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幼馴染と婚約したけど聖女も好きになったので頑張って爵位を取り、二人の女の子と結婚したい件  作者: ふくみどり
帝国学園編2年生

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仲間集め

その日の夜。


ワーランの一階は、夕食を終えた宿泊客や学生たちが思い思いの時間を過ごしていた。

暖炉の火が静かに揺れ、談笑する声が広間を包んでいる。


イヴァンスは夕食を終えると、窓際の席で温かいお茶を飲んでいた。


しばらくすると、クラリスが飲み物を手に近付いてくる。


「隣、いい?」


「ああ」


クラリスは向かいへ腰を下ろした。


昼間に軍務省へ呼び出されていたことを知っていたため、

どんな話だったのか気になっていたのだろう。


「ディハン軍務卿に呼ばれたんでしょ?」


「ああ」


イヴァンスは一度頷く。


「四月から正式に近衛騎士団へ入隊することになった」


「うん」


「それと同時に、独立部隊を任されることになった」


クラリスは目を丸くした。


「独立部隊?」


「ああ。正式な隊長として、まず最初にメンバーを決めろって言われた」


「軍務省も希望する相手にはできる限り交渉を協力してくれるらしい」


「へぇ……」


クラリスは素直に感心したように声を漏らす。


近衛騎士団へ配属されるだけでも異例なのに、

卒業と同時に一部隊を任されるなど前例を聞いたことがない。


それだけディハンがイヴァンスへ期待しているということなのだろう。


イヴァンスは少しだけ視線を落とし、お茶を一口飲んでから静かに口を開いた。


「実はさ」


「最初に声を掛けようと思ってる相手なんだけどね」


「セーニャにしようと思うんだ」


クラリスは一瞬だけ表情を止めた。


だが、すぐに穏やかな笑顔へ戻す。


「そっか」


イヴァンスは静かに頷く。


「断るかどうかを決めるのはセーニャだからな」


「でも、回復魔法も補助魔法も間違いなく帝国でもトップクラスだ」


「独立部隊を作るなら、最初に声を掛けたい」


そこに迷いはなかった。


恋愛感情とは切り離して、一人の仲間として必要だと思っている。


そんな真っ直ぐな言葉だった。


クラリスはその表情を見つめ、小さく微笑む。


「そっか」


「いいんじゃない?」


「なんだかイヴァンス、少し吹っ切れた感じだね」


その言葉に、イヴァンスは少しだけ苦笑した。


「ああ」


「後で声を掛けておけばよかったって後悔するくらいなら、ちゃんと伝えようと思ってさ」


「断られたら、その時はその時だ」


その言葉には、以前のような迷いはなかった。


もちろん不安はある。


だが、何もしないまま諦めるよりは、自分から声を掛ける。


それが今の自分にできることだと思っていた。


「他には?」


クラリスが尋ねる。


イヴァンスは指を折りながら考え始めた。


「あとはプラーサとマリーかな」


「どっちも難しいとは思ってるけど」


「プラーサは軍務卿の娘で侯爵令嬢だからな」


「軍務卿が許してくれるかどうか分からない」


クラリスも納得したように頷く。

確かに、そう簡単な話ではない。


イヴァンスは続けた。


「マリーも難しい」


「まだ一年生だから、十七歳になってないだろ?」


「近衛騎士団は十七歳以上じゃないと入隊できない」


「年齢制限に引っかかるんだ」


「あっ、そうか」


クラリスも思い出したように頷く。


学園ではあまり意識しないが、近衛騎士団には年齢制限が設けられている。


「じゃあ、来年以降でもいいからってこと?」


「そのつもり」


イヴァンスは迷いなく答えた。


「今まで一緒にやってきた仲間だからな」


「すぐじゃなくてもいい」


「一緒に戦えるなら、それで十分だ」


クラリスは思わず微笑んだ。


それがイヴァンスらしいと思った。


目先の都合ではなく、人とのつながりを大切にする。


だからこそ、自然と人が集まってくるのだろう。


「それと」


イヴァンスはさらに続ける。


「特別試合で参加してもらったカムシスさんとロルマさんにも声を掛けたい、後ベラミカ先生もだな」


「特にロルマさんには、ぜひ入ってほしいんだ」


「ロルマさん?」


「どうして?」


クラリスが首を傾げる。


イヴァンスは少しだけ身を乗り出した。


「独立部隊ってことは、多分帝都以外の任務も多くなると思うんだ」


「帝国内だけじゃなくて、他国へ行くこともあるかもしれない」


「そうなれば、他の国を知っている人がいるのは大きい」


「ロルマさんは帝国の外も知ってる」


「そういう経験は、きっと部隊の力になると思うんだ」


クラリスは感心したように息を漏らした。


「そこまで考えてるんだ」


「なんとなくだけどな」


イヴァンスは照れくさそうに笑う。


「でも、隊長になるなら、そのくらいは考えないと」


その表情には、以前よりも少しだけ自信が宿っていた。


クラリスはそんなイヴァンスを見つめながら、小さく笑う。


「イヴァンス、帝都からいなくなっちゃうの?」


その問いに、イヴァンスは少しだけ考える。


「どうだろうな」


「任務次第だと思う」


「でも、多分そういうことも増えるんじゃないかな」


クラリスはコップを両手で包み込んだまま、少しだけ考え込んだ。


「……そう」


独立部隊。


帝都だけではなく、帝国各地や他国へ赴くこともある部隊。


イヴァンスはきっと、これまで以上に忙しくなる。


そんな未来を思い浮かべながら、クラリスは静かに口を開いた。


「じゃあ、私も独立部隊に参加するわ」


「え?ク、クラリス。それは無理なんじゃ……」


「何で?」


「いや……その、クラリスまで危険な任務に就く必要は……」


クラリスは少し呆れたように息を吐く。


「イヴァンス、本当に分かってる?」


「独立部隊って、戦う人だけで成り立つものじゃないのよ」


「え?」


「長期間の任務になれば、食事の準備も必要になる。洗濯や荷物の管理だって必要になるわ」


「それに――」


クラリスはイヴァンスを真っすぐ見つめた。


「マリーやプラーサは貴族令嬢なのよ?」


「あ、ああ……」


「もちろん本人たちは覚悟して付いてくると思う。

 でも、だからといって何も考えなくていいわけじゃないでしょ」


「独立部隊っていうなら、そういう生活のことまで含めて一つの組織なの」


イヴァンスは黙って聞いていた。


確かに、自分は戦闘力ばかりを考えていた。


強い仲間。信頼できる仲間。


それだけでは部隊は成り立たない。


任務が長引けば、生活を支える役割も欠かせないのだ。


クラリスはふっと表情を和らげる。


「それに……」


少し照れくさそうに笑ってから続けた。


「頑張って帝都まで追っかけてきたのよ」


「これ以上、一人で勝手にどこか行かれたら困るんだから」


「ちゃんと私にも手伝わせてよね」


その一言に、イヴァンスは一瞬言葉を失う。

やがて照れくさそうに頭をかいた。


「……分かった」


「ちゃんとクラリスもメンバーに入れるよ」


その返事に、クラリスは満足そうに微笑んだ。


「うん。それでいいの」


二人の間に、穏やかな空気が流れる。


窓の外では夜が深まり、学園の灯りが静かに瞬いていた。


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