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幼馴染と婚約したけど聖女も好きになったので頑張って爵位を取り、二人の女の子と結婚したい件  作者: ふくみどり
帝国学園編2年生

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答えを探して

その夜。


年始の賑わいも少しずつ落ち着き、ストーン村は静かな夜を迎えていた。


昼間は多くの村人で賑わっていた広場も、今は人影もまばらだ。

家々の窓から漏れる暖かな灯りだけが、雪景色を優しく照らしている。


イヴァンスは一人、村の道を歩いていた。


向かう先は、村長の家。


クラリスに話したいことがあった。


玄関をノックすると、しばらくして扉が開く。


「あら、イヴァンス」


クラリスだった。


部屋着姿のまま現れた彼女は、少し驚いたように目を丸くする。


「こんな時間にどうしたの?」


「少し……話があって」


イヴァンスが少し言いづらそうに答えると、クラリスはすぐに表情を和らげた。


「とりあえず中に入って」


二人は居間へ移動する。


暖炉には火が入り、薪のはぜる音だけが静かに響いていた。


クラリスは温かいお茶を二人分用意すると、向かいへ腰を下ろす。


「それで?」


「何かあったの?」


イヴァンスは湯飲みを見つめたまま、しばらく黙っていた。


何から話せばいいのか、自分でも整理がついていない。


やがて、小さく息を吐いた。


「母さんに言われたことなんだ」


「おばさまに?」


「ああ」


イヴァンスはゆっくり頷く。


「セーニャを無意識に隣へ置きたがってるように見えたって」


その言葉を口にしたあと、イヴァンスはしばらく黙り込んだ。


自分で言葉にしてみても、まだその意味を完全には理解できていない。


なぜ母がそう感じたのか。


なぜ今になって、その言葉がずっと頭から離れないのか。


考えても、簡単には答えが出なかった。


クラリスは何も口を挟まない。


ただ、イヴァンスが自分の中で整理するのを静かに待っていた。


「その時は意味が分からなかった」


「でも……。」


イヴァンスは苦笑する。


「それからずっと頭から離れないんだ」


「昨日、レイカさんにも会っただろ」


「うん」


「オルメスさんとセーニャの話を聞いて……」


「それに昼間、バリンスにもあんなこと言われて」


そこまで話すと、イヴァンスは困ったように頭を掻いた。


「気付けばさ」


「ずーっとセーニャのことばっかり考えてるんだ」


暖炉の火が、小さく揺れる。


クラリスは何も口を挟まない。


イヴァンスが自分の言葉で話すのを待っていた。


「俺さ」


「自分でも何が何だか分からなくなっちゃって」


「……」


「俺の二人目って……」


少しだけ視線を伏せる。


「セーニャなのかな」


その言葉は、自分自身へ問い掛けるようだった。


さらに少し考え込んでから、もう一つの名前を口にする。


「それとも……」


「マリーなのかな」


部屋の中へ静かな沈黙が流れた。


暖炉の火だけが、ぱちりと音を立てる。


クラリスはしばらく黙っていたが、やがて穏やかに微笑んだ。


「それを決めるのは、私じゃないわ」


「え?」


イヴァンスが顔を上げる。


クラリスは優しく首を振った。


「イヴァンス」


「あなたが聞きたい答えを、私が言うことはできないのよ」


「でも……」


「もし私が『セーニャよ』って言ったら?」


イヴァンスは言葉に詰まる。


「逆に『マリーよ』って言ったら?」


また答えられない。


クラリスは静かに続けた。


「あなたはきっと、一生思うわ」


「クラリスがそう言ったから選んだんだって」


「……」


「あなたの望んだ結婚は、そんなものじゃないでしょ?」


その声は、とても穏やかだった。


責めるような響きは一切ない。


「これは、あなたが決めること」


「私じゃない」


「誰でもない」


「イヴァンス自身が、自分の心と向き合って見つける答えなの」


イヴァンスは俯いたまま、小さく息を吐いた。


「……難しいな」


「そうね」


クラリスは優しく笑う。


「でも」


「難しいからって、誰かに答えをもらうものじゃないでしょう?」


その言葉に、イヴァンスは少しだけ笑った。


「クラリスらしいな」


「そう?」


「うん」


そんなやり取りが続いていた。


その頃。


村長の家の廊下を、一人の少女が静かに歩いていた。


マリーだった。


ストーン村に滞在している間、彼女は村長の家で世話になっていた。


先ほどまで村長と年始の挨拶を兼ねて話をしていたのだが、

自室へ戻ろうと廊下を歩いていると、居間の方から聞き覚えのある声が聞こえてくる。


イヴァンスとクラリスだった。


最初は通り過ぎるつもりだった。


だが、不意に聞こえてきた言葉に、思わず足が止まる。


「俺の二人目って……」


「セーニャなのかな」


マリーは小さく息を呑んだ。


そして続いて聞こえた。


「それとも……マリーなのかな」


「……」


胸が小さく高鳴る。


マリーはそれ以上聞くことはせず、静かに自室へ戻った。


扉を閉める。


部屋の中は静かだった。


ベッドへ腰を下ろしても、先ほど聞こえてしまったイヴァンスの言葉が頭から離れない。


「セーニャなのかな……」


「それとも、マリーなのかな……」


思わず胸に手を当てる。


「私を選んでいただけたら……」


小さく呟き、ふっと苦笑した。


「そうすれば、イヴァンス様も苦しまなくて済むというのに……」


けれど、すぐに首を横へ振る。


「いいえ」


「イヴァンス様は、そんな方ではありませんもの」


相手を傷つけないように。


誰も後悔しないように。


だからこそ、あれほど真剣に悩んでいる。


「……そこが、イヴァンス様の素敵なところなんです」


マリーは優しく微笑んだ。


「ですから私は、お待ちしております」


「イヴァンス様が、ご自身で答えを見つけられる日まで」


マリーはそう小さく呟くと、静かに明かりを落とした。


窓の外では、雪が静かに降り続けている。


一方その頃。


イヴァンスは玄関先で、もう一度クラリスへ頭を下げていた。


「遅くに悪かった」


「いいのよ」


クラリスは優しく微笑む。


「また悩んだら来ればいいわ。でも、その時も答えは教えないけどね」


「……厳しいな」


「それくらいでちょうどいいの」


二人は小さく笑い合う。


「じゃあ、おやすみ」


「ええ、おやすみなさい」


イヴァンスは扉を閉めると、静かな雪道へ足を踏み出した。


雪道を歩きながら、イヴァンスはクラリスの言葉を思い返していた。


――あなたが決めること。


――自分の心と向き合いなさい。


答えは、まだ見つからない。


それでも、もう以前のように何も考えずにはいられなかった。


母の一言をきっかけに、自分の心は確かに動き始めていた。


「イヴァンスが、無意識にその子を隣へ置きたがってるように見えたのよ」


雪は静かに降り続いていた。


その白さとは対照的に、イヴァンスの胸の中には、

まだ名前の付けられない想いが、少しずつ形を持ち始めていた。

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