4-6 「最後まで信じていた」
第六話
『でもね。』
勘違いしてほしくないことがあります。
私は、
あの日に別れようと思ったわけじゃありません。
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映画に行けなかったことも。
記念日に遅れてきたことも。
それだけで嫌いになるくらいなら、
五年も一緒にいません。
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湊は、
本当に優しい人だから。
誰かが困っていたら放っておけなくて。
頼られたら断れなくて。
自分のことは後回しにしてしまう人。
私は、
そんなところが大好きでした。
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でもね。
その優しさを、
私は少しだけ勘違いしていました。
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仕事が落ち着いたら。
この案件が終わったら。
来月になったら。
『その時はきっと。』
って。
私も信じていました。
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だから、
一緒に住み始めた頃に買ったマグカップも、
新しいのに替えませんでした。
『これくらいならまだ使えるよ。』
って笑ってたでしょう?
あれ、本当だよ。
私、
思い出を捨てるのが苦手だから。
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未来も、
同じだったの。
『もう少ししたら。』
『きっと大丈夫。』
って。
今日じゃなくても、
明日なら。
明日じゃなくても、
来週なら。
そう思っていました。
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だからね。
私も悪かったんだよ。
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『今日は少し話せる?』
その一言を、
言えませんでした。
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『疲れてるよね。』
『今日はやめておこう。』
『また今度にしよう。』
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気が付いたら、
私まで『また今度』ばかり言うようになっていました。
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でも。
『また今度』って、
不思議だね。
一回くらいなら、
本当に”また今度”になるの。
でも、
何度も繰り返すと、
いつの間にか、
約束じゃなくなっていました。
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私ね。
本当は、
特別なことなんて望んでなかった。
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高いプレゼントも、
高級なお店も、
サプライズもいらなかった。
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ご飯を食べながら、
今日こんなことがあったよって話したり。
ソファでくだらないテレビを見ながら笑ったり。
『おやすみ。』
って言って眠る毎日が、
ずっと続けばいいと思っていました。
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だから、
私は最後まで信じていました。
『きっとまた笑える。』
って。
『私たちは大丈夫。』
って。
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でもね。
信じることと、
向き合うことは、
少しだけ違ったみたいです。
湊は便箋を持つ手をゆっくりと下ろした。
「信じていた。」
その言葉が胸に刺さる。
結は待っていた。
責めることもせず、
怒ることもせず、
ただ、
「きっと大丈夫。」
そう信じ続けてくれていた。
その優しさに甘えていたのは、
自分だったのかもしれない。
涙で滲んだ文字を見つめながら、
湊は静かに次の便箋へ手を伸ばした。




