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幼馴染と婚約したけど聖女も好きになったので頑張って爵位を取り、二人の女の子と結婚したい件  作者: ふくみどり
帝国学園編2年生

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気づかぬ想い

その夜。


ストーン村の静かな夜は、昼間の喧騒が嘘のように落ち着いていた。

窓の外では風が木々を揺らす音がかすかに聞こえるだけで、家の中はしんと静まり返っている。


そんな中、イヴァンスは布団の中で何度も寝返りを打っていた。


仰向けになっても落ち着かず、横を向いても眠気は訪れない。


目を閉じれば暗闇が広がるはずなのに、

頭の中には昼間に母親から言われた言葉が、

何度も何度も浮かんでは消えていく。


――イヴァンスが、無意識にその子を隣へ置きたがってるように見えたのよ。


母親は本当に、何気なく言っただけだった。


責めるような響きもなければ、

からかうような悪意もない。


ただ、見えたままをそのまま口にしただけ。

だからこそ、余計に心に引っかかって離れなかった。


「隣へ置きたがってる……か」


小さく呟く。

だが、いくら考えてみても答えは出なかった。


クラリスは幼い頃から一緒に育ってきた大切な存在だ。


マリーは自分を信じ、支えてくれる大切な仲間だ。


そして、セーニャは――。


そこまで考えたところで、イヴァンスは一度、ぎゅっと目を閉じた。


だが、その先へ進もうとすると、なぜか胸の奥が妙にざわつく。

言葉にしようとすると、するりと逃げてしまうような感覚。

掴めそうで掴めない、そんなもどかしさだけが残る。


「……分からないな」


結局、その夜に答えが出ることはなかった。


考えれば考えるほど、余計に分からなくなる。

そうしているうちに、いつの間にか眠気が勝ってきて、イヴァンスは静かに目を閉じた。


そして翌朝。


村には、新しい年を迎える準備の空気がゆっくりと流れていた。


朝の冷たい空気の中にも、どこか浮き立つような気配がある。

家々では正月飾りの支度が進み、通りを歩く村人たちの顔にも、

いつもより少しだけ柔らかな表情が浮かんでいた。


朝食を終えた後、イヴァンスたちは村の教会へ向かうことにした。


年明けの巫女舞は、レイカシスターが担当することになったらしい。


前回の巫女舞はセーニャが披露したため、村の人々もその印象を強く覚えていた。


あの時の舞は、ただ美しいだけではなく、見る者の心に静かな感動を残すものだった。


だからこそ、今度は誰が舞うのか、村の人々は少なからず楽しみにしていたのだが、セーニャにはファーリンでの役目がある。


その代わりに、レイカが長い間練習を重ね、

教会から正式に認められるまでになったのだという。


教会の扉をくぐると、外の冷気とは対照的に、内部には穏やかな空気が満ちていた。

木の香りと、どこか清らかな静けさ。


祭壇の前には新年を迎えるための準備が整えられている。

外では、年明けの巫女舞に向けた舞台の設営も着々と進められていた。


「お久しぶりです。レイカさん」


イヴァンスは、懐かしい顔を見つけて声を掛けた。


「あら、イヴァンス君。それにクラリスさんも」


レイカは振り返ると、ぱっと嬉しそうな笑みを浮かべた。

以前と変わらない、柔らかく親しみやすい雰囲気だ。


「帰ってきてたのね」


「はい。今年も少しの間ですが、村で過ごすことになりました」


「そうだったのね」


レイカは嬉しそうに頷く。


彼女にとっても、イヴァンスたちがこうして顔を見せてくれるのは嬉しいことなのだろう。


そして、隣に立つ少女へ視線を向けた。


「あら……こちらの方は?」


するとマリーが、一歩前へ出る。


「初めまして」


丁寧に頭を下げるその所作は、まさに貴族令嬢らしい気品に満ちていた。

姿勢も、声の出し方も、相手に失礼のないように整えられている。


「帝国学園一年生、マリーと申します。イヴァンス様とは同じ学園に通う者です」


その一言だけで、彼女がどれほど礼儀を重んじて育ってきたのかが伝わってくる。

レイカも少し驚いたように目を瞬かせた後、すぐに柔らかく笑った。


「こちらこそ、マリーさん。よろしくお願いしますね」


「はい」


和やかな挨拶が交わされる。


その後、クラリスが教会内を見回しながら、感心したように声を上げた。


「それにしても、レイカさん。すごいですね」


「え?」


「年明けの巫女舞ができるように、ずっと頑張っていたんですよね」


その言葉に、レイカは少し照れたように笑った。


「ええ。最初は本当に大変だったのよ」


「巫女舞って、ただ決められた動きを覚えればいいものじゃないもの」


「一つ一つの所作、足運び、手の動き……そういう技術だけじゃなくて、

 そこに込める祈りまで表現しなければならないの」


「形だけ整えても、本当の意味で神様へ届ける舞にはならないから」


「セーニャさんが今年見せてくれた舞は、本当に特別なものだったんだなって、改めて感じたわ」


その言葉には、単なる憧れだけではなく、

実際に舞を学んだ者だからこその実感がこもっていた。


「でも、どうしてもできるようになりたかったから」


そう言って、レイカは舞台の方へ視線を向ける。


「教会からも認めていただけたのよ。正式に巫女舞を任せてもらえることになったの」


「すごいです」


クラリスは素直に感心した。


「本当に頑張ったんですね、レイカさん」


「ありがとう」


レイカは嬉しそうに微笑む。


その笑顔には、努力が報われた安堵と、ようやくここまで来られた喜びがにじんでいた。


しかし、その表情は少しだけ寂しげなものへ変わる。


「でもね……。

 やっぱり、セーニャさんにも来ていただきたかったわ」


その名前に、イヴァンスの動きがわずかに止まる。


「セーニャさん、今年はファーリンで巫女舞をされるんでしょう?」


「はい」


クラリスが答える。


「だから、今年はこちらには来られなくて」


「そうなのよね」


レイカは頷いた。


「でも、本当はね……セーニャさんが来れば、

 オルメス聖騎士団長様も同行してくださると思っていたの」


「私、憧れているの」


「え?」


イヴァンスが思わず聞き返す。


すると、レイカは少し遠くを見るような表情になった。

まるで、頭の中に思い描いている人物像をそのまま見つめているかのようだった。


「聖騎士団長様のことよ」


その名前に、イヴァンスは少しだけ眉を動かした。


「オルメスさん?」


「ええ」


レイカは楽しそうに話し始める。


「聖教会の中でも、オルメス様はかなり人気がある方なのよ」


「強くて、優しくて、誰にでも誠実で……」


「私も、あんな方と結婚できたら、どれだけ幸せなんでしょうって思うくらい」


「……なんてね」


冗談めかして笑う。


だが、その言葉はイヴァンスの耳に残った。


「オルメスさんって……そんなに人気者なんですか?」


思わず尋ねる。


「ええ、そうよ」


レイカは即答した。


「でもね」


少しだけ声を落とす。


「普段からセーニャさんのことをすごく気にかけているから、

 入り込む余地がないって、みんな言ってるわ」


「え?」


イヴァンスの口から、思わず声が漏れる。


レイカは首を傾げた。


「まあ、恋仲なのかどうかは私には分からないけれど」


「セーニャさんが十二歳で帝都へ来てから、ずっとオルメス様がお世話してきたでしょう?」


「教会では結構有名な話なのよ」


「前回のセーニャさんの巫女舞の時は、

 オルメス聖騎士団長さまはこちらへ来てくださらなかったでしょう?」


「でも今回の年末年始のファーリン行きでは、

 オルメス聖騎士団長様が護衛を務められると聞いているのよ」


「……いいなぁ」


その最後の一言は、純粋な憧れそのものだった。


だが、イヴァンスの胸には、その言葉が静かに、しかし確実に沈んでいく。


「……」


何も言えなかった。


頭の中に、最近聞いた噂が次々と浮かんでくる。


祝賀パーティーで二人が踊っていたこと。


毎日のようにオルメスが学園へ迎えに来ていたこと。


そして今聞いた、昔から続く二人の関係。


もちろん、レイカに悪意などない。

ただ憧れを込めて、知っていることを話しているだけだ。


それでも。


自分でも理由が分からないまま、胸の奥に小さな棘のようなものが残る。

痛いほどではない。けれど、確かに気になる。気づけばそこにある、そんな感覚だった。


「イヴァンス君?」


レイカの声で、我に返る。


「あ……すみません」


「いえ、大丈夫?」


「はい」


イヴァンスは慌てて笑顔を作った。


だが、その表情とは裏腹に、胸の中では一つの疑問がどんどん大きくなっていた。


――自分は、本当は何を気にしているのだろう。


答えは、まだ分からなかった。

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