1-7 「五分だけ」
第七話
イルカショーを見終えた二人は、お土産ショップへ入った。
「かわいい。」
結が手に取ったのは、小さなペンギンのマグネットだった。
「冷蔵庫につけようかな。」
「うち、もう冷蔵庫見えないくらい付いてるぞ。」
「旅行の思い出だから。」
「また増える。」
「増えるね。」
結は嬉しそうだった。
店内を歩いていると、小さなオルゴールが流れていた。
結が足を止める。
「これ好き。」
ガラス細工のイルカがゆっくり回る。
「きれいだな。」
「ね。」
二人で眺めていると、湊のスマートフォンが震えた。
今度は会社用ではない。
個人用。
高校時代からの友人だった。
湊は画面を見るだけで閉じる。
「出なくていいの?」
結が聞く。
「あとで掛け直す。」
「珍しい。」
「今日はデートだから。」
結は少しだけ嬉しそうに笑った。
「えらい。」
「なんだそれ。」
「成長した。」
「失礼だな。」
二人で笑う。
その時。
今度は会社用のスマートフォンが鳴った。
画面には部長の名前。
湊は少しだけ眉をひそめる。
「……ごめん。」
結は画面を見る。
そして笑った。
「五分だけ?」
「うん。」
「五分だけ。」
湊は店の外へ出た。
『悪い。資料なんだけどさ。』
電話はすぐ終わると思った。
でも。
部長の話は次の案件へ。
さらに顧客の話へ。
さらに来月の体制へ。
気付けば。
二十分が過ぎていた。
電話を切り、店へ戻る。
結はガラス細工を見ていた。
「ごめん!」
結は振り返る。
「終わった?」
「うん。」
「長かったね。」
「本当にごめん。」
「大丈夫。」
結は笑う。
「そのイルカ買うの?」
湊が聞く。
結はガラスケースの中を見る。
そして静かに首を横へ振った。
「やっぱりいいや。」
「え?さっき欲しいって。」
「うん。」
「でも。」
「また今度でいい。」
そう言って歩き出す。
湊もその後を追う。
その時は気付かなかった。
結が諦めたのは、
イルカの置物じゃなかったことに。




