2-8 「交差する未来」
第八話
それから数日。
違和感は、少しずつ増えていた。
毎日起きるわけではない。
何もない日もある。
だからこそ、気のせいだと思おうとしていた。
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金曜日。
仕事帰り。
駅前の信号が赤に変わる。
横断歩道には二十人ほどが立ち止まっていた。
湊もその列へ並ぶ。
何気なく前を見る。
若い母親。
ベビーカー。
制服姿の高校生。
スーツ姿の男性。
犬を散歩する老人。
どこにでもある景色だった。
信号が青へ変わる。
その瞬間。
世界が止まった。
いや。
止まったように感じた。
母親が歩き出す。
高校生も渡り始める。
老人が犬を抱き上げる。
スーツ姿の男性はスマートフォンを見ながら歩く。
そこまでは同じだった。
次の瞬間。
景色が枝分かれした。
高校生が走る。
転ぶ。
膝をつく。
――違う。
高校生は友人へ手を振り、笑っている。
――違う。
赤信号を無視した自転車が飛び込む。
母親がベビーカーを引き戻す。
――違う。
犬がリードを引っ張る。
老人が転ぶ。
――違う。
スーツ姿の男性がスマートフォンを落とす。
誰かが拾う。
――違う。
誰も気付かない。
踏まれる。
景色が。
何度も。
何度も。
塗り替わる。
重なる。
増えていく。
「……っ。」
息が詰まる。
どれが本当だ。
どれが現実なんだ。
耳鳴りがする。
頭の奥が熱い。
「神谷さん!」
誰かが肩を掴んだ。
景色が戻る。
信号はまだ赤だった。
「大丈夫ですか!」
朝比奈だった。
佐伯も隣にいる。
「顔、真っ青ですよ。」
「駅で偶然会ったから声掛けたのに……。」
「全然反応なくて。」
湊はゆっくり周りを見渡す。
信号は赤。
誰も渡っていない。
さっき見た景色は、まだ何一つ起きていない。
やがて。
信号が青へ変わる。
人が歩き始める。
高校生は友人と笑いながら歩く。
老人は犬とゆっくり渡る。
母親はベビーカーを押す。
スーツ姿の男性はスマートフォンをポケットへしまった。
何も起きない。
何一つ。
見た未来とは違う。
「……何で。」
思わず呟く。
「神谷さん?」
朝比奈が心配そうに覗き込む。
湊は首を横に振った。
「いや……。」
「何でもない。」
そう答えながらも、
心臓だけは激しく鼓動していた。
二つじゃなかった。
三つでもなかった。
あれは。
数え切れないほどの未来だった。
その夜。
ノートを開く。
震える手で、一行だけ書いた。
未来は、一つじゃない。
書き終えた瞬間。
窓の外で、風が鳴った。
誰もいない部屋。
静寂の中で。
どこからともなく。
誰かが笑った気がした。
振り返る。
誰もいない。
ただ。
胸の奥だけが、
これまでで一番強くざわついていた。




