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道化と冠  作者: 青螢
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空白の手紙

 ハクとの約束の一週間を終えて、次の日。十周年アプデまで一週間を切った。正確には今日を入れて後六日。早いもんだね。

 本日は朝っぱらから現実でパソコンに向かい、適当に仕事をこなしました。給料もらえる分と、趣味的なお仕事。

 ちょっと気になることがあってさぁ……。

 そんでちょうど十二時くらいに一回ゲーム内にダイブ。ギルマスに用があって。仕事中なら確実にいると思うんだけどね。

 というわけでいつもの通り突撃訪問。

「ギルマス、いる?」

「あぁ? なんだよ……もうすぐ昼飯なんだが……」

 ちょこっと迷惑そうなギルマスが、いつもの通り机に座って書類を見ていた。

 現実の書類持ち込むなよ……。

「あんさ、昨日のメール」

「あー、あれか、差出人不明の」

「そうそうそれ」

 それのためにわざわざゲームに潜ってきたんだっつぅの。今日は夜に遊ぶ予定だったんだから。

 え、リアルで知り合いなら普通にメールしろよって? いやいや、知り合いなら直接対面派なんだよね。表情見ながらしゃべりたいっての?

 意味わかんない? ですよねー。

「昨日さ、ハクと別れてから時間があったからギルド戻っていろいろ聞きまわったんだよ。したらさ、だぁれもそんなメールしらねって」

「昨日帰ってたのか?」

「そそ」

 仕事ですから? わざわざ、戻って、さしあげたんでございますよ? なんつって。

「誰もって、誰もか?」

「そ。ほぼ全員」

 シエルファがメールを開けたのが最初らしいから、その前十分、シエルファが消失に気が付いた後十分の範囲でギルド内にいたやつをまず聞き込んで、そいつら全員に確認を取った。

 二、三人からは返信が来ていないが、そいつらはいつもメールなんて見ないやつだったから、怪しくないって感じもするけど。

「俺が把握してないやつもいるだろうし、メールの返信きてないやつもいるけど、返信きたやつは全員がメールの存在自体しらねぇってよ」

「昨日の今日でよくやんな、お前……」

 おい、せっかく頑張ったのにあきれ顔してんじゃねぇぞ。

「いや、結構皆さんもメールの確認早かったから、楽だったぜ?」

 俺だけがネットに張り付いてるわけじゃない可能性も出しておく。いや、確かに俺は張り付いてるけどさー。

「それが何人くらいだ?」

「んー、八十いくつ……ギルド内半分とちょいくらいか。その時ログインしてなかったやつらもいるし、そんくらいでも多い方じゃね?」

「だな。それがほとんど知らないのか……」

 逆に不思議なくらいだと思われる。シエルファが言うにはいつ入っていたかなんてわからないそうだけど、それでも誰も知らないなんてことあるだろうか?

「んで、俺気になって調べたのよ。したらさ、何が出たと思う?」

 企み顔で笑いかけてやる。そしたらギルマスは嫌そうに言ってくる。

「またお前勝手に侵入したのかよ……」

「てへぺろっ☆」

 精一杯顔文字を真似してみたけど気味悪そうに睨まれただけだった。ちぇ。

「見ただけ。他はなんもしてないぜ? あ、もちろん証拠も残してねぇから」

 システム侵入? ハッキング? 悪いこと? えぇー、何もしてなきゃよくないか? なんていうけどよい子のみんなは真似しちゃだめだぜ? 完全法律違反だから。犯罪ですよっと。

 はいはーい。俺はハッカーでーす。あれ、不正侵入とかだとクラッキングっていうのか? んじゃ、クラッカーです。でもほんと悪いことはしないようにしてるし、これでも正義のために頑張ったりしてるんだぜ? とか言ってみるけど内容自体は変わらねぇな。

 んでもって俺の腕は最強よ。取り締まる側もおかしいなぁ、とは思っても、証拠見つかんないからあんまり強く言えないらしい。運営さんからしたら嫌な顔しかできないよな。

「はぁ……」

 案の定ギルマスからは苦々しいため息が出てくる。えへへ~ごめんよ~。

 んでも、そういうとこ利用してるとこもあるんだ、うちのギルマスは。だから、より微妙な顔しかできないよなぁ。

 ついでにいうとさ、俺って結構腕いいのよ? 自分で言うのもあれだけどさ。その俺がゲームの乗っ取りなんてできないって言うと、ギルマス的には安心の材料になるらしい。

 だから俺としてはあんまり今回の件でそういう不安はないなー。だって、ねぇ? 俺は俺に自信があるしさ。奢りかもしれないけどね。

 まま、話を戻しまして。

「んで、調べた結果、何が出たでしょーかっ?」

 むふふ~っとニマニマしつつギルマスの回答を待つ。

 ギルマスは苦虫を噛み潰した上に青汁でもつっこまれたような顔をしていたけど、ちゃんと考えてくれているもよう。

 さすが、ノリのいいギルマス!

「……さっぱりわからん」

 眉間のしわを伸ばしながら諦めるギルマス。割と早かったな。

「正解は……なぁんも、出てこなかった」

 ま、この答え、分かる方がおかしいんだよね。普通はさ。

「ハぁ?」

「メールの内容はもちろん、差出人? いやいや、そんなのよりも、メールの存在自体記録に残っていなかったぜ?」

 最初から送られてなかったみたいにな。

「それは……誰かに消されたということか?」

 一番最初に考えられる可能性をギルマスはあげてくる。

「いんや……。侵入形跡もない。まったくの白紙。俺より腕がいいってなら別だけど、さすがにあそこまでまっさらなのは妙だねぇ。負け犬の遠吠えかもしれないけどね」

 俺も丁寧に調べたんだ。一ピコも手掛かりが見つからないなんて、さすがにプライド的なものが傷つく。だからないとは言い切れないけど、高確率でありえないって言いたい。

 しかもまっさらすぎて妙なんだ。いくら取り繕ってもさ、新雪の綺麗さなんて再現できないだろ? そんな感じ。俺だって少なからず跡は残してるんだから。そうそう見つけられないくらい小さい跡だけどな!!

「確かに聞くと妙だな。だがなんでそんなことに……」

「さぁね」

「痕跡を残さずにメールを送ることは可能か?」

「無理だね。てか逆にそんなふうに送るって、やましいことありまくりじゃない。もし可能だったとしても、運営的にアウトでしょ?」

「~~……」

 とうとうギルマスは頭を抱えてうなり始めた。乙。

「そういやあの謎の物体Xは? あれどうした?」

 忘れるとこだった。なんか変なのあったよなぁ?

「それもだよ……」

「あぁん?」

 疲れたように絞り出した声に、意味がわからずどすの利いた声を出しちまった。ごめんよ。

「あれな、アイテムとして認証されなかった」

「どういう意味だ?」

「実際にゲームに入って手に取ったり、見ることは可能だが、パソコンからみるとそこには何も存在していなかった。まったくの空白だ」

「……」

 ネット上に存在しているモノはすべて数字だ。文字だ。記号だ。それ以上もそれ以下もありえないって言うのが俺の持論ね。

 それが空白? ハぁ? マジで?

 幽霊みたいなものじゃん。見えても存在なんてないってさ。ありえない!!

「故障とか、ちょっとした誤動作みたいんじゃなくて?」

「あぁ、何度も確認したが、ダメだった。俺も実際にその場にいて、見たんだ。バグでもなんでもねぇよ。無いんだ。存在そのものが」

「……」

 マジイミフ。

「あははっ、おっかしいね~……なんて、笑ってられるような状況じゃないよなぁ」

 おかしい。おかしすぎる。オカルトチックな感じでゾクゾワしちゃう。

 なんだよ。意味わかんねぇ。あぁ、腹立つなぁ。超むかつく。なんでこんなに負けっぱなしみたいなわけ?

 ……本当に、誰かに、負けてんだよね?

「黒鷺、お前よぉ、なんか探せるか?」

「原因? 痕跡? それとも、なんでもいいから、どれでしょう」

「なんでもいいから、だな……」

「無理だね。少なくとも俺の力が及ぶとこじゃない気がする。相手がいんならほえ面かかせてやりたいけれど、それも難しい気がするぜ」

 漠然とした思い。焦っているかもしれない。何に? と聞かれてもわからないくらい漠然としてる。

 探してるものも見つからないし、何を探しているのかすら見当たらない。見つけたと思ったら全部存在しないもの。はてさてどうしたものでしょう。

「はぁ……」

 運営さん的にはもっと頭が痛くなる状況だろうけどね。俺は知らないし。

「じゃ、頑張って。メール探しは決着ってことで」

「ハ? あ、おい!?」

 俺はギルマスの言葉から耳をふさいで逃げた。

 捕まりたくないんだよ。俺は無力だって証明するようなことからさ。

 俺は、自分の力がないことで嘆いたりなんかしたくない。だから逃げる。

 それで守れる安っぽいプライド。まぁまぁ、上出来ですこと。

 どうせ俺にできることなんてないぜ、ギルマス。だって俺にはクラッキングしかできないもの。犯罪だよ。俺にはどうせ汚れた手しか残ってないんだから。

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