2-2 「逃げ場所」
第二話
別れてから二週間が過ぎた。
時間は進んでいる。
なのに、湊だけが取り残されていた。
会社へ行く。
仕事をする。
帰る。
眠る。
朝になる。
毎日、その繰り返しだった。
休日になっても変わらない。
午前九時。
目は覚めている。
でも、ベッドから起き上がる理由が見つからない。
以前なら、この時間には結から電話がかかってきていた。
「まだ寝てるの?」
笑いながら布団を剥がされる。
「今日はどこ行く?」
そんな他愛もない会話から、一日が始まっていた。
静かな部屋には、もう誰の声もない。
天井を見つめたまま、一時間が過ぎる。
ようやく起き上がり、カーテンを開ける。
外はよく晴れていた。
それだけで少し腹が立った。
こんな日くらい、雨でいいのに。
⸻
昼過ぎ。
冷蔵庫を開ける。
何もない。
買い物へ行かなければ。
そう思いながら、また閉じる。
腹は減っている。
でも、食べたいものがない。
結はよく言っていた。
「ちゃんと食べないと、ちゃんと頑張れないよ。」
その言葉を思い出し、苦笑いする。
「ちゃんと、か。」
結がいなくなってから、
何一つちゃんとできていない。
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夕方。
会社用のスマートフォンが鳴る。
佐伯だった。
「神谷さん、お休みのところすみません。」
「どうした?」
「月曜日の資料なんですけど、一か所だけ確認したくて。」
五分ほどで電話は終わった。
「ありがとうございました!」
「休みなのに助かりました!」
電話が切れる。
静かな部屋へ戻る。
湊はソファへ座ったまま、小さく息を吐いた。
仕事をしている時間だけは、少し楽だった。
結のことを考えなくて済む。
だから。
仕事が終わると、また苦しくなる。
「逃げてるな。」
自分で分かっていた。
仕事から逃げていた昔とは逆だった。
今は仕事へ逃げている。
⸻
ふと棚を見る。
白い封筒が置いてある。
あの日から、一度も動かしていない。
読む勇気はない。
でも捨てることもできない。
「……ごめん。」
誰に向かって謝ったのか、自分でも分からなかった。
封筒から目を逸らし、テレビをつける。
バラエティ番組。
芸人が笑っている。
観客も笑っている。
湊はリモコンの電源を押した。
笑い方を忘れてしまったような気がした。
部屋はまた静かになる。
時計の針だけが、規則正しく時を刻んでいた。
時間は進んでいる。
でも。
僕だけが、あの日で止まったままだった。




