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道化と冠  作者: 青螢
30/69

クロ=大富豪? ~Side・White~

 あけましておめでとうございます。

 今年もよろしくお願いします。

 ……しょっぱなからハク様うだってますねーあは(遠い目

 広場の封鎖が解かれて、クロを追って、話して、逃げられて、それから。


 途方に暮れた。どうしたらいいかわからなくて。目的もなかったし、こんなことになるなんて思ってもいなかったから。

 もう少しクロと話していたかった。クロがいれば、安心だと思えるから、癒されるから。だから逃げられて、少し怒った気分になった。見捨てられたと思った。

 でも、気づいた。最低だよね。俺の勝手に振り回される必要、クロにはないんだ。俺の我がまま押し付けちゃいけない。

 少し、弱気になってたみたい。心細くて、しがみつきたかっただけみたい。

 これじゃダメだって、頑張ろうとして、でもふらふらして行き着いた先はクロとよく過ごしたあの『妖精の箱庭』で。

 俺は無意識でもクロを求めていた。困ったなぁ。

 もう、こんな弱い俺が嫌だ。強くなれない俺が嫌だ。せめてゲームの中ではがんばろうって思ったのに、そうそう変われなんてしないんだ。

 クロはやっぱりすごいや。ちゃんと自分で行き先を決めて、歩いていけて。俺はその姿に憧れたんだ。

「だから、すがって、止まらせちゃダメ。絶対だめ……」

 チャットがおかしくなっててよかった。じゃないとすぐに指が伸びてしまいそう。

 切株に座り込んで夜明けを待つ。

 夜だから、余計怖いんだ。きっと、明るくなったら大丈夫。少しくらい、前向きに考えられる。

 綺麗なこの庭は、俺の心を励ましてくれるようだった。


 朝が来た。ちゃんと日が昇った。ただのゲームなら、夜時間の次は昼が来るだけなのに、ちゃんと朝が来た。ゆっくり太陽が真上に向かうのがわかる。

 一睡もできなかった。お腹減った。気分は悪い。気持ちも悪い。

 ステータス画面を開くと、時計が動いていた。今は六時くらい。すっかり朝のよう。

「……街に行こう。朝ごはん……。宿、ベッドじゃないから眠れないんだきっと」

 目的を決めて、切り株から立ち上がった。体中からバキバキ音がする。

 そりゃそうだよね、座ったままずっといたんだから。……あぁ、リアルっぽくて、ヤダな。でも、いいのかな……?

 ダメだ、思考が暗い。きっとお腹減ってるからだ。眠ってないからだ。疲れてるからだ。ダメだよ。頑張らないと。

 クロの忠告を思い出して、とりあえずフードをかぶって街へ歩き出した。

 正直言って街の状況も最悪。淀んで暗くて、こっちの気分まで沈みそう。

 気分転換も兼ねて街に来たのに……逆効果じゃないか。

 仕方ないからまず宿を探した。けど、どこにも空きがなかった。

 街に人があふれて、何もせずに座り込んでいるのはそのせいかもしれない。宿に入れないから、行き先もなくて、路地とかに座り込んでいるんだろう。

「『妖精の箱庭』があってよかった……」

 もしくは、あそこにセーフゾーンがあってよかった。ただのフィールドだったらモンスターに襲われて、気が休まらなかっただろうし。

 本当、そこらに座り込んでいるような人たちと同じにならなくてよかった。

 俺はまだ、大丈夫。

 なんて最低なことを考えながら、パンとヨーグルトとアップルパイを買った。

 あんまりお菓子は食べないから、興味で買ってみたけど、ただのゲームだったら味なんてしないんだよね。ちょっと無駄遣いしちゃったかな?

 行く場所もないから、またあの庭に戻る。

 道すがらイチゴっぽいものがなっていたので、一つだけとって齧った。

「あまい……」

 真っ赤に熟れたイチゴの甘さだ。一番甘い時のイチゴ。

「……ふふっ」

 おいしい。ただのイチゴがこれだけおいしいなら、アップルパイも楽しみ。

 イチゴをあと何個かとって、切株に座った。

 まずもとからアイテム欄に入ってた水を取り出してのどを潤す。

「ぷはっ……うん、水」

 天然水とかの味がする。……あ、天然水だ。

 喉も潤ったのでパンを食べる。

「!?」

 触感はパンだった。ちょっとパサついてるけどふかふかしてる。でも、味が……。

 す な

「げほげほっうっえぇ……」

 パンを吐き出して水で口をゆすいだ。

「なにこれ……」

 風の強いときに砂が多い所を通った時の不快感が残ってる。じゃりじゃりはしてないけど、あれを思い出して気持ち悪くなった。

 味はある。あるけど、まともじゃない。

 食べる気が起きない。砂なんか食べられない。

 ……でもお腹は減ってる。

 もしかしたら、他のは美味しいかも?

 なさそうな希望を持ってヨーグルトとアップルパイを試したけど、やっぱり食べ物の味はしなかった。

 特にアップルパイ。中のリンゴジャムは強烈に苦くて、舌がしびれるほどだった。どろりとしてるから余計不快さが増す。

 もうやだ。食べたくない。いらない。

 お腹は減ったけど、無理。これは無理。

 仕方なくさっき拾ったイチゴ数個だけを食べて空腹を紛らわす。逆に満足が遠くなった気もするけど、何も食べないよりましだろう。

 イチゴは甘くておいしかった。少し心が慰められる。

 疲れた。頭が痛くなってきた。寝不足だ。でも眠りたいとも思えない。

 ……もう何かをする気力なんてない。何かをして酷い結果になるのが怖かった。

 俺はただただ切株に座っていた。日が頂点まで登って、降りてきて、沈んだ。それでも俺は座っていた。

 何も考えなかった。何も感じないように努めて、現実から逃げていた。

 でも一度、気が付いたら神殿にいた。あれ、なんでだろう?

 よくわからなかったけど、心が冷え切っていた。寂しすぎて、混乱して、綺麗なステンドグラスがはめられた居心地のいい神殿のはずなのに、ここが怖くて怖くて仕方なくなってしまう。

 現状を把握していないまま神殿を飛び出して、『妖精の箱庭』に戻った。

 いつもの切株に座って、うずくまって、目からあふれる雫もそのままに体を震わせていた。

 やだ、嫌。怖い。寂しい。一人は嫌。助けて。助けて……

 ……クロ……。

 そんな時だ。求めて求めて仕方なかった、あの声が聞こえてきたのは。

「ハク?」

「っ!?」

 最初は幻聴だと思った。嘘だと思った。俺が考えた、バカげた幻想だって。

 でも振り返ったら、ちゃんとクロがいた。心配そうに立っていた。

 それを見て、あぁ、俺のこと忘れていたわけじゃないんだ、見捨てられてなんかいなかったって、安心した。そしたらまた少し涙腺が緩んじゃった。さっきやっと止まったところだったのに。

 あれ、そうだ。いつの間にかちゃんと止まってたのに。また泣いちゃ……

「ハク!? どうした!?」

 あぁ、ダメなのに。泣くなんて。心配させちゃう。

「なした!? 痛い? 辛い? なんかあった? だいじょぶか!?」

 クロは急いで近寄って来てくれて、しゃがんで俺の方を見上げてきた。

 ほら、本気で心配してくれる。この人は優しくていい人なんだから。ばかだよね、俺って。見捨てられるなんて、バカだ。そんなの考える必要なかった。

「だいじょ、ぶ……」

「ホントかよ!?」

「少し、疲れただけだ」

 うん、寝不足で、お腹も減って、だから弱気になってただけだよ。クロが優しいの、疑っちゃってごめんね。俺の方が悪い奴だったよ。疑う必要なんてないの、すぐわかるのに。

 俺、本当、最低……。

「そうか? それならいいんだけど……」

「クロは? 大丈夫か?」

 こんな俺より、クロの方が心配。優しいから、変な面倒事とかに巻き込まれてない? ちゃんとご飯食べた? 眠った? 体大丈夫?

「大丈夫だぜ。心配してくれてサンキュな」

 柔らかく口が弧を描く。カッコいい、いつものにやっとした笑いもいいけど、こういう時にみせる安心させてくれる優しい笑みも大好きだ。

「んんん。クロが大丈夫ならいいんだ」

 よかった。クロはやっぱり大丈夫だった。強いから。

 ……それに比べて俺は……。

 また潤みそうになる目を隠すため、あとはまっすぐにクロの顔を見れなくなって、だんだん視線を下げた。

 ごめんクロ。ごめんね。巻き込んじゃって、ごめんね。俺、汚い。ごめん……。

 言ってはいけない思いと自己嫌悪を封じ込めるために下唇をかんで堪える。

「ハク、お前行くとこあんの? もしかしてずっとここにいたりした?」

 図星をつかれて肩が揺れた。

 クロは困った子を見るように言葉をつづける。

「……飯ぐらい食った?」

「……食べた」

 正確には食べようとはした。

 クロの言ってるご飯を食べた、の意味とは違うから、悪いことをして叱られてるみたいに感じて視線をそらす。

「今の間はなんだ、ハクぅ?」

「く、果物を食事にしていいなら食べた」

 イチゴ数個……まともな食事じゃない。ちゃんとご飯食べないのは悪いこと。じゃあ怒られても仕方ない?

 違う? それよりも、最後に食べたのはいつだっけ? あれ、これって何も食べてないってこと?

「お前はダイエット中の女子か!」

 クロのツッコミが入る。

 スパッと切るみたいに、勢いもいいから、 帽子屋たちとかと話してるのを見てると楽しい。俺はあれに入れないのが少しさみしいけど。

 でも今は、痛いところを切られてしどろもどろになってしまう。

「だ、だって、ご飯美味しくない。食べる気がなくなる。果物は美味しい。だから……」

 いや、あのまずさだったらこの状況は仕方ないと思う! あれは無理!!

 自分のせいじゃないと思う原因で責められても、むっとしてしまうだけだ。だって仕方ないんだもん……。

「ご飯がおいしくないってさぁ……」

「ダメだ。砂みたい、絵具みたい、薬みたいな味がする。紙でも食べてた方がまし」

 俺がそう言うとクロは何か言いたそうにしたが、飲み込んで、考え込んで、いきなり咳き込んだ。

「ごほんごほん!!」

「く、クロ?」

 何? 何があったの?

「ナンデモナイヨ。で、ハク。なぁ、俺自分の家持ってんだ。だいぶ広くて、部屋も余ってる。どう? 一緒にすまね?」

「え……」

 一緒に?

 誤魔化された気がするけど、それを不安に思う余裕もなくなった。え、本当?

「おいしいかどうかはともかく、ちゃんとした味のする料理、食べさせてやるよ」

 料理はこの際どうでもいいよ。一緒にいていいの? 俺なんかが、一緒にいていいの? 本当に? 傍にいていいの? 一人じゃなくなるの?

「い、いいのか?」

「俺が提案してんだぜ?」

「でも、姿見せたくないのに?」

 そう、だよ。嬉しいからって、迷惑考えないのはだめだった。クロ、優しいから、俺のこと心配してくれる。自分より、俺のこと優先してくれる時がある。

 気を遣わせて、ごめん……。俺はクロに、姿を見せてもいいって思われるほどの信頼なんてないんだよね。

「気にしないでくれよ。俺が慣れるまで、少し待ってて。それだけの話。お前が嫌とかじゃないぜ? いやか?」

「べ、別に……。あ、でも、迷惑……」

 俺が嫌じゃないって言ってくれた。それだけで嬉しくて、頷きたくなるけど、やっぱり迷惑……。

「だーかーらー、俺が提案してんの。迷惑ならまず勝手に頑張れとしか言わねぇよ」

 本当? 本当に? 信じたいよ? 信じちゃっていいの? お世辞じゃないの? 迷惑じゃない?

 ぐるぐるぐるぐる考えて、でもやっぱりクロと一緒にいられるってだけで俺はそっちを選びたくなるんだ。

「ふ、不束者ですがよろしくお願いします?」

 そう言って頭を下げると、クロはとても微妙な顔をしてこうボソッと呟いた。

「クロは俺の嫁?」

 あれはどういう意味だったんだろうか……? あれ? 言葉間違えた?


 クロの家はヨモギの大陸にあった。街から離れた森の中を結構歩いて……見えたのはお城。

 え、城……!?

「じゃじゃーん。マイホーム!!」

「……これ?」

 お城に見えるんですけど……??

 二階建てで、正面から見る大きさは……普通の一軒家が四軒合わさったくらい? 左の方には五階建てくらいの塔もある。

 白いレンガっぽい壁には緑色の蔦がはっている。よく見ると真ん中より右だけは独立した一軒家みたいになっていて、そこのドアは現実の世界でよく見るようなガラスが付いた四角いドアがついていた。左の二軒分と、右端の一軒は上がアーチを描いた木のドア。こっちは絵本とかに出てきそう。

 塔も結構大きくて、こっちは紫色の蔦がはっていた。ラプンツェルの話に出てきそうだ。

「でっかいけど、使ってるのはほぼ真ん中らへんね。あっちの四角いドアの方。少し休んでから案内してあげるよ。ご希望の部屋はある? 好きなとこ使っていいからさ」

「……」

 い、いやいやいや!? く、クロさん!? すごい広いんですけど、そこはスルーですか!? それともこれが標準!?

 クロって大富豪か何かなの!?!?

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