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1-11 「また明日」

第十一話


駅の改札が見えてきた。


朝はあんなに長く感じた一日が、もう終わろうとしている。


「今日、ありがとう。」


結が言った。


「こっちこそ。」


「楽しかった。」


「俺も。」


自然な会話だった。


いつもの帰り道。


いつもの改札。


いつもの「またね」。


今日も、そうなるはずだった。


「湊。」


結が立ち止まる。


少しだけ深呼吸をした。


その姿を見て、湊も足を止める。


「どうした?」


結は湊を見つめた。


何かを決めたような目だった。


そして、小さく笑う。


「少し話があるんだけど。」


その瞬間だった。


胸の奥がざわつく。


頭の中で、何かが軋む。


――知っている。


そんなはずがない。


でも。


次に結が言う言葉を、


僕は知っている気がした。


『最近ね。』


違う。


『湊といても。』


違う。


頭の中に、いくつもの言葉が流れる。


どれも結が言いそうで、


どれも結が言わなそうだった。


「……湊?」


結の声で我に返る。


「大丈夫?」


「あ……。」


何だったんだ、今のは。


心臓だけが、速く脈を打っている。


「ごめん。」


「ぼーっとしてた。」


結は少しだけ心配そうな顔をした。


「疲れた?」


「うん。」


「ちょっとだけ。」


湊は笑ってごまかした。


結もそれ以上は聞かなかった。


少しだけ間が空く。


駅へ向かう人たちが、二人の横を通り過ぎていく。


結は一度だけ視線を落とした。


そして、もう一度笑った。


「……やっぱり今日はやめる。」


「え?」


「今日は、楽しかったから。」


「最後まで楽しい一日にしたい。」


湊は少し拍子抜けした。


「なんだ。」


「びっくりした。」


「ごめん。」


結は困ったように笑う。


「また今度、ちゃんと話すね。」


「分かった。」


湊は何も疑わず頷いた。


また今度。


その言葉を疑う理由なんて、一つもなかった。


だから僕は笑って手を振った。


「じゃあ、また。」


結も、小さく手を振り返す。


「またね。」


その「またね」が。


僕たちが恋人として交わした、


最後の言葉になることを、


あの日の僕は、まだ知らなかった。

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