忘れてるかもしれないけれど ~Side・White~
白狼様視点です。
一瞬誰だこれってなるかもしれませんがw
俺のあげたプレゼントはどうやら気にいってもらえたようだった。
おかげで抱き着かれたのにはびっくりしたけど、喜んでもらえたようで何より。
きっとクロは覚えてないんだろう。今日は二年前、俺とクロが初めて会った日なんだよ。
覚えてて、贈り物までして、すんごく女々しい? でも去年は何にも出来なかったから、今年は何かやりたかったんだ。
いつもいつもありがとう。俺、迷惑かけてばっかだから。だから少しでも力になりたくて。
このために半年前くらい前からサブ職のレベル上げ、頑張ったんだ。でもね、ぎりぎり間に合わなかった。満足できるような出来栄えのが作れなくて、待ち合わせの数分前まで手直しして、結局一つしかできなかった。
渡そうか渡さないか迷ったけど、ここは勢いに任せて渡してしまう! 後で困らせたらどうしようとか思ったけど、今更だったし。杞憂に終わってよかった。
今日はよく表情が沈んでいたから元気づけたい意味も込めて渡しちゃった。クロはそれで笑顔になってくれた。すごく嬉しい。嬉しがってくれるのが嬉しい。
でも違う意味で困らせてしまったみたい。まぁ、クロはお返しをあげるってことで落ち着いたようだった。
「……」
深くかぶったフードの下で小さく笑い声を漏らす。
クロから何かもらえる。初めて会った日を覚えてはいなかったけど、その優しさがすっごく嬉しい。
始めてからクロはとっても優しかった。
初めて街に入って、ろくに説明もしないで、自由に探索して、目的の神殿を見つけてね、と無機質な声が告げた。
ちょっと、初めてなんだからもっと優しくしてよ。一から十まで説明してよ! って思ったけど、ゲームの設定にそんなこと言っても仕方ないし、途方にくれながら街を歩いた。
「……」
人が多い。道が広い。疲れる。
大体こんなに人が多いところどころか、外に出たことすらあんまりないのに、俺にとっては最初のクエストこそ難易度が高すぎた気がする。
でも自分の足で、自分の目で、自分の耳で、色々なことを感じ取るのは新鮮で楽しかった。
だからしばらくはきょろきょろ周りを見ながら歩き回っていたんだ。時々人にぶつかりそうになったけど、どう接していいかわからないからとりあえず謝って、次からそんなことがないように周囲に気を配って歩く。
それだと疲れるんだ。しかもずっと歩いても目当ての所も見当たらないし、おんなじ場所をぐるぐる回っているようだし。
体力的にはまだまだ大丈夫だったんだろうけど、もう気分が落ち込んで、歩く気になれなかった。
ちょうど噴水がある広場だったから、噴水の縁に腰掛ける。
水の音が心地よくて、水を含んだ風がくすぐったかった。これも新鮮。
休んでいたら目の前に黒い足が現れた。
「はろはろ? お前誰かと待ち合わせでもしてんの?」
声をかけられたが俺じゃないだろうなって思って、でも気になって顔をあげたらばっちり目が合った。
え? 俺? ど、どうしよう? なんか言った方がいいのかな? って、すんごく焦った。
「悪いやつじゃないぜ? ただちょっと、迷ってたみたいだから気になってな?」
相手も少し焦ったのか言葉を足してくる。でも俺はやっぱりなんて言っていいかわからなかった。
「……」
「えーっと……」
困ったように頬を軽くひっかくその人。
俺が困らせたのかな? でもなんで俺に話しかけてきたんだろう? あぁ、なんか言えたらいいのに!
最近家族以外と話したことなんてまともにない。だからこういう時なんて言ったらいいのかさっぱりわからなかった。焦るとより言葉が思いつかない。頭が白くなる。
「も、もしかして、初心者? 町案内しようか?」
「……」
「いらないならいいけど……武器持ってないな? もしかして神殿お探し? それなら南西の方角だぜ」
どうしようどうしよう!!
そうしてずっと無言だったから、当たり前だよね、その人はどこかへ行ってしまいそうになった。
行かないで!
「んー、お邪魔だったかな? 悪ぃね。んじゃま、楽しいゲーム生活を~……ん?」
手を振って背を向けたその人の服の裾をつかんでいた。無意識だった。
「……」
何か言わないと。じゃないとどこか行っちゃう! また一人になる!!
「……っ」
焦って口を開くも漏れてくるのは言葉にならない空気だけで、さらにまた焦る。
早くなんか言わないと。変な人に絡まれたって思っちゃう。それはやだ! どうしよう。どうしたらいい? あぁ……。
「落ち着け? 少しづつでいいぜ? どうかしたか?」
その人は俺を落ち着かせるように少し腰をかがめて目線が合うようにしてくれた。
話し方もゆっくりにして、言い聞かせるように。
「……ぁ……」
その時の俺はそんなことに気が付かなかったんだ。どうしようって、そればっかりで、結局何も言えなかった。
「うん?」
でもその人はずっと待っててくれた。俺が話せるように、嫌な顔しないで待っててくれた。
徐々に視線を下げてしまったけど、その人の口が穏やかな笑みをたたえていたのを俺は知ってる。
「……くれ」
「え?」
何とか絞り出した言葉はかすれていて、その人には届かなかった。
「教えてくれ……」
つばを飲み込んで、のどを潤してもう一回同じことを言う。
けど、これじゃ伝わらなかったよな。
「道、でいいのか? 行き先は神殿?」
相手は困ったように聞いてくれる。
「ん……」
困らせた、と思って焦った俺には頷くしかできなかった。
「うし。いいぜ。行こうか?」
にっこり笑顔で俺に手を差し伸べてくれるその人に、俺はできる限りのわかりやすさでうなずいた。
「ん」
あの時ほどゲームでよかったって思ったことないかも。
だって俺緊張しすぎで、ゲームじゃなかったら手汗が酷かったと思うんだよね。
「あぁ、そうだ、名前教えてくれる?」
神殿への道すがら、沈黙に耐えられなかったのかその人が聞いてくる。
ステータス画面見ればわかるのに、わざわざ聞いてくるってなんで? とか思わなかった。まだいまいちステータスの見方がわからなかったのもあるし、今なら会話のための手段だったんだなって冷静に思うから。
「白狼」
ゲーム内はゲーム名でいいんだよね? 焦ってたから、言い終ってから本名とどっちだってまた焦ったけど、ゲーム内で本名をいうのこそマナー違反だった。
「白狼ね。俺は黒鷺」
「クロ……?」
サギってなんだろう? 詐欺? ちがうよね……。そんな変な名前……?
「あぁ、クロでいいよ。俺もハクって呼んでいい?」
その人、クロは俺がサギの部分を言わなかったのをどう思ったのかわからないけれど、そう提案してきた。
「ん。クロ、さん?」
「クロでいいって。ハーク♪」
「クロ……」
いろんな思いを込めてその名前を呟く。
コミュニケーション能力がかなり欠如している自分に根気よく話しかけてくれた人。
どうしていいかわからないで途方に暮れていた自分を助けてくれた優しい人。
仲良くしてくれた、最初の人……。
「よろしくなー」
「よろしく、クロ」
クロが俺の大事な人になった瞬間は、その時かもしれないなぁ。
あの時から、俺はいつかクロに恩返ししようと思って頑張るって決めたんだ。
最初の頃は難しいからいろいろ教わった。体の効率のいい動かし方とか、ゲームのやり方、秘密の綺麗な場所とかも。
俺がクロのレベルを越したときに記念として、教えてくれた特殊エリア『妖精の箱庭』は俺たちの憩いの場となりつつある。
あそこって初めて入る時にはとあるアイテムがないと入れないんだって。それをクロはなんでもないようにくれた。
今はちゃんと知ってるよ。そのアイテムは、伝説級のレアドロップ品。本当は何でもないようにくれるようなものじゃないんだよね。
他にもいろんなものをクロにはもらった。本当にたくさんのものを。
だから俺はクロのために強くなったんだ。支えられるように、守れるように、頼ってもらえるように。
「フタケタってうざいよね」
最初は何のことだか分らなかった。ふぇんりる、とか、ろーんうるふ、とか言う単語も混ざってて、意味を知らない俺には関係ない話だと思ってた。
「白狼様カワイソスwww」「あんな弱いお荷物連れてね~」「黒鷺とかw 変な名前だし、ザコだし、弱いし、フタケタだし(爆笑」
何言ってんだろうこの人たち。
初めて聞いたときは何も考えられなかった。でも次第に頭にしみこんで、悲しみと怒りにのまれそうになった。
なんでどうしてそんなこというの? お荷物なのは俺の方じゃん。なんでクロの悪口言うの? 俺の大事な人、いじめないでよ。
あんたたちは俺のこと助けてくれたりしなかったじゃん。初心者で弱い俺のことなんて、ただの通行人A以下の扱いだったんじゃないの? なのに強くなったら目を向けて、その上俺の大切な人を傷つけるの?
そんなの絶対許さない。
「あぁ、またフタケタがフェンリル様と歩いてる~」
「なんであんなのと~」
「アタシの方がつよいし! 白狼様のお役にたてるっていうの~!」
「それな」
知ってるよ。調べたよ。クロがそういう風に蔑まれてるの。あだ名にすればわかんないとでも思ってんの? ふざけないでよ……!!
「マジうざ~」
「早くどっかいってくれ……きゃぁっ!?」
ため無しで、撃てる中で最強の魔法を噂をしていた女性二人に向けた。
「ちょっ、ハク!?」
クロが止めに入る。周りが騒いでるのも聞こえる。
街中でプレイヤー相手に攻撃するなんて、騒ぎにならないわけがない。でもどうでもいいよ。クロが傷つくのは許せないから。
続けてなんの魔法を撃とうかと迷っていたらクロに強制転移させられた。
「ハク!? なにしてんだよお前!!」
猛烈な勢いで怒られた。心配してくれたのはわかる。けど……。
「だって、クロの悪口言った……」
譲れないんだ。ここだけは。
せっかく強くなったのに、また迷惑かけて、俺最低?
離れた方がいいのかなって思ったこともあったけど、離れたくなかった。クロのこと、好きだったから。
「限度を考えろ限度をぉ……!!」
俺の行動はクロをおおいに悩ませたようだった。そしてあんなに嫌がってたのにレベルをあげると結論を出した。
あぁ、またクロに俺を背負わせた。
俺はとっても悲しんだ。泣きだしたいほどに辛くて、消えてしまいたいほど恥ずかしかった。どこまで行っても俺はお荷物にしかならない。
「ごめん……」
「ん、どした?」
「巻き込んだ。一緒いて、楽しくて。役に立ちたいと思った。でも邪魔、だった」
最初みたいに、焦って、まとまる前の言葉が口から零れ落ちる。普通の人には意味がわからない分だっただろうけど、クロはしっかり理解してくれた。理解して、そしてまた俺に救いの手を差し伸べてくれた。
「俺は巻き込まれてないぜ? お前が邪魔なら最初から一緒になんていないだろ? 楽しいんなら何よりだ。俺もだしな? お前が楽しいことすりゃいいんだよ。ゲームだぜ? 自由にしとけよ。それがある程度許されるのがVR世界だろ」
「でも……」
「役に立ちたいなんて、超口説き文句?」
そう言って笑ったクロはとてもかっこよかった。
うん、クロはクロだ。優しくて強くて、俺の憧れ。大好きで頼ってほしくて、でも俺の方がまだまだ頼っちゃうんだ。
だからさ。
「いつか絶対にクロの力になるんだ」
それが今の俺の目標。
みんな知らないクロの秘密。俺だけの秘密。
実はね、クロは俺より強いんだよ。俺が最強とか言ってる人もいるけど、クロはそれ以上なんだ。知らないで蔑んで、バカだねぇ。
クロが嫌がるから言えないけど、悔しいよ。でも俺だけって言うのが嬉しくもあるんだ。俺って酷いやつだよね。
まぁ、今日はクロにも喜んでもらえたし、大事にするって言ってもらったし、クロのプレゼントも楽しみだし、とっても素敵な一日だったな。
クロのあの秘密にぴったりの贈り物。クロの秘密を知ってる俺だからできるプレゼント。
ちょっと優越感に浸る。
少しでも気を抜くとにやついてしまいそうになるのを必死で押さえつけた。
ダメだよ。ハクはクールなキャラなんだから。そう、思われてるんだから。
今更変えちゃだめだよね。
ほんとはただの対人恐怖症じみた、コミュ障で、甘えたで、おこちゃまの俺がいるだけなのに。
確かにクロの言うとおり。
人って無責任でバカらしい生き物。本当のことは何にも知らないで、知ろうともしないでさ。
勝手な噂で盛り上がって、誰かに闇討ちされても知らないからね。




