似合わなくてもお仕事しましょ
「まぁ、いい」
ログアウトボタンがなくなった。それは重要事項だろうけど、今はいい。少しおいておこう。
嫌な予感がするんだよ……。
イラつきと、焦りと、集中力散漫。考えがまとまらないで、またイラつく。から回るのだけは勘弁。
無理やりにでも感情を抑えつけて、現状把握に努めましょ。
「よくないでしょ!?」
リリア嬢がヒステリックに叫ぶ。
甲高い声は少し耳障り。そんでもってよく響く。だからエントランスにいる人たち全員に聞こえて、不安そうな表情がこちらに集まってきた。
エントランスには割と人がいた。いつもは無人なのにな。広場と似たようなもんか。情報交換のため? 集まってんのか?
「いい。大丈夫だってリリア嬢」
できるだけ優しい声を意識して、落ち着かせるよう努力する。
ダメだぜ? 不安は伝染する。インフルよりたちが悪い。副マスがこんなんじゃだめだよリリア嬢。俺もいっぱいいっぱいだけど、リリア嬢は頼れる副マスなんだから。俺よりも、皆の信頼得てるんだから。
「だって……なんなの? どうしちゃったの? ねぇ、なんか危ないことが起きてるの? どうしたらいいの?」
そういうリリア嬢の目は少しうるんでいた。
しっかりしててもまだ子供だったな。中学生くらいだったか? 雰囲気にあてられて不安で仕方ねぇんだろうな。
むむ。今の考えは俺が悪いな。副マスの仕事押しつけちゃぁダメダメだ。でもなー、周りにもすでに副マスとして認識されてるからなー。
こういう時頼りにするギルマスも……そういやほんとどこ行きやがったあの野郎……。何でこういう時いないんだ。仕事か。仕事のが大事なのか! うん、わからんでもねぇけど、だからってこんなガキ置いてくなよ……。
「きっと大丈夫だよ。ただの気休めだろうけどさ。大丈夫だって思っとけ。どうにもならないんなら特にさ」
「なんだよそれ……元気づけんならもっとちゃんとしてよ……」
「俺ぁこういう時あんまり嘘つかない主義なんだよね~」
とかそういって飄々とした態度を保つ。
内心少し焦ってたけど、自分でペース崩しちゃ意味がない。俺まで雰囲気にのまれたらこいつらホントどうしていいかわからなくなっちまう。って、少し大人ぶってみる。
突然押し付けられたも同然だけど、俺も年上ですから。子供は守ってやらないといけないよな。それがいくらキャラじゃないことだったとしても、義務みたいなもんでしょ。
「さって、俺今帰ってきたばっかで状況があんまりつかめてねぇんだ。いろいろ教えてくれっか?」
「わかった。……さすがバカクロ。周りなんも見えてないんだな!」
「ほっとけ!!」
わざとふざけて落ち着かせようとしてんだろ。声だって裏返って、無理してんのバレバレ。
ま、こういう時の悪口くらい少しは大目に見てやるさ。少しはな!!
「えっと……」
「いつからこんなことになった? ってか、お前らが気付いたのはいつ?」
少なくとも今は十時は過ぎてる……ってことでいいんだよな?
時間割がおかしくなったのは七時くらいで、その後は知らん。今が何時くらいなのかも検討がつかない。困った。
「いきなり夕方時間になったでしょ? あれくらいからざわついてたんだよ。チャットが機能しなくなったのはそれからだいぶ後。いきなりだったから時間は見てない。でも、そうね、十時くらいなんじゃない? 雰囲気そんな感じだし、時計止まってんのそんくらいだし」
詳しいことはわかんないってことか。
「ギルド内で気づいたのもそのくらいだったと思う。で、それから町でも騒ぎになってるって聞こえて来て……」
「なるほどね。チャットか……」
チャットと時間割はあんまり関係なさそうだな。そのかわり、時計と関係はありそうか?
少し考えをまとめようとしたとき、リリア嬢が何かに気が付いたように声をあげた。
「あ、その前にあれだ。掲示板! あそこでログアウトボタンがないって騒いで、それからチャットが使えなくなったんだよ! それからすぐ掲示板も見れなくなって……」
確認。確かにチャットも見れない。ボタン自体はあるけど、クリックできないように封鎖されてる。
チャットは使えないだけみたいだけど、掲示板はボタンすら存在しねぇな。
メールは……文章作成自体はできるが、送信ボタンが封鎖。ん、一応メモ扱いはできそうだから気になるとこまとめとくか。
メールのウィンドウとキーボードを空中に出して打ち込んでいく。こういう画面は見せたり見せなかったりできるから、今は見せられるようにした方がいいか。変に気になること増やす必要もないしな。
「ログアウトの騒ぎからすぐだった?」
リリア嬢はちらちらウィンドウに視線を送りながらも、ちゃんと質問に答えてくれる。
「たぶん……」
だとすると、ログアウトボタンのことを広めたくなかった、とかか? 誰かがこの騒動を作ってるとして。
でも広まった。わざと少しだけ噂を流して騒がせた? それともただの不手際?
いや、騒がせて何の利点がある? だとすると不手際か。ログアウトできないことを知られたくなくて締めたってのが考えられる?
……やめよう。決めつけはよくない。まだ誰か、と決まったわけじゃねぇや。ただのバグかもしれない。それがいい。
一応騒動のまとめ、としてそこでメールの文を保存して閉じる。そしてまた新しいメールを立ち上げて、違う質問に移ることにした。
「ギルマスはどうした?」
「わかんない。調査、とか? 険しい顔してどっか行った。行き先は教えてもらってない」
行き先教えてないんなら運営関係か? チャット使えないのは不便だな。
あいつが運営だって知ってんのは何人いる? ばれなきゃいいけど。こんな状況、運営に正当な当たりかやつあたりか、ともかく、しわ寄せがいくに決まってる。
ギルマスが干されたらさすがに泣くぞ。……いや、泣きはしないかも。
「なんか言われてっか?」
「ギルドをよろしくって。んで、できるだけログアウトしないようにってさ」
ギルドをよろしく、ね。それを支えに正気保ってたのか? だったらまだいいか。目的があんならそうそう人間は腐らない。……んだけど、アバウトすぎて逆に余計なお荷物じゃね!?
「理由言ってた?」
「原因がわからない以上下手な真似はしないようにって」
なるほどねー。だからこんなに逃げてないやつがいるんだな。
バグだらけの状態でログアウトしたとして、ちゃんと自分の体に戻れるか不安だものな。
……戻れないとどうなるか、なんて知らないけどね。死ぬ? 植物状態? 精神イカレちまう? おぉ、コワイコワイ。
広場にも大勢いたから、しないようにって伝わってんのか? だとするとギルマスはそっちの方か?
他の大陸はどうだろう。ワープはできるから他の大ギルドに協力願えば問題ないか。
でも絶対数人はログアウトしただろ。どうなってんのかね。ログアウトすらできない俺にゃ関係ないが。
「んじゃ、次、シエルはどうした?」
「ギルド内まわって、できるだけその話を伝えてる」
あぁ、ギルドチャットだったら一発なのにな。チャット使えないってマジで不便。このギルドホーム、異様に広いんだよなー。大変だなー。
「お前は?」
「出入口の見張り。帰ってきた人に今の話伝えないとだから。それと、今出てくとなんか暴動的なのに巻き込まれたらあれだから、そういうのも……」
不安そうだけどしっかりしてんな。ちゃんと仕事してやがるじゃねえの。
他には何が必要かな。
「ギルド、何人いる?」
「半分はいたと思う」
「騒いでる?」
「街見れば落ち着いてる方だと思う。でも、初心者たちはギャーすか騒いでる」
「ちっ。あいつらか……」
だからやめさせればよかったんだよ。統率が取れねぇ。
一滴でも不純物が混ざればきれいな水って言えねぇのに。
「古株さんたちがなだめてるけど、微妙」
「そっか」
「ログアウトしたいみたいだけど、ギルマスが危ないって言うくらいだからやめさせるようにしてる」
そうだよな。ギルマス超古株だかんな。年寄りの言葉は重いぜ。つっても、どうかなー、中学生? 一番反抗的な時期じゃね? うーん、真面目な子たちだって信じてるよ!! あ、無理かも!!
「さて……」
とりあえず状況は把握した。
このギルドに関しては、まぁ、最悪ってわけじゃないだけ。悪いは悪いな。でも、街と比べりゃ全然いい。
これからどうしたもんかね……。
「クロさん! 帰ってたんだ!!」
「よぉシエル~」
上の階から降りてきたシエルが急いでこちらに走ってきた。
「リリアさんから話聞いた!?」
「聞いたぜ? ま、よくはねぇわな」
「どうしよう!? どうしたらいい!?」
シエルファはリリア嬢よりも不安そうだ。走ってたのもあるだろうけど、目の潤みが半端じゃない。今にも泣きそうだ。
「ほら、泣くんじゃねぇよ?」
「うん……」
「うっし」
皆ギリギリのとこか。なんかしないと無理だなこりゃ。
「シエル、悪いけどもうひとっ走りできる?」
「え?」
「みんなどっかに集めようか。んー、ここが一番広いかな。ここでいっか」
「ちょっとクロちゃん、なにする気?」
「不安なことばっか考えるから不安になんだよ」
俺は誰かの上に立って率いんのは向いてない。団体行動は苦手だし。
けど、引っ掻き回すのは得意だと思う。いや、嘘かも。うん、なんでもいっか!!
「半分ってぇと、七十以上か……何とかなんだろ。簡単にできて、盛り上がれるの……?」
このギルドは一応戦闘向きだったから……うん。トーナメント戦。パーティ戦がいいか? 報酬は……自腹きって……いや、後でギルマスに請求してやる。
「よし。ギルド内、頂上決戦☆ 開催じゃね?」
「「はぁ!?」」
「ゲームだぜ? 遊びまくれ! 楽しめたんなら、不安もどっかいっちまうって」
俺のそんな言葉に、二人は顔を見合わせた。
「難しいんじゃない?」
シエルファが残念なものを見るような目でこっちを向く。
おいこらそんな目でみんなボケ。
「そーか? でも、このままうだうだ不安がってるよりましじゃねぇ?」
だめだ、怒るな俺。引きつった笑いを張り付けて、なんとかぼかす。
「うっ、で、でも、引きこもってる人もいるし……」
このギルドは自分の部屋ももてるからな……。ビビって引きこもるのもいるかそりゃ。
さすがに引きずり出すのは難しそうだが……天照大御神方式で出てくるかもしれんだろ。天岩戸か。
「俺の持ってる中で、最高ランクの武器・装飾品・鎧とか、賞品にするぜ。レジェンダリーの星五つとかもあるけど……ダメか?」
「「……」」
副マス二人は検討中。
幻想級を除いた中で最強の奴ですから。初心者はもちろん、上級者でも欲しがるやつは多いくらいだもんな。ふふん(どやぁ
「……乗った!!」
リリア嬢が迷いつつも決断した。
「リリアさん!?」
「アクセサリー! 『カーバンクルのイヤリング』持ってたよな、あんた!!」
「あー、あったね。そいや」
でもあれただの固有級……。確かにきれいだったけど。
「あれくれる!?」
「別に、俺使わねぇし。今はこれもあるからいいけど……」
ハクに素晴らしいピアスもらったかんな。浮気する気はねぇぜ。
「それも素敵だよな!!」
「これはあげないぜ」
「いいよ! イヤリングくれんの、どうなの!? ずっと探してても見つかんなかったんだよ!!」
なんかすんごい剣幕で詰め寄られた。あー、確かにレア度で言ったらただの固有級だけど、制作オンリーだし、レシピ自体があんま出回ってないんだっけ?
でもやっぱどうでもいいかなぁ。つくんのは楽しかったけど、実用的じゃねぇし。
「いいけど」
「のった!!」
簡単に言うなぁ……。
「シーエ、いいよな!?」
「え、えっと……」
「あんたもなんか強請れば!?」
「えぇ……」
強請るって、なんかひどくね? え、なんかいい財布扱いじゃね? いや、うん、俺が言い出したことではあるんだけどね!?
「じゃ、じゃぁ……『ワイバーンのペットウィップ』ありますか……?」
え、ワイバーン? あの使役ワイバーン専用の鞭? 固有級ではあるけど、こっちも相当珍しい……じゃなくて! 何!? かわいい顔してワイバーン鞭打ったりするのこの子……恐ろしい子!!
ま、ありますけどね……。
「星ひとつでいいなら……」
「の、のりました!!」
「って、お前らユニークどまりでいいの?」
「「いい!!」」
「……」
ま、なんでもいいか……。
「報酬は俺の持ってる範囲で、交渉可。ただし渡せないのもあるかんな!? 新しく作るのは可! 作れる範囲でな?」
「「了解!!」」
「じゃ、ギルド内全員に通達! 俺は地下の練習場設定してくるから」
このビル、ななな、なんと! 地下もあるのですよ!!
そこではいろいろ設定ができて、普段は死なない設定で、好きなだけ練習できるようになっている。
今回の設定は疑似ゲームオーバーはありで、アイテムは不使用。パーティオンリーがいいけど、やる人数によって少し変えよう。
うん。とりま二人は大丈夫。あとはギルド内皆に不安以外を感染させねえとな。
……あ。俺も参加するよ!? 俺の自腹も同然だからな! 少しでも守るぜ!!
って、HPの残り少ないの忘れてた!! 誰か回復してぇぇええええ!!




