2-3 「思い出は残る」
第三話
三週間が過ぎた。
「時間が解決する。」
そんな言葉を誰かが言っていた。
嘘だと思った。
時間は、何も解決しない。
思い出を少しずつ日常へ変えていくだけだった。
⸻
会社帰り。
駅前のパン屋から甘い匂いが漂ってくる。
ふと足が止まった。
ショーケースの中には、クリームパンとカレーパンが並んでいる。
思わず笑ってしまう。
『今日はどっち?』
あの日と同じ声が頭の中で聞こえた。
「カレーパン。」
心の中で答える。
返事はない。
湊は店へ入った。
クリームパンを一つ。
カレーパンを一つ。
レジで会計を済ませる。
家へ帰る。
袋を開ける。
二つ並べる。
そこまでして、手が止まった。
「……何やってるんだ。」
一人なのに。
二つ買ってしまった。
結局、クリームパンには手を付けられなかった。
翌朝まで、そのままテーブルの上に残っていた。
⸻
夜。
スマートフォンの写真を整理していると、水族館のアルバムが目に入る。
開く。
真顔の二人。
夕焼け。
観覧車。
イルカショー。
そして。
少しだけ目を閉じて笑う結。
「あ。」
思わず声が漏れた。
水族館で撮った写真だった。
「これが今日だから。」
結はそう言っていた。
失敗写真なのに。
撮り直さなかった。
湊は画面を指でなぞる。
「……本当に、そのままだな。」
写真の中の結は、今にも笑い出しそうだった。
自然と頬が緩む。
でも次の瞬間には、涙がこぼれていた。
止めようとしても止まらない。
「なんで……。」
会いたい。
ただ、それだけだった。
何を話したいのかも分からない。
謝りたいのか。
抱きしめたいのか。
もう一度やり直したいのか。
それすら分からない。
ただ。
会いたかった。
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その夜。
眠れずにベランダへ出る。
夜風が少し冷たい。
結が好きだった季節が、少しずつ近づいていた。
「また来よう。」
水族館で交わした約束を思い出す。
「来年も。」
「再来年も。」
「おじいちゃん、おばあちゃんになっても。」
叶わなかった。
たった三日前に交わした約束なのに。
「……結。」
名前を呼んでも、返事はない。
静かな夜だった。
その時だった。
ふと視界の端に、誰かが立っている気がした。
反射的に振り返る。
誰もいない。
「疲れてるな……。」
小さく笑う。
そう思い込もうとした。
でも。
胸の奥のざわつきだけは、少しずつ大きくなっていた。




