4-4 「五年目の記念日」
第四話
『でもね。』
一つだけ。
今でも思い出す日があります。
五年目の記念日です。
湊の指先に力が入る。
静かに続きを読んだ。
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少し背伸びして予約したレストラン。
コース料理なんて、私たちには珍しかったよね。
『今日はいっぱい写真撮ろうね。』
『料理より結の写真ばっかり撮るかも。』
『やめてよ、恥ずかしい。』
そんな話をしながら笑っていました。
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私は少し早くお店へ着きました。
窓際の席で、
『今日はどんな料理かな。』
なんて考えながら待っていました。
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約束の十分くらい前だったかな。
湊からメッセージが届きました。
『ごめん。仕事が長引いてる。三十分くらい遅れそう。』
『分かった。気を付けて来てね。』
三十分くらいなら、
すぐだと思っていました。
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約束の時間を過ぎて三十分くらいした頃。
店員さんが来て、
『そろそろお料理を始めてもよろしいでしょうか。』
と、申し訳なさそうに聞かれました。
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『もう少しだけ待ってもいいですか。』
そうお願いすると、
『もちろんです。』
と笑ってくださいました。
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でも、
その三十分も過ぎてしまいました。
店員さんは、
『申し訳ございません。次のお客様が入っておりますので』
と何度も頭を下げてくれて。
私も、
『こちらこそすみません。……お願いします。』
そう言って、
記念日が始まりました。
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前菜が運ばれてきました。
『きれいだね。』
『これ何だろう。』
『写真撮ろう。』
きっと、
二人でなら、そんな話をしていたんだと思います。
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一人で『いただきます。』
と小さく言いました。
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お店のドアが開くたびに、
顔を上げていました。
『湊かな。』
って思って。
違う人だと分かると、
またフォークを持って。
またドアが開くと、
顔を上げて。
その繰り返しでした。
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一皿目が終わって。
スープが運ばれてきて。
周りのテーブルからは、
『おめでとう。』
って声が聞こえてきました。
みんな笑っていて。
楽しそうで。
私も、
『もうすぐ湊が来る。』
って思っていました。
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一時間くらい経った頃。
ドアが開いて。
今度は、
本当に湊でした。
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『ごめん!本当にごめん!』
息を切らしながら、
何度も謝ってくれたね。
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私ね。
本当に嬉しかった。
『来てくれた。』
って。
心から思いました。
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あの日の料理も、
デザートも、
本当においしかった。
いっぱい笑ったし、
写真も撮った。
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だからね。
あの日は、
嫌な思い出じゃないんだ。
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でも。
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『記念日おめでとう。』
って笑い合いながら、
一緒に始めたかった記念日は。
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あの日は、
戻ってきませんでした。
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それでも私は、
『仕事だから仕方ないよ。』
って思ってた。
本当にそう思ってた。
湊は誰かのために頑張ってたんだもん。
応援したいって思ってた。
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だから、
この一日だけで何かが変わったわけじゃないよ。
安心してください。
まだちゃんと大好きでした。
湊は思わず笑ってしまった。
涙でぐしゃぐしゃなのに、
最後の一文だけは、
結が目の前で笑いながら言っているようだった。
『安心してください。』
そんな言葉まで、
結らしかった。
そして、
次の便箋をめくる。
そこには、
少しだけ筆圧の強くなった文字が並んでいた。




