逃げてばっか
だいぶ走った。息が切れて、体がだるくなるくらい。体力だって限界。
HPって意味の体力じゃない。現実世界に近づけたって言ってたから、たぶん、その影響? 精神的なモノかもだけど、とにかく疲れた。
ここんところ、ゲーム&仕事三昧で体動かしてなかったし……現実世界の体力がこっちにもってこられたとしたら、即行で体力切れても仕方ないよな~。
「はぁ……」
暗くて細い裏路地に座り込んで、肺の中の空気を全部吐き出す。
まだ息は切れてるけど、ゆっくり深呼吸をして無理やりにでも落ち着けた。
「……」
背中を壁につけたら足はギリギリ伸ばせないくらい。二人の人間がぎりぎりすれ違えるかどうかってくらいの細い道。
狭いとこのが落ち着くわ……。
「これからどうすっかな……」
独り言で気が付いた。声も現実のものと変わってる。あー、少し変えてたのによぉ……。めんどくさい。
片方の足を抱えて、もう片方の足は投げだした。
胸の所が少し圧迫されて、心臓がまだドクドクいってるのがよくわかる。緊張でもしてんのかね? 不安がってんのかね? キャラじゃないなぁ。
「あぁぁあああぁぁぁあぁぁぁああ~」
もうなんだかイライラしちゃって、またグルグルしそうだったから息を死ぬほど吸って、ちょっと止めてから声と一緒に吐き出した。
これでどうにかなるわけじゃないけど、少し頭がくらっと、すきっとしたからよしとする。
「……クロ?」
「っ?」
いくらこの路地は暗いって言っても、表の道は明るい。だいたい暗くて何も見えないんじゃゲームできないしね。洞窟とかの真っ暗闇以外ならゲーム特有の視界補正が入るからある程度見えるんだよ。
と言っても逆光だから、そいつが俺に声をかけてきても、顔ははっきり確認できなかったんだよなー。
ま、声と雰囲気で分かるけど。
「ハク、大丈夫だった?」
立ち上がる気力がわかなかった。
俺は座り込んだままハクの顔を見上げてヘラリと笑う。……って、見えないよな。フードとマフラー……。
だけどフードをあげるつもりも、マフラーを下げる気もない。
「問題ない」
ハクはしゃがみもしないでそう答えた。雰囲気で、とても心配してくれているのがわかる。
「んー、じゃ、なんで?」
そういえば、ある疑問に気が付いた。
「?」
「ハク、なんで俺が黒鷺だってわかったんだ?」
顔見えないようにしてたのに!! 意味ないの!? だったら止めるよ! ダサいもんな!!
「声」
「声?」
「騒動を収めたの、クロだろ? その後消えたの追いかけて、今の声」
あー、耳いいねー……。
広場でのパニックの時に女性を沈めたときの声で俺だってわかったんだ。その時にはアーチの上にいたからな。探すのは簡単だっただろう。
どこにいたんだかは知らないけど、その後しっかり俺の後を追って、今さっきあーあー言ってたのを聞かれた、と。
今のは聞かなくてよかったのに! ハズイじゃねぇか!!
あれ? そっか。気づかなかったけどパニックの時にはもう現実の声だったのか。だから? いやいや、その前にじゃあなんで俺だって思ったの? 百八十度変えてるわけじゃなかったけどさ? 少しは違うぜ?
「俺声変えてたと思うけどなぁ? よくわかったね」
ハクが来てから少しゲーム内の声に近づけてるつもりなんだけど、無駄かな? ならやめるか、どうしようか……。
「クロは正義だから」
「うん?」
少し思考に沈みかけたけど、突拍子もない謎の言葉を聞いて浮上する。
俺が? この俺が? ナイナイ。
「俺はクロのこと、間違えない」
完全に言い切りやがった。なんで? どうしてそこまで信頼してくれるわけ?
……。
ダメだ。こんなこと考えちゃだめだぜ、俺。ハクは純粋ちゃんなだけで、懐いてくれてるだけなんだから。
「クロこそ、大丈夫か?」
ハクが俺の雰囲気に気付いてるのかいないのかは知らないけど、話を変えてくる。
「あー、無問題」
「本当か? クロはすぐ無理する」
そう言ってハクはやっとしゃがんで視線を合わせてきた。
「それぁおま……ぶふっ!?」
ハクの顔を見て思わず吹き出しちまう。
「!?」
驚かせたみたいだけど、今はそれどころじゃないっつぅの!!
「お、おま、まじで!?」
「??」
「わ、わーぉ。あの顔でまったくいじってない……って、わあーぉ……」
バカみたいにわーぉ、しか言えねぇ。わー……ぉ……。
顔が近くになったことによってハクの顔をしっかりとみることができた。
ハクの顔は全く変わってない。つまりは、超絶美形のまま。それが素の顔。まじか……。
いいか? ただの美形じゃないぞ? 超! 絶! 美形!! だからな? 大事なことなのでもう一回……え、もういい? ……ともかく!! これは……うん。人間離れ。モデル? 俳優? いやいや。そんなレベルじゃねぇくらい。
あれだよあれ! よくいうかもしれないけど、神様とやらが丹精込めて作った、お人形? 彫像? どっちでもいいか! そんな感じ!! マジありえねぇくらいの美形さん!! 男だけど!! ……もったいない……。
でも雑誌でもネットでも見たことないな。世間がほっときそうにないと思うんだけどなー。
「何?」
「いんや~、なんでもないけど。その顔はちょいっと毒だなぁ」
「毒?」
「綺麗すぎ。んー、今んとこどうなるかわからないけど、なんかあったら困るよなぁ……?」
襲われたり……しないか。うん。ハク強いし……でもなぁ、こんだけ綺麗だとな。厄介事は舞い込んできそうだな。
美形でチートで性格はちょっと難アリかもだけど……超優良物件だな。妬みもすごそうだぜ。天は二物をお与えに……!!
「んー、ま、ハク、変なことに巻き込まれないように気をつけろよ」
「? わ、わかった?」
ま、これはどうしようもないだろ。放置。本人の注意力が大事。無自覚だから怖いんだけどな!!
「ハクはアバターまんま? なんも変えてないのか?」
「変え方がわからなかった」
「そっか。じゃあすぐにハクだってわかるな」
「クロは?」
「……」
話のチョイスを失敗したことに気が付いた。
そうだよな。大半は聞いたらお前は? って聞き返されるよな。なんでこう軽はずんじゃったのかなぁ!!
「あー、どうだろうな?」
「顔、見たい」
今日はちゃんと主語を言ってくるなぁ。逃げ道ドコー?
「俺の顔? だめー」
「何故?」
「超ぶっさいくだから」
「見たい」
なんでそこ譲らねぇんだよ!! どうでもいいだろ!?
うっかりしたら怒鳴りつけてしまいそうなイライラを蓄積してて、でもそんなのやつあたりだから。ハクは信頼してくれてるんだ。そんなことしちゃダメ。
だから俺はなんでそこまで頑固なのかっていう呆れを強く意識して、回避するための言葉を選んでいく。
「……お前ねぇ、自分の顔をしっかり鏡で見てみてよ? すんごい美形なの。だからね、そんな人に見せられるようなもんじゃねぇのよ。俺のちっぽけなプライドとか、なんか、そういうのがずたぼろになるから嫌」
「……」
「それに俺は俺の顔が嫌いなの。だから、うーん、今はまだ整理つかないし、封鎖が解かれるのがかなり先になるって言うならずっと顔を隠してらんないから、その時は晒すよ。だから今はだめ」
「……わかった」
説得成功。やったね。たぶんわかってないんだろうけど。
もうだめだ。これ以上話してたらマジ八つ当たりしそう。
変なとこ突っこまれる前に逃げるに限る。
「ごめんな、ハク。俺そろそろギルド戻らないと。逃げてきたらからさ、副マスにどやされそう。だから、行くよ。また会う時まで元気になっ」
勢いをつけて立ち上がり、ハクの返事も聞かずに走り去る。
ほんと申し訳ない。けどさ。俺もいっぱいいっぱいなんだよなぁ。
心配して追いかけて来てくれたんだろうけどさ、ごめんね。
黒鷺サンは思考の泥沼によくはまる性格です。これからもよくあると思いますが、生暖かな目で見てあげてください。




