4-7 「私が別れを選んだ理由」
第七話
『だからね。』
最後まで、本当に悩みました。
このままでいいのか。
もう少し待った方がいいのか。
私がもっと頑張れば変わるのか。
毎日のように考えていました。
⸻
湊のことは、
最後まで大好きでした。
この手紙を書いている今も、
その気持ちは変わっていません。
⸻
だから苦しかった。
好きだから、
離れたくなかった。
好きだから、
このままじゃいけないと思いました。
⸻
私ね。
ある日、ふと思ったの。
⸻
このまま結婚したら、
十年後も。
二十年後も。
私たちは、
『また今度話そう。』
を繰り返しているのかなって。
⸻
その未来を想像した時、
一番悲しかったのは、
私が幸せじゃないことじゃありません。
⸻
湊も、
幸せじゃない気がしたんです。
⸻
湊は優しいから。
私が寂しかったことを知ったら、
きっと自分を責める。
無理をしてでも、
私のために時間を作ろうとする。
そんな人だから。
⸻
でも、
私はそんな湊を望んでいたわけじゃない。
無理をして笑う湊じゃなくて、
心から笑う湊が好きでした。
⸻
だから、
一度だけ立ち止まろうって思ったの。
⸻
別れることが、
ゴールじゃありません。
諦めたかったわけでもありません。
⸻
もし。
この別れが、
湊が自分自身と向き合うきっかけになるなら。
私と過ごした五年間に、
意味があったと思えるから。
⸻
酷いよね。
最後まで、
私は湊との幸せを願っていました。
自分でも、
おかしいなって思います。
⸻
でも、
好きって、
そういうことなんだと思います。
⸻
一つだけお願いがあります。
⸻
私とのことを、
後悔だけの思い出にしないでください。
あの水族館も。
道に迷った旅行も。
コンビニで半分こしたアイスも。
五年目の記念日も。
映画に行けなかった休日も。
全部、
私にとっては大切な思い出です。
⸻
だから、
笑って思い出せる日が来たら嬉しい。
『結と出会えてよかった。』
そう思ってもらえたら、
私は十分幸せです。
⸻
そしてね。
もし、
また誰かを好きになる日が来たら。
⸻
今度は、
『また今度。』
じゃなくて。
『今日話そう。』
って言える人でいてください。
⸻
きっと、
その人は幸せになります。
⸻
私も、
湊と出会えて幸せでした。
本当に。
本当にありがとう。
湊は便箋を胸に抱き寄せた。
涙が止まらなかった。
「ありがとう」と書かれている。
責める言葉は、一つもなかった。
だからこそ苦しい。
「ごめん。」
何度も呟く。
けれど、その言葉を聞いてくれる人は、もうここにはいない。
それでも湊は、最後の一枚の便箋へ静かに手を伸ばした。




