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『デジャブの先で、君にもう一度』~もし、あの日がもう一度訪れたなら~  作者: Toi
最終章 未来はひとつじゃない

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5-8 「新たな未来」〜END〜

最終話


それから数週間が過ぎた。


季節は春から初夏へ変わろうとしていた。


「部長、お疲れさまです。」


帰ろうとした湊へ、若い社員が声を掛ける。


「相談した件なんですが、無事にまとまりました。」


「そう。」


湊は嬉しそうに微笑んだ。


「よかった。」


「ありがとうございます。本当に神谷部長のおかげです。」


青年は深く頭を下げ、仲間の待つエレベーターホールへ駆けていった。


その姿を見送りながら、湊は小さく息をつく。


昔なら、自分の仕事が終わればそれでよかった。


今は違う。


誰かが笑って帰れる一日を、自分も嬉しいと思える。


スマートフォンが震えた。


朝比奈からだった。


今日のお店、予約できました。


前に話していたイタリアンです。


思わず笑みがこぼれる。


すぐに返信する。


楽しみにしてる。


送信すると、すぐに既読がついた。


よかった。


実は少し緊張してました。


湊は画面を見つめ、ふっと笑う。


実は俺も。


送信したあと、自分でも少し照れくさくなる。


エントランスを出ると、夕焼けが街をオレンジ色に染めていた。


遠くで子どもたちの笑い声が聞こえる。


横断歩道の向こうでは、手をつないで歩く老夫婦がいた。


何気ない景色だった。


けれど、今の湊には、その一つひとつが愛おしかった。


スマートフォンをポケットへしまい、空を見上げる。


あの日、結は言った。


『今の湊のままなら、私たちはきっと幸せになれない。』


あの言葉は、別れの言葉ではなかった。


未来へ送り出す言葉だったのかもしれない。


湊は静かに目を閉じる。


心の中で、そっと呟く。


「ありがとう。」


春の終わりを告げる風が吹く。


その風は、どこか懐かしくて、どこまでも優しかった。


湊は前を向き、歩き出す。


その先にどんな未来が待っているのかは、まだ分からない。


それでも、もう迷いはなかった。


一歩ずつ。


誰かと向き合いながら。


自分の心にも向き合いながら。


未来を選んでいく。


そんな毎日が、きっと幸せなのだと信じられた。

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