それぞれの年末
感謝祭が終わり、帝国学園にもいつもの日常が戻り始めていた。
しかし、その日の夜だけは少し特別だった。
場所は、いつものワーラン。
イヴァンスたちは感謝祭の成功を祝うと同時に、巫女舞をやり切ったセーニャの慰労会を開いていた。
「それにしても、今年の巫女舞はセーニャ頑張ったわね」
テーブルに並んだ料理を口にしながら、ベラミカが感心したように言う。
「聖歌を歌いながら舞うなんて、簡単にできるものではありませんわ」
「本当に。見ているだけでも、相当な練習を積んだのが分かりました」
マリーが穏やかに微笑む。
「セーニャさん、毎日欠かさず練習に行かれてましたからね」
「毎日……」
イヴァンスはその言葉を聞いて、改めて感心する。
舞台の上で見たセーニャの姿は、確かに素晴らしかった。
ただ美しいだけではない。
そこには、一年間聖女として努力してきた彼女の成長が表れていた。
「実際、練習ってどんな感じだったの?」
プラーサがセーニャへ視線を向ける。
「かなり大変だったんじゃない?」
「そうですね」
セーニャは少し照れたように笑う。
「最初は、歌と舞を一緒にしようとすると、どうしても呼吸が乱れてしまって……」
「やっぱりそうなんだ」
「はい。でも、オルメスさんが最初に、動きを細かく分けて教えてくださったんです」
セーニャは、思い出すように言葉を続ける。
「『まずは一つひとつの所作を丁寧に覚えること。祈りの気持ちがあれば、動きは後からついてくる』って」
「へえ……」
イヴァンスが感心したように頷く。
「それで、少しずつ歌と舞を合わせていったんです。
足運びや手の動きも、ただ形を真似るんじゃなくて、
どうしてその動きになるのかまで教えていただいて」
セーニャは少し恥ずかしそうに笑った。
「だから、私も最後まで頑張れたんだと思います」
その表情を見て、イヴァンスはすぐに納得する。
「そっか……」
オルメスの指導は厳しさだけではなく、
セーニャが自分の力で舞えるように導くものだったのだろう。
「なら、あの舞台はセーニャの努力の成果だな」
「ありがとうございます」
その言葉に、セーニャは少しだけ嬉しそうに笑った。
しばらくして、イヴァンスはふと思い出したように口を開く。
「そういえば、今年の年末もストーン村に行かないか?」
「え?」
セーニャが目を丸くする。
「去年も行っただろ。村の人たちも喜ぶと思うし」
去年の年末。
ストーン村で過ごした時間は、イヴァンスにとって大切な思い出だった。
村の人々と話し、雪の中で過ごし、普段の帝都とは違う穏やかな時間を楽しんだ。
今年もまた、同じ時間を過ごせたらと思ったのだ。
しかし、セーニャは少し申し訳なさそうに視線を落とした。
「ごめんなさい……」
「え?」
「今年は、ストーン村には行けないんです」
「何か予定があるのか?」
「はい」
セーニャは小さく頷く。
「ファーリンの教会から、年始の巫女舞をお願いされているんです」
「ファーリン?」
イヴァンスが聞き返す。
「はい。闘技大会の一般の部で準優勝したこともあり、地元で有名になってしまったんです」
セーニャは少し困ったように笑った。
「それに、私の故郷でもありますから。ぜひファーリンでもお願いしたいと言ってくださって」
「聖女としての役目もありますから」
そう言うセーニャの表情には、迷いはなかった。
イヴァンスは、その姿を見てすぐに納得する。
セーニャにとって、それはただの里帰りではない。
聖女として、自分を必要としてくれる人たちのもとへ向かう大切な役目なのだ。
「そっか……」
残念ではある。
だが、それ以上に、セーニャが多くの人に必要とされていることが嬉しかった。
「なら仕方ないな」
「すみません……」
「謝ることじゃないだろ。セーニャが必要とされてるってことなんだから」
その言葉に、セーニャは少しだけ嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます」
すると、ベラミカが肩をすくめながら口を開く。
「私は帝都に残るわよ」
「そうなんですか?」
「師匠の相手もしないといけないし、あのダントムの面倒を見る人も必要だからね」
ベラミカは苦笑する。
「まあ、帰ったら帰ったで『そろそろ結婚相手を決めろ』って言われるだけなのよね」
「お姉さま……」
セーニャが困ったように笑う。
「だからセーニャは気にせず帰省しなさい。両親だって、あなたの顔を見たいと思うわよ」
「はい」
セーニャは素直に頷いた。
その様子を見ていたプラーサが、ふと口を開く。
「ちなみに私は今年、家で過ごすことにしたわ」
「え?」
イヴァンスが驚く。
「珍しいな」
「さすがに二年連続で外で過ごしていたら、パパも寂しがるでしょうからね。今年は親孝行よ」
プラーサは苦笑した。
「そっか」
少し寂しくなるが、それも当然のことだった。
「じゃあ今年は……」
イヴァンスが考えていると、マリーが静かに手を上げる。
「私は同行いたしますわ。イヴァンス様」
「マリーが?」
「はい」
マリーはいつもの落ち着いた笑顔を浮かべる。
「イヴァンス様のお里を知る良い機会ですし……それに、お母様にもご挨拶しておきたいですから」
「いや、まだ結婚するわけじゃないんだけど……」
イヴァンスが思わず呟く。
「ですが、同行はいたします」
即答だった。
「……はい」
イヴァンスは素直に頷く。
ベラミカとプラーサが小さく笑った。
「相変わらずですね」
「イヴァンス君、今回はマリーさんの案内役をしてあげなさいよ」
そんなやり取りに、店内には穏やかな笑い声が響く。
今年の年末。
去年とは少し違う形になる。
セーニャはいない。
プラーサもいない。
それでも、ストーン村で待つ人々との再会を楽しみにしながら、イヴァンスは静かに頷いた。




