会場入り
地下練習場に戻って大人な対応ができそうな人たちに事情を話して、四、五人を見るリーダーになってもらう。
少数のグループに分けて見てた方が、錯乱して逃げたりとかするやつが減るかもしれないっていう考えから。リーダーに負担は増えるかもだけど、快く承諾してくれた。
ホント、いいギルドだよ……。
ステージに立って全員に外のことを話す。初心者や若い子たちは不安で、叫んだりするやつもいないことはないけど、なんとかざわつくだけでおさまった。
道化に言われたように装備品とか、いろいろ準備をしていたらギルマスが帰ってきた。
「悪い。いろいろ押し付けたな」
「ホントだぜ。俺のキャラじゃねー」
茶化して笑い飛ばしたかったけど、俺も少し疲れたような乾いた笑いしか浮かばなかった。
副マス二人は泣きながらギルマスに飛びついて、頭をなでられる。
「二人も、よく頑張ったな」
「ギルマスのバカァー!!」
「僕らやっぱりギルマスがいないとだめですよぉー!!」
「そんなことはないが。助かった。ありがとう」
「「うえーん!!」」
ここで泣かれると不安が広がりそうだけど、大目に見てやってよ皆さん。ほんとギリギリのとこだったんだから。
「でも、これからどうなるでありんすかねぇ」
狐の姐さんが困ったように、独り言のようにつぶやく。
「さぁな。でももうすぐ時間だ。勝手にとばされてばらばらになっても困る。ギルド全員か、もしくはある程度のまとまりで移動するぞ」
「そうでありんすな。わっちらは先に……東入口付近に集まっているでありんす」
そう言って自分の担当の数人と、軍服少年のグループと一緒に地下練習場を出ていった。
副マス二人も担当の子たちをまとめて移動する際の注意を呼び掛けている。
「悪いけど俺一人でいい?」
俺はギルマスに要求した。こういう団体行動は苦手だ。のまれたくない。
「黒鷺、こういう時くらい……」
「マジ無理。もう無理。行くのは一緒でもいいけど、その後一人行動させてくれ。ハクも探したいし……」
そうだよ。ハク。連絡するって言ってたのに、連絡手段さえなかった。大丈夫かな……?
「……どうせ人が多すぎて探せねぇとは思うぞ」
俺の体力・精神力が限界なのを感じ取ったギルマスが諦めのため息をつきながら了承してくれる。
だめなんだよね、ホント、大事なやつら、大事にすることが結構苦しい。頼られんのも、指示するのも、まぁ、いいけどさ、心を砕くのは疲れんだよな。
今の俺のMPはゼロよー。
一人で突っ走って迷惑かけるのは得意だけどね!! 嫌なことしちゃいけないって思うと……怖いんだなぁ。自由にやってるつもりでもいろいろ考えてんだぜ? 特にちびっこ相手だとな!!
「ん。仕方ない」
探せないのはわかってる。ただの理由づけだよ。
「じゃあ行け。そのかわり後でなじられても俺は無視するからな」
あー、確かにリリア嬢に仕事しろって怒られそうだな……。
「んー、仕方ない」
苦笑いで応える。
でも、どうしたって、俺は……苦手だよ。大事なやつらに囲まれんのは。
俺の最悪な秘密事、抱えてるのが辛くなる。
ギルマスに了承をもらってすぐにギルドホームから抜け出して、少し遠回りして会場まで行く。
装備は変更なし。服はもっといいのあるけど、慣れてるからこのままで。武器はこれが最上級だし。杖しか持てない職業だしな、俺は。誰でも持てる短剣はどうでもいいだろ、うん。
一人でゆったり歩いて行く。あんまり早くて、中央に流されても困るからな。できれば出入り口付近がいい。なんかあったら逃げだせるかもしれないし、逃げ出そうとした人たちにもみくちゃにされない位置がいい。
中央噴水広場は特殊エリア扱いになっていた。普段はアーチみたいなものが出入り口を表しているだけで、ゾーンが変わっているわけでも、何かにさえぎられて見えないわけでもないのに、今はアーチの向こう側は暗闇になっていて中が見通せない。
なんだかね。行くしかないのが腹立つな。
どんどんどんどん、人がアーチをくぐっていく。俺は少しの間わきによけてそれを眺めた。
ハクはもう中かな。入ったら出れなくなると困るけど、もうそろそろ入んないとだめか。
時計がないのは不便だな。文明の利器の素晴らしさを感じまくるな、この数時間で。
呼んでも大丈夫か?
「ハクぅぅううううう!! いるかぁぁあああ!?」
人の目がほとんどこっちを向く。ハズイ……。
十秒くらい待って何の反応もなかったから仕方なく広場に入る。
「わぉ?」
中は……サーカスみたいだった? 行ったことないけど、漫画やアニメのサーカスみたいだった。
中央に二十五メートルプールくらいはありそうな噴水があって、その上空に大きな赤と黄色の風船が浮かんでいる。そこから四方に三角形の旗がずらっと垂れ下がった紐が伸びて、カラフル。どこから出てるのかわからないけど下から光線みたいな光が空に届いて、動くから夜時間でもとても明るかった。噴水もライトアップされて、水が光を反射してキラキラしている。そして明るい空には色とりどりで煌く小さな風船たちがたくさん浮かんでいた。
「ん~、派手だね?」
うっすい感想しか出てこない。
なんか、シリアスブレイカーな雰囲気だけど、逆に今の恐怖的な状況とずれすぎてて不気味。気持ち悪いな。
しばらくしたら噴水とその上の風船の間に時計みたいなエフェクトが出現した。アンティーク調の柱時計、の、時計部分をアップにしたようなやつ。
かちっ、かちっ、と針の音がする。そして長針と短針が十二時で重なって、鐘が鳴った。
それで、最後の鐘が鳴り終えると同時にファンファーレ。
時計のエフェクトが消えて、箱が現れ、その中から軽い破裂音と同時に黒い布を巻きつけた人影が現れる。と同時に箱が消えた。
【んふっ、んふふっ、んふふふふふふっ!!】
人影は不気味な笑い声を出して肩を震わせていた。人影の周囲にウィンドウが出現して、声を文字に変換して羅列していく。
……演出がなげぇよ!! 飽きたよ!!
だけど周りは不安そうにそれを見つめているだけで、誰も俺みたいにツッコもうとかは思ってないみたい。え、空気読めってか? さーせん。
【あーはっはっはっはっはっは!!】
人影がやっとマントをばさっっと放り投げた。
中身は三頭身の女の子っぽいキャラ。後ろにいる俺にまではっきり姿がわかるほど大きいし、体がうっすら透けてるからホログラムのキャラだと思う。ゲーム内の住人って言うより、ゲームの掲示板とかで案内をするようなやつ。
髪は右側が白で左側が黒のふわふわとしたツインテール。目は翡翠色で無邪気に輝いている。
服はカラフルなピエロっぽい服。具体的に言うと、青いバルーンのホットパンツに水色と白のダイヤ柄ニーハイソックスと臙脂のストラップ付シューズ。薄いグリーンのフリルたっぷりなシャツにワイン色の燕尾のベスト。胸元には赤と青のリボン。角みたいな二つの突起があって、その上にボンボンがついたフードを持つ、赤と青と白のショートマント。
顔は白塗りで左目には緑とピンクの大きな星が描かれている。
ここまでだったらただのかわいいキャラかなぁ。とか、まぁ、うっすい感想? ちょっと不気味だけどさ。そんだけじゃん?
でもね、これだけじゃない。
その子の体にはべっとりと赤黒いものが付着していた。
絵具かな? 赤い水かな? それとも……血?
そこまで考えると子供っぽい無邪気さが狂気に見えてくる。
ねぇ、何で笑ってんの? 血だよ? 気持ち悪いじゃん。
さっきの文字も血文字みたいで気色悪かったんだよ。それがもっとわかりやすい、B級ホラーとかに出てきそうな血みどろ姿だぜ? 連想しちゃうのは仕方なくない?
女の子は楽しそうに、何かを後ろに隠すポーズをする。きっと後ろの方の奴にも見えてはいないと思うけど。あ、ちなみに俺の方が正面らしい。顔がよく観察できます。
じゃなくて、ポーズをとり、そして一回くるりと回って辺りを見た。
【じゃじゃ~ん☆】
後ろにあった手を頭の上に掲げ、輝くエフェクトと共に何かを出現させる。
「……」
これまた血みどろの大きな王冠。女の子はそれを頭にかぶせるが、大きすぎて目元が隠れた。それを押し上げて、勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
【僕が王様! この世界の王様!!】
ハ? 王様? 何のことだ?
【王様はね! 何でもしていいの! だからね、み~んな~!! ゲームしよう☆】
はい?




