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道化と冠  作者: 青螢
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ちょっとした誤解です

 マシロの大陸からサファイアの大陸に移動。

 さすがに落着け俺。と思って頭冷やしに来ました。サファイアの大陸は水っぽい地形が多いからね。水でも浴びてみるか。

 上流の、澄んだ川のエリアを選んで歩く。人気もないし、暗いし、ヒンヤリして、お化けでも出てきそうだな。

 んー、ヒンヤリ……ホント、体の感覚が現実と変わらない気がする。

 足の運びを邪魔する草の感触はもちろん、ちょっと湿った空気、ヒンヤリとした温度、澄んだ空気の匂い。そんなとこまで現実っぽい。現実っぽくなった。

 これだといろんな出来事は現実とあんまり変わらないと思ってた方がいいかもしれないな。ただのゲームだとなめてたらだめだ。

 川の流れが穏やかで、浅い場所を見つけて足を止める。

 近くにしゃがみ込んで手を入れてみた。もちろん手袋は外したぜ。

「ほわっ!!」

 冷たい!! 水浴びには向かないな!!

 濡れた手をマントでふく。うん、ハンカチかなんか持ってくりゃよかったな。……あ、アイテム欄に適当な布あったかもだったな……。

 地面はドロドロしていなかったので座り込む。

「ひとーつ。体の感触。現実っぽいね」

 色々気になることがある。検証してみようじゃないか。

「ってことは、痛み、どうなるんだろ……」

 誰でも装備可能なナイフを取り出して、左手首にはわせる。

 ナイフの刃、金属のすべらかさと冷たさと、鋭さ。

 刃の部分は少しざらついて、完全につるっとしているわけじゃないことを知る。

 もう少し力をこめればきっと簡単に切れる。無駄に攻撃力は高いんだから、このナイフ。レア度はノーマルだけど星だけは五つもあるからね。

 さて、どこまでが攻撃とみなされるか。

 ツッコミでどついたってHPは削れない。戦闘中に転んでも、HPは削れない。

 縫物の最中に針を指に刺したらちょっとHPは削れる。もちろん、戦闘中に武器が刺さったらHPは削れる。

 ここまでは、ただのゲームだった時の話。じゃ、今は?

 今この状況で手首切ったらHPは削れる? 痛みは? それとも、HPは削れない? 痛みも感じない? もしくは、HP削れても、痛くない? 痛くても、HPは削れない? どれだろう。

 手首にナイフを当てたまま思案する。痛いの嫌いなんだよ。でも気になるから絶対にやる。そう決めてるけど、ちょっと踏ん切りがつかない。

 HP削れなかったとしてもあれかなー。体力回復薬使えば治るかなー。なおんなかったらどうしよー。止血の用意だけでもしとくべきー?

 いやいや。そんなん考えてたらいつまでもできない! とりあえず当たって砕けろ!!

 ナイフを力をこめて肌に押し当て、一気に引k

「ちょっとまったぁぁあああ!!」

 そんな声と共に思い切りタックルされた。

「ぐはっ!?」

 思い切り地面に押し倒される。

 石っぽい地面じゃなくてよかった!! じゃなかったら確実に頭がんっ! ってなってたわ!!

 ナイフはどっか行った。結構使いやすかったのに……後で見つけないと。

「ゲームに閉じ込められたからって自暴自棄になるのはやめろ!? 生きてればきっといいことあるからっっっ!!」

 タックルしてきたやつは俺の上でなんかよくわかんな……い、ことはないな。うん、誤解させてしまったようだ。悪いな。

「絶対死ぬ方が辛いから! だからっ!」

「はーい! ちょっと待ってしょうねーん!!」

 上に乗っかってるのは小柄な少年だった。声と体格から判断。これで女の子だったらごめんよ。

「俺別に自殺しようとしてたわけじゃないから! 安心して!!」

 たぶん俺を止めるために一生懸命になってる少年に届くように声を大き目で言ってやる。

「え? だって……」

「ちょっと話し合おうか? 行き違ってるみたいだしな。んで、そろそろどいてもらえると助かるかなー……」

 俺よりも小柄だと言っても、そこまで変わらない。重い。苦しい。あぁ、この辺も現実? ちがうな。現実だったらもっと重そうだ。やっぱゲーム内の方が体力も筋力もあるだろうから……?

「あ、わ、悪い!!」

 あわてて退こうとする少年に、俺は制止をかける。

「飛び起きんなよ!?」

 それで腹蹴られたら笑えねぇ!!

「あ、あ、わかってるよ……!!」

 ほんとかよ……。

 ソロソロと俺の上から退いていく少年。

 髪は茶色でばさばさ。ところどころ跳ねている。目はタイガーアイみたいな金茶色。今は怒ってるんだか、照れ隠しなんだか、顔をほんのり赤く染めている。

 服は黒いベアトップに緑色のジャケット、ショートパンツにレギンス。頭には緑色の鉢巻をカチューシャみたいにつけている。……んー? 服装は女の子っぽいな? 元ネカマか? 腰には短剣が双振り。鍔の中央に大きな丸い石が取り付けられ、刃の部分が大きく曲がっている。アラビアンナイトとかに出てきそうだな。

「なんだよ」

 じろじろ見ていたから少年が怒ったように聞いてくる。

「ん? 失礼。初対面の人は観察したくなる主義なんだ」

「最悪だな」

「わるかったって」

 あー、この状況でナイフ取りにいったらあれだよなー。どうしようかなー。

「で、何してたんだよ! 危ないだろ!?」

 少年の説教タイムかなっ! 困っちゃうな! 早くナイフ探したいな!

「あー、切ったら痛いのかなーっておもっt」

「バカじゃねぇの!? そんなの気になったからって確かめるやつがどこにいんだよ!?」

 ……ここに!!

 とは言えないな。うん。少年の方が正論だ。

「あはは~。ご迷惑おかけしました」

 勘違いさせたのは俺なので、ここは微妙な顔しかできない。いや、神妙な顔して反省してます感出したら早く解放されるか……?

「まったくだ!!」

「ん~でもよ、確かめとかないと、いざという時びびっちまわね?」

 逃げられない戦闘が発生したり、不意を打たれて、それがすっごく痛かったらパニックでまともな行動すらできないと思うんだよなー。

「だからって……リストカットするやつがあるかぁああ!!」

「ご、ごもっとも……」

 反論の余地もねぇな。

「でもデスゲームじゃねぇんだから、大丈夫じゃねぇの? 死んだって」

 ゲームのシステムはまだ生きてるはずだろ?

「あれが本当とは限らねぇだろうが!!」

「あそこでわざわざ嘘を言うメリットがあるか?」

「知らねぇよそんなの!! こんなことするイカレタやつの思考がまともなわけねぇんだからメリットも何もねぇよ!」

 あー、そう言われるとそうかもな。

 でもなんか、俺はあいつが正気を保ってるように見えたんだよな。あのピエロっぽいのって、作ってるキャラじゃね?

 俺の気のせい?

「ともかく!! バカなことなんて考えんじゃねぇぞ!? 自分から死ににいくなんて馬鹿で阿保で、人類最低の屑なんだからな!!」

 少年はかなり怒っていらっしゃいます。怒髪天ってこういうこと言うのかな、違う? 違わねぇよな?

「そ、そこまで言う……?」

「あったりまえだろ!! この世には生きたくても生きられないやつとか、そんな気まったくなくても死んじまうやつだってたくさんいんだよ! 命粗末にすんじゃねぇ!!」

「……」

 なんか、恥ずかしくなるな。

 少年はまっすぐで純粋で、いいね、まだまだ子供だ。

 俺は……。

「お兄さん?」

 俺の雰囲気に気が付いたのか、少年が勢いを緩めて、気を使う様な声を出してくれる。けど何も答えられなかった。

「……」

「……」

「……」

「……ま、何があったか知んないけど、強く生きなよ? わかった?」

「んー。わかった」

 返事を聞いて満足したのか少年は去って行った。

 ……。

「あ、名前聞いてねぇや」

 なんだかなー。

 あー、もうなんかやる気そがれた。ナイフ拾って帰ろ。

 痛みに関しては家の付近でいいっしょ。針くらいにすればそんな危険はないだろうし。

 そうだよなぁ。リストカットは大げさだったな。ほっそい針でも十分痛みは感じるさね。

 フィールドと、家の中じゃまた別かもしれないし。いいや。かーえろっと。


 ……ナイフ、見つかんなかったお(´;ω;`)

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