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『デジャブの先で、君にもう一度』  作者: Toi
第一章 喪失
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1-8 「夕焼け」

第八話


「疲れた?」


ベンチへ腰を下ろしながら、湊が聞いた。


「少しだけ。」


結は笑いながら靴を脱ぎ、足をぶらぶらと揺らした。


「でも、いっぱい歩いた日の疲れって嫌いじゃない。」


「分かる。」


「本当?」


「たぶん。」


「また”たぶん”。」


結がくすっと笑う。


少し前まで賑やかだった園内も、夕方が近づき、人が少しずつ減り始めていた。


海の向こうでは、太陽がゆっくりと傾いている。


「きれい。」


結は夕焼けを見つめたまま、小さく呟いた。


湊も同じ景色を見る。


確かにきれいだった。


でも。


その景色を見ている結の横顔の方が、少しだけきれいだと思った。


「写真撮る?」


湊が珍しく自分から言う。


結は少し驚いたように目を丸くした。


「いいの?」


「ほら。」


湊はスマートフォンを差し出す。


「撮ってやる。」


「やった。」


結は嬉しそうに海を背に立った。


「そのまま。」


パシャッ。


一枚。


「もう一枚。」


パシャッ。


「見せて。」


画面を見るなり、結は吹き出した。


「ひどい。」


「なんで?」


「目つぶってる。」


「本当だ。」


二人で笑う。


「もう一回撮る?」


湊が聞く。


結は少しだけ考えた。


そして首を横に振った。


「いい。」


「なんで?」


「これが今日だから。」


湊は首を傾げる。


「失敗してるぞ。」


「うん。」


「でも。」


結は写真を見つめながら微笑んだ。


「今日の私は、本当にこうだった。」


「だから残したい。」


湊には、その意味がよく分からなかった。


「変なの。」


「変でいいの。」


結はスマートフォンを大事そうに胸へ抱く。


しばらく沈黙が流れた。


波の音だけが聞こえる。


「湊。」


「ん?」


「もしね。」


結が静かに口を開く。


「仕事がなくても、お金がなくても。」


「私と一緒にいたいって思う?」


突然の質問だった。


湊は笑って答える。


「当たり前だろ。」


「即答なんだ。」


「五年一緒にいるんだぞ。」


結は少しだけ安心したように笑う。


でも、その笑顔はすぐに少し寂しそうな表情へ変わった。


「……そっか。」


「どうした?」


「ううん。」


結は夕焼けへ視線を戻す。


「やっぱり。」


「あとで話すね。」


湊は何も気にせず頷いた。


「分かった。」


その返事を聞いて、結も笑った。


その笑顔を見ていると、何も心配はいらないような気がした。


だから僕は。


「あとで」が、必ず来る未来の約束ではないことを、


まだ知らなかった。

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