4-3 「あなたと出逢えて」
第三話
『湊へ。』
この手紙を読んでくれてありがとう。
最後まで読んでくれたら嬉しいです。
……途中で閉じたら、たぶん怒ります。
思わず湊は笑った。
「それはありそうだな。」
結らしい書き出しだった。
まるで目の前に座って話しているような文章。
自然と肩の力が抜ける。
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最初に、一つだけ伝えたいことがあります。
私はね。
この五年間、本当に幸せでした。
ありがとう。
湊は便箋を見つめたまま動けなかった。
涙が一滴、紙の端へ落ちる。
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この手紙を書く前に、
『何を書こうかな。』
って考えました。
でもね。
思い出そうとすると、
楽しかったことばっかり出てくるんだよ。
不思議だよね。
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初めて会った日のこと、覚えてる?
私はちゃんと覚えてるよ。
第一印象は、
『優しそうな人。』
でした。
イケメンだからじゃないよ?
……たぶん。
湊は吹き出した。
「そこは否定しろよ。」
思わずそう返してしまう。
部屋には自分しかいない。
それでも、
結なら笑ってくれそうな気がした。
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あの日。
新人の子がコピー機の前で困ってたよね。
周りのみんなは忙しそうに通り過ぎていったけど、
湊だけ立ち止まって、
『一緒にやろうか。』
って言ってた。
あれを見て、
『この人、優しいな。』
って思いました。
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それからも、
落とした書類を一緒に拾ったり。
道に迷っているお客さんを案内したり。
誰かが困っていたら、
当たり前みたいに手を貸してたよね。
本人は覚えてないかもしれないけど。
私は、そういうところをちゃんと見てました。
湊はゆっくりと目を閉じる。
そんなことまで覚えていたのか。
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あとね。
笑い方も好きでした。
大笑いじゃなくて、
少し照れたみたいに笑うところ。
あの笑顔を見ると、
私まで嬉しくなってた。
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初めて二人でご飯に行った日も覚えてる?
メニューを見ながら、
二人とも全然決められなくて。
五分くらい悩んだのに、
結局最初に気になったものを頼んで。
『この時間なんだったんだろうね。』
って笑ったよね。
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水族館では、
イルカよりペンギンを見てる時間の方が長かったし。
『歩き方が結に似てる。』
って言われたの、
まだ覚えてるからね。
……ちょっとだけ嬉しかったけど。
湊は涙を拭いながら笑う。
「怒ってたじゃないか。」
写真の中でも、
結は少し頬を膨らませていた。
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スーパーで、
『今日は何食べる?』
って話しながら歩く時間も好きだった。
コンビニで新作アイスを見つけるたびに、
半分ずつ食べたり。
休日のお昼まで寝ちゃって、
『朝ご飯と昼ご飯、一緒でいいか。』
って笑ったり。
ああいう何でもない日が、
私は一番好きでした。
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将来の話も、いっぱいしたね。
『子どもが生まれたら公園に連れて行こう。』
『犬も飼いたいね。』
『年を取ったら温泉巡りしよう。』
本当に叶うと思ってたんだよ。
湊の視界が滲む。
便箋の文字がぼやけていく。
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私ね。
湊と出会えて、本当に幸せでした。
この人となら、
きっとおばあちゃんになっても笑っていられる。
そう信じてました。
一度、大きく息を吐く。
便箋を持つ手が震える。
ページの最後には、短い一文だけが書かれていた。
『でもね。』
その二文字だけで、
胸の奥がぎゅっと締めつけられた。
湊はゆっくりと次の便箋をめくった。




