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幼馴染と婚約したけど聖女も好きになったので頑張って爵位を取り、二人の女の子と結婚したい件  作者: ふくみどり
帝国学園編2年生

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気付かなかった大切なもの

ワーランへ向かったベラミカの足取りは、いつもより少し重かった。


セーニャと話をしたことで、妹の気持ちは理解できた。


幸せそうだった。


オルメスのことを話す時の表情も、

ウェディングドレスの話をする時の笑顔も、本当に嬉しそうだった。


だからこそ、言葉を選ばなければならない。


その幸せを壊すために行くのではない。

ただ、事実を伝えるために行くのだと、何度も自分に言い聞かせる。


ベラミカは小さく息を吐き、ワーランの建物へ入った。


中へ入ると、ちょうど見慣れた二人の姿が目に入った。


イヴァンスとクラリス。


何か話しているようだったが、ベラミカは少し迷った後、二人へ近づいた。


「イヴァンス」


「ん?」


振り返ったイヴァンスが笑顔を向ける。


だが、その笑顔を見た瞬間、ベラミカの胸が少し痛んだ。


今から伝えることが、この笑顔を曇らせると分かっていたから。


「少し……話があるの」


「話?」


ベラミカの表情を見て、イヴァンスの笑顔がわずかに消える。


何かを感じ取ったように、視線が揺れた。


「……セーニャのこと?」


その言葉に、ベラミカは一瞬だけ目を伏せる。


やはり気付いていた。


ワーランまで来て、自分がこんな表情で話しかける理由。

イヴァンスにも、ある程度の予想はついていたのだろう。


「あまり人がいるところでは……」


ベラミカの言葉に、クラリスは小さく頷く。


余計な詮索をすることもなく、ただ静かに立ち上がった。


三人は空いていた個室へ移動する。


廊下を歩く間、誰も多くは語らない。

足音だけが、やけに大きく響いていた。


扉が閉まる。


静かな部屋の中で、空気が一段と重くなる。


ベラミカは少しだけ言葉を探した。


何から言えばいいのか分からない。


だが、結局は真実をそのまま伝えるしかなかった。


「イヴァンス……」


呼びかける声が少しだけ震える。


イヴァンスは黙ったまま、ベラミカを見る。

その表情には、すでに小さな不安が浮かんでいた。


「セーニャのことなんだけど」


その言葉を聞いて、イヴァンスはゆっくり目を伏せる。


やはり、そうだったのだと。


何かを覚悟するように。


「やっぱり……オルメス様と結婚するみたい」


一瞬。


時間が止まったようだった。


空気が固まる。


イヴァンスのまばたきすら、遅く感じられた。


「……」


イヴァンスは何も言わなかった。


だが今度は違う。


“理解が追いついていない”のではない。


“理解したくない”が先に来ている沈黙だった。


「ウェディングドレスを作ったことも聞いたわ」


ベラミカは続ける。


「それに……日程も決まっているって」


静かな声だった。


責めるような言い方ではない。


ただ、事実を一つずつ積み上げているだけ。


だからこそ、イヴァンスには逃げ場のない重さとして響いた。


「……そうか」


しばらくして、ようやく出た声は小さかった。


掠れていて、どこか遠くから出てきたような声。


「そう……なんだな」


イヴァンスは俯く。


視線が床に落ちる。


そのまま動かない。


「俺……」


拳を握り締める。


指が白くなるほど強く。


「俺が……ちゃんとしていれば」


「もっとちゃんと向き合っていれば……」


「違う結果になったのかな」


その言葉は、誰に向けたものでもなかった。


自分自身への問いかけであり、答えのない後悔だった。


ベラミカは何も言えなかった。


以前のイヴァンスなら、もっと必死に何かをしようとしていたかもしれない。


だが今は違う。


どこか諦めたような顔をしている。


吹っ切れたと言っていた。


それなのに。


本当は、全然吹っ切れてなどいなかった。


「俺は……何をしていたんだ。」


「ずっと近くにいたのに」


「セーニャが何を考えているのか……」


「俺は……」


言葉が途切れる。


その様子を見ていたクラリスが、静かに息を吐いた。


そして、ゆっくりと口を開く。


「……あきれたわ」


「え?」


イヴァンスが顔を上げる。


クラリスは真っ直ぐ彼を見る。


その視線は逃げ道を許さない。


「本当にあきれた、イヴァンス」


「私にはあれだけ積極的に求婚したくせに」


「セーニャには、何もしてないじゃない」


イヴァンスの表情が固まる。


「……」


「なのに」


クラリスの声が少しずつ強くなる。


「オルメス様と結婚するって分かった途端、なんでその態度なの?」


「今になって後悔するの?」


「違う……俺は……」


「違わないわ」


クラリスは即座に遮った。


迷いがない。


「セーニャはね」


「あなたのことが好きだったのよ」


その言葉に。


イヴァンスは目を見開いた。


「……え?」


「知らなかったの?」


クラリスの声が震える。


怒りなのか、呆れなのか、それとも別の感情なのか、自分でも整理できていないようだった。


「二年間ずっと」


「セーニャは、イヴァンスと一緒にいたいって必死だったのよ」


「あなたの隣にいたいって」


イヴァンスは何も言えない。


頭の中で、これまでの記憶が一気に蘇る。


いつも隣にいたセーニャ。


自分を支えてくれた彼女。


笑顔を向けてくれた姿。


「……俺は」


声が震える。


「気付いて……なかった」


「そうでしょうね」


クラリスはため息をついた。


怒りというより、呆れに近い。


「だから言ってるのよ」


「セーニャはね、普通の女の子なのよ」


「十七歳の女の子なのよ!」


「そんな子が……」


クラリスは拳を握る。


「騎士団の代表や、上位冒険者が参加するような闘技大会に出ると思う?」


イヴァンスは息を飲む。


「一般の部よ?」


「普通なら怖いに決まってるじゃない」


「それでも出たの」


「あなたの横にいたかったからよ」


その言葉が、胸に突き刺さる。


「……」


「分かるでしょ?」


「普通なら」


「気付くでしょ!」


クラリスの声が大きくなる。


抑えていたものが溢れ出すように。


「なのに……」


「なのにあなたは……」


「自分の気持ちばかりで、セーニャの気持ちを見ようとしなかったじゃない!」


部屋に沈黙が落ちる。


イヴァンスは俯いた。


何も言い返せなかった。


否定できる材料が、どこにもなかった。


「今更……」


クラリスは震える声で続ける。


「今更、オルメス様と結婚するって聞いたからって動いたって……」


「セーニャに迷惑をかけるだけでしょ」


「あなたが本当にセーニャのことを大切に思っているなら」


「彼女の幸せを考えなさいよ」


最後の言葉は、怒鳴り声ではなかった。


むしろ、絞り出すような悲痛な声だった。


「ああ……もう!」


クラリスは頭を抱える。


感情の整理が追いつかない。


「イヴァンス」


「あなた、私の婚約者なのよ?」


「なのに……」


一瞬、言葉に詰まる。


怒りだけではない何かが喉を塞ぐ。


「なのに、腹が立って仕方ないわ」


イヴァンスを見る。


その目には確かに怒りがある。


だが同時に、どうしようもない心配も滲んでいた。


「もう知らない。教会行って懺悔でもしてきなさい!」


クラリスはそう言い残すと、勢いよく扉へ向かう。


「クラリス……」


呼び止める声にも振り返らない。


扉が閉まる。


残された部屋には、重い沈黙だけが残った。


ベラミカは俯いたままのイヴァンスを見つめる。


さっきまでの“不安”はもう消えている。


代わりにあるのは、はっきりとした喪失感だった。


そして同時に。


妹がどれだけ長い間、想いを抱えていたのかも。


誰も悪くない。


ただ、気付くのが遅すぎただけ。


その遅さが、取り返しのつかない距離を生んでしまったのだ。

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