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1-2 「十五分だけ」

第二話


「もしもし、どうした?」


電話の向こうから、焦った声が聞こえてきた。


昨日提出した設計書に不備が見つかり、顧客への説明が必要になったらしい。


「分かった。資料を送って。確認する」


湊はスマートフォンを耳に当てたまま、駅前の柱へ移動した。


三分で終わらせるつもりだった。


けれど、部下の説明を聞くうちに、修正すべき箇所が次々と見つかる。


五分。


十分。


十五分。


通話を終えた時、結は同じベンチに座っていた。


手には、二本の缶コーヒー。


湊が近づくと、何も言わずに片方を差し出した。


「ブラック」


「ありがとう。冷たいやつ?」


「湊、暑くても温かいの飲むでしょ」


「よく分かってるな」


「五年一緒にいるので」


結は自分のカフェオレを開けた。


プシュッという音だけが、二人の間に響く。


「ごめん。長くなった」


「うん」


「怒ってる?」


「怒ってないよ」


結は笑っていた。


本当に怒っていないように見えた。


だから湊は安心して、仕事の説明を始めた。


「昨日出した設計書にミスがあってさ。佐伯もまだ経験が浅いから、俺が見てやらないと」


「そっか」


「今日中に顧客へ連絡しないと、月曜の作業にも影響が出るんだよ」


「大変だね」


結は相槌を打ちながら、缶を両手で包んでいた。


「でも、もう大丈夫。今日はこれで終わり」


「本当に?」


「たぶん」


「たぶんなんだ」


結が小さく笑う。


湊もつられて笑った。


「じゃあ、水族館へ行こう」


立ち上がった結が、湊の袖を軽く引く。


二人は並んで改札へ向かった。


途中、湊は会社用のスマートフォンをポケットへ戻した。


その隣で、結が何かを言いかけた。


「湊、私ね」


「ん?」


結は一瞬だけ迷い、首を横に振った。


「ううん。やっぱりあとで」


「何だよ、気になるじゃん」


「あとで話す」


結は笑った。


その時、湊は気付かなかった。


彼女の言う「あとで」が、少しずつ減っていくことに。

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