっかり話してなかったから……」
え。
「ほ、本当にい、いいの?」
「もちろん無理強いはしないぜ?」
「……お、お願いします……」
本当にいいんだ。こんな俺でもクロは受け入れてくれたんだ……。
「んでさ、一緒に住むにあたってよぉ? 色々言っとかなきゃいけないこととか、ルールとか決めないとだから、それについてお話しましょ」
あ、そうだよね、クロの家だもん。でもどんなルールがあるのかな? なにすればいいのかな?
「とりあえず、俺からちょっと条件言ってもいい?」
「もちろん」
「色々後で説明するけど、部屋ね、いくつか入らないでほしい部屋があるから、そのことと、後は……あぁ、こっちのが大事か。さっきなんか言ってたけど、俺の前では素でいいから」
「す?」
「リアルで生きてるように、キャラ作んなくていいよってこと。キャラ作ってた方がやりやすいってなら止めねぇけど、疲れそうだからさ」
「あ、ありがとう……!!」
その言葉にまた涙腺が緩みそうになるけど、ぐっと我慢。また面倒くさいって思われちゃう。いや、クロなら思わないでくれるかもしれないけど、ダメだよね。
ありのままの俺を受け止めてくれるなんて、嬉しい。こんな弱そうで女々しくて、うざったくても、受け入れてくれるなんて……。
クロはそんな俺の喜びに気が付かないみたいで、さらっと話を進めてきた。
「ん。今んとこはそんなに条件とか思いつかないけどさ、後々なんかあったら言うから、それはちょっと頭に入れといてもらえると助かる」
「わかった」
「じゃ、次は色々ルール決めようか?」
「? クロの言うとおりにするけど?」
元々ここはクロの家で、俺はお世話になる側で、でしょ?
「だーめ。そういうの禁止。ちゃんと一緒に住むなら、ちゃんと二人が納得するようにルールは決めないといけません」
クロは先生のような口調で、ちっちっち、と指を振る。
「わ、わかりました?」
ちょっと勢いに押されて疑問形になってしまったけど、クロは気取って重々しく頷いた。
「ん、よろしい。飯は俺が作るから、サブ職的にもね? ……だよな?」
「うん……」
料理スキル持ってるような職業はとってない。よく使うのは戦闘系のサブ職だし、生産系でも戦闘に役立つような、武器とか装飾品とかしか作れない。趣味で一つあるけど、それも無意味だし。
こんなふうになるとわかっていたら、ちゃんといろんなのとってたのに……って、普通は想像しないもんね、こんなこと……。
「ちゃんと飯は作る気でいるけど、俺にもやることあるからさ? 時々作り置きになるかもだけど、それは勘弁な?」
「も、もちろん!」
お母さんの様子を見てればわかるけど、結構大変そうだし……レトルトみたいなものなかったらより大変そうだよね……。
「あ、でも、俺なんか手伝えることがあったらやるから!」
「ん、あんがと。実験込みでいろいろ手伝ってもらおうかな~♪」
「わ、わかった」
「それから~……」
その後もいろいろ話し合って、色々ルール決めて、そうしたらあっという間に時間は過ぎて、十二時半くらいになった。
「どうする? 飯食う?」
どうしよう。そんなにお腹は減ってないけど……。
「俺さ、一時半くらいになったら出かけないとなん「え!?」だけ……どって、どうした?」
また一人? 怖い。寂しい。嫌だ。
「ハク!?」
「あ、やだ、クロ……」
あれ? 呼吸が浅い。少しくらくらする。
「ハク? 一人でいるの、ダメ?」
いつの間にか横にいたクロが俺の背中をさすってくれていた。ちょっと落ち着く。
「怖、い。……一緒に行っていい?」
「あー、ギルドだけど大丈夫? 他にも行くけど……」
「いい。行きたい。一人怖い。一緒がいい」
みっともないって、後から冷静に思う。でも今は無理。気持ちに余裕がない。
「わかった。一緒に行こうか。あ、それでさ、帰りにお店行こう。NPCの店ならきっとやってるでしょ。ハクの部屋のもの色々揃えよう? な?」
「うん、うん……」
俺はクロにすがる。
だめだ、完全に寄りかかってる。これじゃだめだよ。
でもね、無理。あとで、ちゃんと一人で立つから……だから今はさ、もう少しだけさ、寄りかからせて……。
クロ……。




