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幼馴染と婚約したけど聖女も好きになったので頑張って爵位を取り、二人の女の子と結婚したい件  作者: ふくみどり
帝国学園編2年生

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心のざわめき

新しい年を迎えた朝。


ストーン村は昨夜から降り続いた雪にすっかり包まれ、

家々の屋根も道端の木々も、すべてが白く柔らかな光をまとっていた。


澄み切った冬空の下、教会へ続く石畳の道には、

早くから多くの村人たちが集まっている。


吐く息は白く、足元の雪を踏みしめる音が静かな朝の空気に小さく響いていた。


誰もが新しい年の始まりを祝い、この一年が穏やかで実りあるものになるよう願っているのだ。


イヴァンスたちも村人たちに混じりながら、教会前の広場へ向かっていた。


広場には年明けの巫女舞のために簡素ながらも立派な舞台が設けられており、

その周囲を村人たちがぐるりと取り囲んでいる。


子どもたちは寒さに肩をすくめながらも目を輝かせ、

大人たちは静かに会話を交わしつつ、舞の始まりを待っていた。


「立派な舞台ですね」


マリーが感心したように呟く。


「昔からこんなに盛大だったんですか?」


イヴァンスは苦笑しながら首を振った。


「いや。俺が小さい頃は、ここまで大きくなかったよ」


「教会の前に少し人が集まって、帝都から来たシスターさんたちが舞うくらいだったんだ」


クラリスも懐かしそうに頷く。


「そうそう。私たちが子どもの頃は、村の人だけが集まる小さな行事だったものね」


イヴァンスは広場を見渡した。


「でも、ニコラ会長がこの村に商店を建ててから、村もずいぶん変わったんだ」


「交易が増えて、人も集まるようになってさ」


「こういう行事にもお金を掛けられるようになったんだ」


「今じゃ年明けの巫女舞も、村を代表する行事になったんだ」


「なるほど……」


マリーは感心したように頷いた。


雪に覆われた村の景色と、そこに集う人々の温かな気配が不思議とよく似合っている。

寒さは厳しいはずなのに、広場にはどこか柔らかな期待が満ちていた。


やがて教会の鐘が、澄んだ音色を響かせる。


その音に合わせるように、広場のざわめきは自然と収まり、村人たちの視線が一斉に舞台へと集まった。


ゆっくりと姿を現したのは、レイカシスターだった。


白を基調とした清楚なシスター服に身を包み、

その上から舞のための淡い蒼色の羽衣をまとっている。


冬の光を受けてその布はほのかに輝き、彼女の動きに合わせて静かに揺れていた。


聖女だけが身につける白装束と赤袴ではない。


それでも、その姿からは神へ祈りを捧げようとする厳かな気配が確かに感じられた。


派手さはない。

だが、だからこそ一つ一つの所作に込められた真摯さが、見る者の胸にまっすぐ届いてくる。


「綺麗……」


クラリスが思わず息を呑む。


マリーもまた、静かに目を細めていた。


レイカは舞台の中央へ進み、深く、そして静かに一礼する。


その姿勢だけで、彼女がこの舞にどれほどの思いを込めているのかが伝わってきた。


そして、ゆっくりと舞い始めた。


一つ一つの所作は丁寧で、祈りを込めるように慎重だった。

腕の動き、足運び、視線の流れに至るまで、どれもが迷いなく整えられている。


長い時間をかけて積み重ねてきた努力が、その動きの端々から静かに滲み出ていた。


村人たちも誰一人として声を上げず、ただ見守っている。


雪の降り積もった広場に、レイカの舞う姿だけが凛と浮かび上がっていた。


やがて舞が終わると、しばしの静寂のあと、大きな拍手が広場を包み込んだ。


「素敵でしたね」


マリーが柔らかく微笑む。


「ああ」


イヴァンスも頷いた。


去年とは違う。


けれど、それでもレイカらしい、優しくて真っ直ぐな舞だった。

派手さではなく、誠実さで心を打つような、そんな舞だった。


舞台から降りてきたレイカへ、クラリスが嬉しそうに駆け寄る。


「レイカさん、とても素敵でした!」


「ありがとう」


レイカは少し照れくさそうに笑った。


頬にはうっすらと赤みが差している。寒さのせいだけではないだろう。


「まだまだセーニャさんには敵わないけれど、それでも今の私にできる精一杯を舞えたと思うわ」


「十分素敵でした」


クラリスは迷いなく答える。


「本当に、見ていて心が温かくなりました」


「ふふ、ありがとう」


レイカは嬉しそうに目を細めた。


その和やかな空気を切り裂くように、不意に聞き覚えのある声が響いた。


「よう、イヴァンス」


振り返ると、そこにはバリンスが立っていた。


「バリンス……」


イヴァンスは思わず眉をひそめる。


相変わらず人を小馬鹿にしたような態度だが、

今日はそれに加えて、どこか妙に機嫌が良さそうでもあった。


「去年は悪かったな」


そう言いながらも、その口元にはいつもの意地の悪い笑みが浮かんでいる。

謝る気などほとんどないのは、見ればすぐに分かった。


「まあ、今年はセーニャもいないし、静かなもんだな」


イヴァンスは何も答えない。


バリンスはそんな反応など気にも留めず、肩をすくめて続けた。


「そういや知ってるか?」


「セーニャとオルメス聖騎士団長って、どっちもファーリン出身なんだってな」


「今頃は両家で顔合わせでもしてるんじゃねぇの?」


「そんな話まで出てたぜ」


その言葉に、クラリスの表情が険しくなる。


「そんなの噂でしょう?」


「証拠もない話を勝手に広めるなんて失礼よ」


バリンスは鼻で笑い、肩をすくめた。


「俺が言い出した話じゃねぇよ」


「学園中そんな空気だったじゃねぇか」


「祝賀パーティーでも聖騎士団長としか踊らなかったし、

 年末年始も一緒にファーリンへ帰ってる」


「そう考える奴がいても不思議じゃねぇだろ?」


その言い方は、あくまで自分は事実を並べているだけだと言いたげだった。

だが、言葉の端々には明らかに面白がっている響きがある。


今度はマリーが静かに口を開いた。


「憶測だけで人の関係を決めつけるのは、あまり感心いたしませんわ」


「噂は噂に過ぎません」


その声音は穏やかだったが、はっきりとした拒絶が込められていた。


「ふん」


バリンスは鼻で笑う。


「まあ、そう思いたきゃ思っとけ」


そして、イヴァンスへ視線を向けた。


「でも、お前も大変だったな」


「闘技大会じゃあれだけ一緒にいたのに、結局相手は聖騎士団長様か」


「俺もちょっとだけ気分がいいわ」


その言葉には、明らかな悪意が混じっていた。


イヴァンスは眉を寄せたまま、何も言い返さない。


バリンスは満足したように笑うと、手をひらひらと振った。


「じゃあな」


そう言い残すと、彼は人混みの中へ消えていった。


「最低ね」


クラリスが小さく呟く。


「本当に失礼な方ですわ」


マリーもため息をつく。


二人は当然のようにバリンスの言葉を否定していた。

あんなもの、まともに受け取る必要などないとでも言うように。


だが――。


「イヴァンス?」


クラリスが声を掛ける。


イヴァンスは、少しだけ遠くを見つめたまま立ち尽くしていた。

視線は広場の向こうにあるはずなのに、実際には何も見ていないようだった。


「……あ、ああ」


慌てて笑顔を作る。


「気にすることないわ」


クラリスが優しく言う。


「そうですわ。噂など、いくらでも好き勝手に広がるものです」


マリーも穏やかに微笑んだ。


「……そうだよな」


イヴァンスは小さく頷く。


だが、その声にはどこか力がなかった。


母の言葉。


レイカから聞いた話。


そして、今のバリンスの言葉。


どれも噂や憶測に過ぎない。


そう分かっているはずなのに、

なぜか心のどこかで引っかかり続けていた。


――本当に、自分は何を気にしているのだろう。


その答えだけは、まだ見つからなかった。

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