↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『デジャブの先で、君にもう一度』~もし、あの日がもう一度訪れたなら~  作者: Toi
第4章 向き合う

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
34/50

4-2 「はじまり」

第二話


部屋の中は静かだった。


冷蔵庫のモーター音だけが、規則正しく響いている。


湊はネクタイを緩め、ソファへ腰を下ろした。


自然と机の方を見る。


昨日と変わらず、一通の封筒が置かれていた。


『湊へ』


たった二文字の名前なのに、胸の奥が締めつけられる。


昨日は読めなかった。


今日も怖い。


読んでしまえば、本当に終わってしまう気がした。


湊は目を逸らした。


テレビをつける。


賑やかな笑い声が部屋を満たす。


誰かが大きな声でツッコミを入れ、スタジオが笑いに包まれる。


数分後。


リモコンで電源を切った。


また静寂が戻る。


「……何やってるんだ。」


苦笑する。


スマートフォンを開く。


仕事のチャット。


メール。


ニュース。


指だけが画面を動く。


内容は何一つ頭に入ってこない。


閉じる。


また封筒が目に入る。


「逃げてるな。」


自分で呟いてしまった。


立ち上がり、キッチンへ向かう。


冷蔵庫を開ける。


ミネラルウォーターを取り出そうとして、隣にあるマグカップへ目が止まった。


白地に、小さな青い花。


結が気に入っていたマグカップだった。


縁が少し欠けている。


「……あ。」


思い出した。


引っ越して間もない頃。


洗い物をしていた結が、


『やっちゃった。』


と苦笑いしていた。


『新しいの買おう。』


そう言うと、


『これくらいなら、まだ使えるよ。』


と笑っていた。


『物にも思い出があるから。』


そう言っていたことまで思い出す。


湊はマグカップをそっと元の場所へ戻した。


リビングへ戻る。


机の横には、本棚がある。


何気なく一冊のアルバムを取り出した。


最初のページ。


水族館。


結はイルカよりペンギンではしゃいでいた。


次のページ。


旅行。


道に迷って一時間歩いたのに、


『これはこれで楽しかったね。』


と笑っていた。


誕生日。


クリスマス。


何でもない休日。


写真の中の結は、いつも笑っていた。


湊も笑っていた。


「……幸せだったな。」


その一言が、静かな部屋へ溶けていく。


ページをめくる手が止まった。


結がこちらを見て笑っている。


その笑顔に向かって、


シャッターの向こう側の自分も笑っていたはずだ。


「……ごめん。」


写真に謝っても、返事はない。


アルバムを閉じる。


その隣に置かれた封筒へ目を向けた。


今までなら、


「また今度読もう。」


そう思っていた。


仕事が落ち着いたら。


気持ちの整理がついたら。


もう少しだけ時間が経ったら。


でも、向き合うって、


準備ができてからすることじゃないのかもしれない。


怖くても。


苦しくても。


今、向き合うことなんだ。


湊はゆっくりと封筒を手に取る。


紙越しに、結の文字の感触が伝わる気がした。


深く息を吸う。


「結。」


小さく名前を呼ぶ。


「ちゃんと読む。」


震える指で封を切る。


一枚目の便箋を取り出す。


見慣れた、少し丸い字。


その瞬間。


結が目の前で、


『ちゃんと最後まで読んでね。』


と笑った気がした。


湊は小さく笑い返し、最初の一行へ視線を落とした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。