気になる ~Side・White~
広場で、ピエロみたいなキャラがゲームを封鎖したとか言ってきた。
でも確かにログアウトのボタンはない。だから現実にそういうことが起こってるんだってわかる。
あぁ、本当に閉じ込められたんだ。ゲームの世界に。
そっか、そうなんだ。ちょっとの嬉しさと、恐怖感。
俺はゲームが好きだから、ずっとゲームをしていたいとか思ったことだってあるから、だから嬉しい気もする。
でも帰れないって思うと怖い。帰る場所に行けないって、怖い。安心できる居場所が現実にはあったから。
どうなるんだろう。どうするつもりなんだろう。
心細い。クロに会いたいな。連絡できなくなったから会おうと思っても無理だった。いろいろ探してみたけれど、闇雲じゃ意味がなかったんだもん。
ギルドの場所くらい聞いとけばよかった。
考え事をしている間にも、勝手にピエロは話を進めていく。
まったく聞いてなかったけど周りの叫び声と押される感覚で我に返る。
「っ」
何? 何事??
あれ? 周りの人の姿が変わってる。そういえば、さっきピエロの子が現実の姿に的なこと言ってたような……。
【まだ、ニガサナイヨ?】
さっきまで子供らしい表情でにこにこ笑っていたのに、今は全くの無表情。温度のないビスクドールみたいで、少し不気味。首も、折れたみたいに曲がってるし、気持ち悪い。
【ニゲタイノ? 死んだら、ニゲラレルヨ? シニタイ? デスゲームにしようか?】
ピエロの少女はある一方を見つめている。
視線の先を見てみると、アーチの上に人影がいた。そのあたりから金切り声が聞こえてくる。
逃げようとしてるの? だからピエロの子怒っちゃったの?
デスゲームってなんだろう? 死のゲーム? 死んじゃうの?
「あー、もうっ!! “怒れる悪魔に飲み込まれ 苦しみ味わう仔羊に 束の間の 仮初の 休息を。スヌーズ”!!」
アーチの上の人が眠りの呪文を唱えた。
「クロ……?」
声は少し違う。けど、クロだ。優しくて、凛とした、強くてしなやかなクロの声だ。
「騒いでるやつら黙らせろ! 死にたくなかったらなぁ!!」
あぁ、クロだ! やっぱりクロはすごい。皆パニックになってアワアワするだけなのにさ、冷静に状況を見て、最善の策をうってくる。周りを見て指示もできる。本当すごい。
周りもクロの言葉を聞いて、他の人を落ち着かせに走った。俺もクロに習って眠りの呪文を騒いでる人にばらまく。あの子を怒らせちゃいけないって、頭のどこかで感じてるから。
そういう動きが収まると、辺りが静かになった。
【うん、うん。いいよ。デスゲームにはしないね。それでいいんだよ。もう、最初からちゃんとヒトの話は静かに聞こうね? こっちにも限界ってのがあるんだよ?】
語尾に星もつけずにピエロの女の子がにっこり笑って言葉をつづる。
そうなんだ。よくわかんないけど、悪いことにはならなかったんだ?
その後ピエロっぽい女の子は意味不明な言葉を残して消えた。俺はクロの方を振り返る。
「!?」
俺が見たときに、ちょうどクロは後ろ向きに落ちていくところだった。
急いで人をかき分けてアーチの方向に走る。誰かの足を踏んだり、怒鳴り声が聞こえてきたけど、今それどころじゃないんですごめんなさい。
アーチまでは遠くもなく近くもなく、だった。でも人が多かったからアーチにたどり着くころにはクロの姿は見えなくなっていた。
「……」
むっ、どうしよう。
……ちょっとストーカーっぽいけど……ピアスの魔力をたどってみよう。クロに贈ったピアスには、俺の魔力がこもってるから。そ、そういうために作ったんじゃないけど、何かあったらと思ってそう言う手段は……って、言い訳がましすぎ?
でも、こういうことができるって、本当に魔法使いになったみたいですごいよね。
「フィジィ、お願い」
いつもの杖を出して上についている蛇に頼む。
蛇の赤い目が開き、杖から俺の方にすべってくる。青い石みたいな体なのに本物の蛇みたいに滑らかに動くから不思議だ。
「クロ、どこかな? 俺の力がこもってるピアス持ってるはずなんだけど」
蛇は一つ瞬きをしてある方向に顔を向ける。
「あっち? 道案内お願いね」
気持ち丁寧にフィジィにお願いした。
この杖にはちょっと、高い人工知能? が搭載されているらしくて、あんまり命令口調が過ぎると機嫌を損ねてまったく協力してくれなくなったりする。気難しい杖だ。もう。
その分性能は良くて、フィジィの案内の通りに駆け足で色々な路地を通り抜けて、しばらくすると声が聞こえてきた。
「あぁぁあああぁぁぁあぁぁぁああ~」
あ、クロの声だ。
「ありがとフィジィ。おやすみ」
瞬き一つで返事をして、蛇は杖に戻る。
大分魔力が持っていかれた。なんか気怠い、どんよりした感じがするけど、何でだろう?
少し息を整えてから、杖をしまってクロのいると思われる路地を覗く。
「……クロ?」
「っ?」
路地は暗くて、クロの服も黒いからなんかよくわかんないことになっていた。
というか、素肌が見えない。いつもノースリーブにマントっていう暑いんだかさむいんだかよくわからない恰好なのに、今は完全防備。マフラーや手袋までして、布の塊みたいになってる。ど、どうしたの?
「ハク、大丈夫だった?」
クロが座り込んだまま俺の方を見上げて、心配そうに尋ねてくる。その声は疲れていて、でも俺の方を気にしてくれるのが嬉しかった。
「問題ない」
本当は座り込んで、いつもクロがしてくれるみたいに視線を合わせたかったけど、少しくらついて座ったらもう立ち上がれなくなりそうだから、もう少しこのままでいる。
「んー、じゃ、なんで?」
「?」
「ハク、なんで俺が黒鷺だってわかったんだ?」
クロが不思議そうに首をかしげた。
「声」
「声?」
「騒動を収めたの、クロだろ? その後、追いかけて、今の声」
見つけたのはフィジィのおかげだけど、クロだってわかったのは声だけだから間違ってはいないよね?
「俺声変えてたと思うけどなぁ? よくわかったね」
「クロは正義だから」
自分も危ない状況でも、周りがどう思っていても、自分の信じることをするのがクロだから。
パニック収めたときみたいに、凛とした声で正義を貫く。最初も、それからもずっと、助けてくれた。クロは俺のヒーローなんだよ。
「うん?」
「俺はクロのこと、間違えない」
間違えたりなんてしないよ。だって俺はクロのことずっと見てたもん。
って、自分のことはどうでもいいんだよ。クロ、疲れてるよね? 雰囲気、なんか険しいもん。
「クロこそ、大丈夫か?」
「あー、無問題」
「本当か? クロはすぐ無理する」
クロの視線はよくわからないけど、少しでも合わせたくてしゃがんでみた。そろそろくらくらも大丈夫になったし。
というか、ずっと上向いてるのはつらかったよね。ごめん。すぐ気が付かなくて。
「それぁおま……ぶふっ!?」
しゃがんでたぶん視線が合った、と思ったらクロが噴出した。
何事!?
「!?」
「お、おま、まじで!?」
「??」
「わ、わーぉ。あの顔でまったくいじってない……って、わあーぉ……」
は、話が見えない……クロはしきりに感嘆? 感心? なんかよくわからない声をあげる。
「何?」
「いんや~、なんでもないけど。その顔はちょいっと毒だなぁ」
「毒?」
どういう意味? クロ、俺の顔嫌いなのかな……?
それはやだな……素の顔だとだめなの? 嫌われたくないな……。
「綺麗すぎ。んー、今んとこどうなるかわからないけど、なんかあったら困るよなぁ……?」
綺麗すぎ? 顔が? ??
嫌われたんじゃないなら、いっか?
「んー、ま、ハク、変なことに巻き込まれないように気をつけろよ」
「? わ、わかった?」
変なことってなんだろう? そういえばさっき襲われるって……襲われるって何?
「ハクはアバターまんま? なんも変えてないのか?」
「変え方がわからなかった」
「そっか。じゃあすぐにハクだってわかるな」
現実の人たちに? それともゲームやってて知り合った人たちに?
……そういう人はあんまりいないけど、そうだね。
「クロは?」
そうだ。クロの顔はどうなの?
「……」
ちょっと気になったから聞いてみたけど、沈黙された。
「あー、どうだろうな?」
適当に誤魔化されると、余計知りたくなる。
隠してるから、あんまり詮索するべきじゃないんだろうけど、でも……見てみたい。
「顔、見たい」
「俺の顔? だめー」
「何故?」
よくよく考えればしつこいよね……。
「超ぶっさいくだから」
「見たい」
不細工でも関係ないと思うんだけど。クロはクロじゃん。
……だったら顔見せろってこだわる必要はないんだけど。
「……お前ねぇ、自分の顔をしっかり鏡で見てみてよ? すんごい美形なの。だからね、そんな人に見せられるようなもんじゃねぇのよ。俺のちっぽけなプライドとか、なんか、そういうのがずたぼろになるから嫌」
「……」
よくわかんない。
「それに俺は俺の顔が嫌いなの。だから、うーん、今はまだ整理つかないし、封鎖が解かれるのがかなり先になるって言うならずっと顔を隠していらんないから、その時は晒すよ。だから今はだめ」
「……わかった」
やっぱり聞いちゃいけないことだったみたい。押さえられてはいても、わかるよ。イライラがにじんでる。
それでも茶化したみたいな軽い声で言ってくれる、クロはとても優しい。
「ごめんな、ハク。俺そろそろギルド戻らないと。逃げてきたらからさ、副マスにどやされそう。だから、行くよ。また会う時まで元気になっ」
さすがにうざかったよね。クロはそう言って逃げていってしまった。
……。
ごめん、クロ。俺、我がままで、子供で、最低だった。
ごめん、ごめんなさい。
でも……。
「クロのこと、もっと知りたかったんだよ……」




