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幼馴染と婚約したけど聖女も好きになったので頑張って爵位を取り、二人の女の子と結婚したい件  作者: ふくみどり
帝国学園編2年生

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独立部隊設立へ

三月に入ると、学園には卒業を間近に控えた独特の空気が漂い始めていた。


校舎の廊下には卒業式の準備が進み、在校生たちもどこか落ち着かない様子を見せている。


春はすぐそこまで来ていた。


イヴァンスたちが帝国学園で過ごす日々も、残りわずかである。


教室で交わす何気ない会話も、食堂での昼食も、訓練場で汗を流す時間も、もうすぐ日常ではなくなる。


そう思うと、ほんの少しだけ胸の奥がざわつく。


卒業という節目は、誰にとっても特別なものだ。

期待と不安が入り混じる中、学園で過ごす残り少ない時間が、いつも以上に大切に感じられた。


そんなある日の午後だった。


授業を終えたイヴァンスが教室から出ると、一人の近衛騎士が教室の前で待っていた。


廊下に立つその騎士は、制服の皺ひとつなく整えられた姿勢で、

まるで最初からそこにいたかのように静かだった。


周囲の生徒たちも、近衛騎士の姿を見て自然と足を止める。


学園内で騎士が直接生徒を訪ねることは、決して珍しくはない。

だが、それでも十分に目を引く光景だった。


「イヴァンス君だな」


「はい」


騎士は一礼すると、胸元から一通の封書を取り出し、丁寧な所作で差し出した。


「ディハン軍務卿より招集命令だ」


「軍務卿からですか?」


イヴァンスは少し驚きながら封を受け取る。


封蝋には軍務省の紋章が刻まれていた。


重みのある赤い封蝋は、ただの呼び出しではないことを静かに告げている。


教室の中ではクラスメイトたちも何事かと視線を向けていたが、

イヴァンスは気にする様子もなく、その場で封を開いた。


中に入っていたのは、簡潔な文面の書状だった。


そこには日時と場所だけが記されている。


『指定日時、軍務卿執務室へ出頭せよ』


それ以上の説明はない。


「……分かりました」


イヴァンスは封書を丁寧に畳み、騎士へ軽く頭を下げた。


騎士もそれだけ確認すると踵を返し、そのまま校舎を後にした。


廊下に残されたイヴァンスは、しばらく封書を見つめたまま立ち尽くす。


(何の用件だろう……)


近衛騎士団への内定はすでに伝えられている。


卒業後の配属についての話だろうか。それとも、別の任務に関する相談なのか。

あるいは、もっと重要な話なのかもしれない。


考えても答えは出ない。


ディハン軍務卿は、必要なことしか言わない人物だ。

こちらがいくら推測しても、結局は指定された日に行けば分かることだろう。


イヴァンスはそれ以上考えることなく、封書を制服の内ポケットへしまった。


     ◇


そして指定された日。


イヴァンスは軍務省を訪れていた。


重厚な石造りの建物は、いつ訪れても独特の緊張感が漂っている。


高い天井、磨き上げられた床、整然と並ぶ兵士たちの足音。


学園の明るく開放的な空気とはまるで違い、ここには常に張り詰めた静けさがあった。

軍務省という場所そのものが、帝国の中枢であることを思い出させる。


受付で名前を告げると、案内役の兵士がすぐに現れた。


「こちらへどうぞ」


静かな廊下を歩き、やがて見慣れた扉の前で足が止まる。


『軍務卿執務室』


何度か訪れたことのある部屋だが、そのたびに感じる空気は変わらない。

扉の向こうには、帝国の軍事を預かる男がいる。そう思うだけで、自然と背筋が伸びる。


案内の兵士が軽く扉を叩く。


「イヴァンス君をお連れしました」


「入れ」


低く落ち着いた声が返ってくる。


イヴァンスは一度姿勢を正すと、ゆっくりと扉を開けた。


「失礼します」


執務室の中央では、ディハン軍務卿が大量の書類へ目を通していた。


机の上には山のように積まれた書類。


報告書、申請書、命令書、確認書類らしきものが整然と並び、

その一枚一枚へ素早く目を走らせては、必要なものへ次々と署名していく。


忙しさは相変わらずらしい。

軍務卿という立場にある以上、当然ではあるのだろうが、それにしてもこの量は尋常ではない。


イヴァンスが一礼すると、ディハンはようやくペンを置き、顔を上げた。


「来たか、イヴァンス」


「本日はどのようなご用件でしょうか」


ディハンは椅子へ深く腰掛けたまま、本題へ入る。


「近衛騎士団の内定の件だ」


「はい」


「四月より、お前は正式に近衛騎士団所属となる」


イヴァンスは静かにうなずく。


その話自体は以前から聞かされていた。


だが、正式な辞令として軍務卿の口から告げられると、

改めて身が引き締まる思いがした。


学園を卒業し、騎士として帝国に仕える。その現実が、少しずつ輪郭を持ちはじめている。


「それに伴い」


ディハンは一枚の書類を机の上へ置いた。


「独立部隊を設立することになった」


「……独立部隊、ですか?」


思わず聞き返す。


近衛騎士団の中に独立部隊を置く。


そんな話は初めて聞いた。

通常の編成とは異なる、特別な任務を担う部隊なのだろうか。


あるいは、少数精鋭で動くための新設組織なのか。

頭の中でいくつかの可能性が浮かぶが、どれも確かな答えにはならない。


ディハンは小さくうなずいた。


「そうだ」


「最初の任務は、独立部隊の編成だ」


イヴァンスは少しだけ目を見開く。


「私が……ですか?」


「当然だ」


ディハンは迷いなく答えた。


「部隊とは、人を預かる組織だ」


「誰と戦い、誰へ背中を預けるのか。それを決めるのは隊長自身であるべきだ」


その言葉には、一切の迷いがなかった。


部隊を率いる者には、その責任も任せる。

軍務卿らしい考え方だった。


上から一方的に人員を押し付けるのではなく、

隊を率いる者に選ぶ権利を与える。それは厳しさでもあり、同時に信頼でもある。


「希望する者がいるなら名前を挙げろ」


「軍務省として、こちらができる限り説得に動く」


「もちろん強制はしない」


「最終的に参加するかどうかは本人の意思だ」


イヴァンスは静かに話を聞いていた。


頭の中では、すでに何人もの顔が浮かび始めている。


共に学んできた仲間たち。


一緒に戦った者たち。


信頼できる人物は少なくない。


だが、それぞれ立場も事情も違う。

学園に残る者、別の道へ進む者、すでに自分の役目を持っている者もいるだろう。


誰かを誘うということは、その人の未来に関わることでもある。

軽々しく決められる話ではなかった。


ディハンは最後に書類へ目を落とす。


「人数も編成も、お前へ任せる」


「まずは自らの希望をまとめろ」


「以上だ」


簡潔だった。


軍務卿らしく、余計な説明は一切ない。


だが、その短い言葉の中には、確かな期待と責任が込められているように感じられた。


イヴァンスは姿勢を正し、一礼する。


「分かりました」


その返事を聞くと、ディハンは再び机の書類へ視線を戻した。


「では、早速取り掛かれ」


「失礼いたします」


イヴァンスはもう一度頭を下げ、静かに執務室を後にした。


扉が閉まる。


静かな廊下へ出ると、イヴァンスは小さく息を吐いた。


(独立部隊……)


まさか、いきなりそんな大役を任されるとは思ってもいなかった。


だが、不思議と嫌な気持ちはしない。


むしろ、胸の奥では何か新しいことが始まる予感が静かに膨らみ始めていた。


これまでの延長線上にある任務ではなく、自分自身が中心となって動く、

新しい一歩。そう考えると、緊張の中にもわずかな高揚が混じる。


これから、自分は誰と共に歩んでいくのか。


その最初の一歩が、今まさに始まろうとしていた。

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