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1-9 「観覧車」

第九話


「最後、観覧車乗らない?」


結が園内マップを見ながら言った。


「まだあったんだ。」


「水族館なのにね。」


「乗る?」


「うん。」


夕暮れの観覧車は待ち時間もほとんどなく、二人はすぐにゴンドラへ乗り込んだ。


ドアが閉まる。


ゆっくりと景色が動き始める。


街が少しずつ小さくなる。


「静かだね。」


結が窓の外を見ながら呟く。


「そうだな。」


ゴンドラの中には、レールのきしむ音だけが響いていた。


「ねぇ。」


結がガラスに映る湊を見た。


「もし時間が止められるなら、いつがいい?」


「急に哲学だな。」


「いいから。」


湊は腕を組み、少し考える。


「高校かな。」


「なんで?」


「部活だけやってればよかったし。」


「責任もなかった。」


「毎日楽しかった。」


結は小さく笑う。


「湊らしい。」


「結は?」


結は少しだけ考えた。


そして、窓の外を見たまま答えた。


「今。」


「今?」


「うん。」


「今日。」


湊は少し照れくさくなった。


「そんなに今日楽しかった?」


「うん。」


結は頷く。


「だから。」


「終わってほしくない。」


その言葉に、湊は冗談っぽく笑う。


「また来ればいいじゃん。」


「来年も。」


「再来年も。」


「そうだね。」


結も笑った。


でも、その笑顔はどこか儚かった。


観覧車は一番高い場所まで来ていた。


夕日が海へ沈み始める。


「きれい。」


結は静かに呟く。


「今日ね。」


また、その言葉だった。


湊は結を見る。


「うん。」


「話したいことがあるの。」


「……。」


「でも。」


結は少しだけ笑った。


「今日はやめる。」


「なんで?」


「今日は。」


結は夕日を見つめたまま答える。


「今日を、楽しかった一日のまま覚えていたいから。」


湊は少し不思議に思ったが、それ以上は聞かなかった。


「じゃあ、今度聞く。」


「うん。」


結は静かに頷く。


「今度ね。」


ゴンドラがゆっくりと地上へ近づいていく。


その時の僕は、まだ信じていた。


“今度”は、必ず来るものだと。

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