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道化と冠  作者: 青螢
31/69

食べることは生きること

 ハクは自分じゃわかってないだろうけど、大分やつれていた。

 顔は青くて、目の下には隈がある。歩く時もふらついて、この調子じゃHPの方も削れていそうだ。

 とりあえず家に連れて来てみたけれど、俺のテリトリーとしてかこっている境界線を踏んで(これ超えないと目に見えないっていう設計)、俺の家の全貌が見えたら呆然としていた。

 あはっ……うん、知ってる。超広いよな、俺の家……。これ全部自分で作ったんだぜ? だから本筋のレベル上がらねぇんだよってゆー……。

 変なとここっちゃうのが俺の悪い癖でございます。

「ハクー。とりあえず入って。色々ツッコミどころはあるけど、今はスルーして。飯食お?」

 まぁ、俺はそんな腹減ってないからスープでも食うか。

 ハク好き嫌いとかあっかな? 食材何あったかなー。

「ハク何か食べたいのある? 腹減ってんならがっつり系?」

「あ、えーっと……」

「基本何でも作れるぜ。あんまりマイナーなのとかなのは無理だけど、普通の家庭料理はいけるはず」

 和食から中華・洋食。一応ね。ケーキだって作れちゃうぜ。パスタは今から作るのは面倒だな。乾燥めんなんてないからな。時間かかってもいいならそれこそ何でも行けると思うが。

「……」

 まだちょっと呆然としてる。テリトリーは広めにとってるから玄関までまだちょっと歩くんだけど、俺が先を歩いてなかったらきっとハクは立ち止まったままだっただろうな。

 わかないでもないけど、生活空間はただの家だから! 中は一般の家とかわんねぇから!!

「ハク!」

 ちょっと強めに名前を呼ぶ。ゆっくり歩いてるけど、そろそろつくからね!? 正気に戻って!!

「あ……あぁ、えっと、あ、アップルパイ?」

「へ?」

 あ、アップルパイ? 作れるけど、え? お菓子やん。結構お腹にたまるけども!?

 ハクは思わず言ってしまったようで、自分の言ったことを理解して若干顔を赤くしている。

 おや? 動揺してるの、丸わかり。やっぱりハク疲れてんのかな? ポーカーフェイスが崩れまくり。

 まいっか。ちゃんとした俺の家の扉に鍵を差し込んで回す。

「んー、作れるけど時間かかるからどうする? ってか主食系! ちゃんとした飯食え!! サラダは出すかんな! 野菜を食え!」

 いや、お前には肉が必要か? 美人だからいいけど、痩せすぎはどうかと思うぞ!

「ん、うん……」

 取っ手を押して、ドアを開ける。

 この家、見た目は西洋の城とかっポイけど、ドアは普通のマンションのようになっております。ここは普通の生活空間って言う意味です。

 隣の二ブロックと一ブロックの方はファンタジー風に。そっちは基本的に製作用の棟なんだよね。塔は知らん←

「ま、ハクサンいらっしゃーい!! 俺んちへようこそ」


 本当、俺の家って、よくわからない構造になっている。

「んと、この家ね、L字型になってるんだ」

 手で形を示しつつ説明する。

「正面から見て、四等分して、左二ブロック、右一ブロックずつ。んで、左の二ブロックの、はじっこは奥にも伸びてて、L字。ここまではオーケ?」

 ■

 ■■ ■ ■ こんなん?

 正確に言えば鏡文字になるんだろうけど、まぁ、細かいとこはいいよな。

「生活空間は右から見て二ブロック目。ほら、中は結構普通だろ?」

 玄関で靴を脱ぐところがしっかりとある。まぁ、アイテム欄にしまうから雰囲気だけだけど、靴箱もあるぜ。

 実は靴のまま歩いても一定時間経てば綺麗になるし、あんまり関係ないんだけどなー。日本人として、家では靴脱たい人なのよ俺は。裸足最高。

 床はフローリング。壁は白っぽい壁紙。

 玄関は行ってすぐに二階へと続く階段があって、手前から奥に向かうような階段が右に、左には廊下が伸びている。

 現代日本の普通のおうちと変わりません。結構広いとは思うけどさ。

「突き当りがリビングダイニングキッチンで、右の扉が畳の部屋。左の手前の扉がただの部屋で、左の奥がお風呂ね」

「ふろっ!?」

「え、う、うん」

 風呂への食い付が半端じゃなくて、思わず引き気味で頷いてしまった。

「……」

 今のハクの顔、顔文字のポカーン状態。

 ( ゜д゜)←これこれ

 え、なんで?

「え、えっとー、とりあえず、今はそんなもんでよろし? 何食べたいか決まった?」

 リビングへのドアはすりガラスのはまった木のドア。ちょっとオシャレじゃね?

 それを押し開けながら聞く。

「あ、じゃ、じゃあ……オムライス?」

「できるぜ。ちょっと待っててな」

 リビングダイニングキッチン。長いなぁ。でもめんどくさくなっちゃって、ほとんどここに必要なの集めちゃって、こうなっちゃった☆

 ちょっと狭い対面キッチン、その前にあるテーブルとイスが四客のダイニング(?)、その前には二人掛けと一人掛けのソファと低いガラステーブルっていうリビング?

 横に長い部屋だけど、左にキッチンがあって、ブロック分けしたみたいに縦配置。……言い方が難しい。

 キッチンの方に俺は引っ込んで、ハクにはダイニング的な部分の椅子をすすめる。

 ダイニング的な部分の机と椅子は木で作られたセット。これも手作りです!!

 リビング部分はモノクロで、白黒チェックのカーペット、黒いソファに、テーブルは足の部分が黒で、ガラスは透明。これは全部買った。テーブルに一目ぼれしてよさげの全部そろえたんだ……!!

 はい、無駄なこだわりね。キッチンとダイニングとリビング、全部一部屋にぶち込んだくせにね。

 あ、そうそう、部屋に入ってすぐだと、ちょうどダイニングとリビングの境あたりに出るんだけど、そのまままっすぐみると大きな窓がある。

 カーテンは黒、外の景色は庭。……小さな畑となんかの小屋が見えるよー。何かってなんだとかツッコんじゃだめねー。

「あ、ハクってなんか食えないもんある? アレルギーとか。あと嫌いなもん」

 オムライスにそんなアレルギー物質は入ってないと思うけど、聞いとかないとだめだった。

 もうすでに野菜は切ってあるし、米と一緒に炒めてしまったけど!! 人参と玉ねぎとコーン! 肉はベーコンです!!

「大丈夫」

「おや、作りやすくて助かるなー♪」

 苦手なもん多いと味消すのとか大変なんだよねー。え? アレルギーじゃないならもちろん食わせるけど?

 てか、ゲームでアレルギーとかあんのかな? あー、でも思い込みで人は死ねるって言うし、気を付けとこ。

「ハクー、スープも飲む? 野菜たっぷりだけど」

「もらう」

「んー」

 圧力鍋っぽいのに野菜をぶち込んで煮込んでいるスープ。キャベツと玉ねぎと人参とセロリのコンソメ味。うん、大丈夫。現実と一緒。

「オムライスの卵はふわふわ系? それとも薄く、巻きつける感じ?」

 ちなみに俺はふわトロ派。難しいからトロっとできんのは貴重だけどな……。

「どっちでも……」

「んー……じゃ、ふわふわでいい? 火はよく通す?」

「よく焼きで」

「りょかーい」

 生の感じが苦手って人多いからな。ハクも即答するってことは苦手みたいだし、聞いといてよかった。

 卵をふわふわに焼いて、先に盛り付けておいたチキンライスの上に盛り付ける。スープも一緒にハクの所へ持っていった。

「はいどーぞ、俺特製オムライス定食~」

 ちょっとしたお茶目で国旗の飾り付ww

「いい匂い……いただきます」

「召し上がれ」

 飲み物は麦茶でいいかな? てかすぐにできんのは、他には水とかジュースしかないし……あ、水のがいいか?

「ハク? 水とお茶どっちが……ってどうした!?」

 キッチンに戻ってコップを取っていた俺はテーブルにいるハクを見て驚いた。

 オムライスを一口食べたんだろう、スプーンを口に含んだまま固まっている。

「まずかった!? 嫌なら出してもいいからな!?」

 一応味は確認したけど、そうだよね、ハクの口に合うかどうかはわからないもんね!!

 ハクの傍に膝をついて、顔をうかがうけど、ハクは首を振るばかり。

「ハク……」

 名前を呼ぶけど、何も言ってくれなかった。

「……」

 そしてハクはスプーンを口から出して、ゆっくり咀嚼し始める。

「無理して食べる必要はないからな?」

 ぶんぶん、首を振る。

 なんとか、って表現が正しいみたいに口の中のものを飲み込んで、ハクはスープも口に含んだ。

「……」

 何も言えないでいる俺。逆に何を言えって?

 固まっている俺を前に、ハクはスープも飲み込んで、涙をひとしずく落とした。

「ハクっ!? ちょ、まじで、だいじょぶか!?」

 焦って立ち上がっておろおろしてしまう俺だったが、ハクの小さな声が聞こえて、いったん落ち着くことに。

「ち、ちが……ご、ごめっ……」

 ハクはしゃくりこみながら必死に言葉を紡ごうとして、失敗したように喉をひくつかせた。

「気を使ってんなら……」

「ち、ちがくて、お、おいしくてっ……」

「え?」

 俺の思っていた答えとは違ったけど、そうとは思えないような言葉で、あぁ、どうしたらいいんだろう? どうしてあげたら正解なんだろう?

 ……俺が結構知ってると思ってるハクでさえ、壊れてしまうのが怖くて手を出すのをためらってしまうのに、俺はアリス嬢とかまでどうにかできるの?

 あぁ、帽子屋はこんな気持ちだった?

「あ、ありがとっ、クロ……っ」

「え?」

 暗い思考に染まりそうだった俺を救ったのは、ハクの突然のお礼。それに俺は間抜けな声しか出てこない。

「お、俺、心細くって、それで、ご飯もおいしくなくて、だから、もうヤダって思ってっ」

「おいしくなかった?」

「ちがっ、くろのは、おいしい、からっ、だから、おれ」

 あぁ、そうだよね、ハクは言葉が出にくいんだった。結論焦っちゃダメダメだ。それを忘れるなんて、俺サイテー。

 またハクの横にしゃがんで、背中を撫でてなだめながら、俺はやさしく声をかけた。

「ゆっくりでいいよ、ハク。ゆっくりで。少しずつでいいよ。話聞かせて?」

 最初の時って、どう声をかけたんだっけ? そう、とにかく焦らせないように。俺が焦ったらハクも焦っちゃって、余計話せなくなるんだから。

 まずは俺が落ち着かないと。

「あ、のねっ、もう、おれ……」

「うん?」

 ドモるハクに、低めの落ち着いた感じの声で続きを促す。ゆっくりでいいからって思いを込めて。

「一人で、寂しくて……っ」

「うん、ごめんな。早く迎えに行ってやればよかったな?」

「ううんっ! ちがっ、いいの、来てくれただけで、いいのっ」

「うん、そっか」

 背中を撫でていた手を、少し調子を変えてぽんぽんと軽く叩くようにしてみた。

「あ、ありがとっ、クロ」

「うん、これくらいいいんだぜ、ハク」

 しゃくりあげることが少なくなったハクは続けて言葉を紡ぐ。

「お腹減ってね、痛くてね、眠れなくてさ、心細くなっちゃって、辛くて、悲しくて、寂しくて、どうしたらいいかわからなくて」

「うん」

「もう頭回らなくて、何も考えられなくて、なんか怖くて」

「うん」

「それで、クロが来た」

「俺?」

 夢の中で微笑むような、ふわふわした顔のハクを見て、あぁ、ギリギリだったんだって思った。

 もう一日、半日でも遅かったら、きっとハクの心は何も考えない、凍りついたまま、そのままで固まっていたような気がする。

 パキッて割れて、壊れてしまうところだったのかな。

「そう。助けてくれた。また、手を差し伸べてくれた」

「……そう」

 何でだろ? 最近よく思うけど、今の言葉はよっぽどだ。重い。それが枷って言う意味じゃない。けど、俺の存在がハクの中で大きいのを感じて、すこし怖いと思う。

 俺はそんな人間的に大きくはない。なのにそんなに大きく見せてしまって、俺はハクに癒えない傷を負わせるのかもしれない。それに恐怖を感じる。

 それでもきっと俺はハクが助けてほしいと思ったら全力で助けてしまうのだろうけど。それでまた大きく見られてしまうのだろうけど。

 ハクは、それで本当にいいのだろうか……?

「うん。ありがとう、クロ。クロはね、俺のヒーローなんだ」

「ぷっ、なにそれ」

 突然の子供っぽいヒーロー発言に、思わず吹き出す。

「笑わないでよ。本当のことなんだから」

 ぷくっとふくれる頬をつついて、ニヤニヤ笑ってしまう。

「まぁったく、ハクは俺を買いかぶりすぎ」

 俺は少し立ち上がってハクの頭をかき混ぜる。細かい飾りが音を立てて絡まった。

「うわっ!?」

 依存もヤンデレも別にかまいやしないけど、いや、ハクがそういうのかどうかはともかく、相手を傷つけることに、一番俺は恐怖を感じる。それでも俺は自由にやるんだろう。行動を制限されるのを俺は一番嫌うから。

 これでいいのだとハクが思うのなら、俺は気にしない。まともな道を示しはするだろうけど、俺は俺の行動を確保しながら相手の意思を尊重したいと思うから。

「病は気から。元気がないとダメダメだぜ? んで、お腹が減ってると、元気なんて出ないっていうのが世間一般の認識だ。っつぅわけで、飯食え! 口にあったんならな」

 腹減ってるって言ってたし、しっかり食べてもらわないとね。

「……おいしいよ」

「あんがと。なら食え! そんで風呂入って寝ろ!! 栄養と休息とったら、きっと明日には元気になってるさ。そしたら……もうちょっと楽しいこと考えられるよ」

 ハクが吐き出した言葉はほとんどネガティブだった。だから願いも込めて、ポジティブな道も示してみる。

「……ありがとう、クロ」

 それにこたえるハクの顔は、まだ夢のなかみたいにふわふわしていた。

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