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幼馴染と婚約したけど聖女も好きになったので頑張って爵位を取り、二人の女の子と結婚したい件  作者: ふくみどり
帝国学園編2年生

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聖歌の巫女舞

今年も最後の月を迎えた。


帝都にも冬の冷たい風が吹き始め、学園の木々もすっかり葉を落としている。


そんな中、帝国学園では毎年恒例となっている行事が行われていた。


感謝祭。


一年を無事に過ごせたことを神へ感謝し、来たる新しい年の平穏と加護を祈る、

帝国でも古くから続く伝統ある祭りである。


学園の広い中庭には、多くの生徒たちが集まっていた。


普段の授業とは違う特別な雰囲気。


冬の澄み切った空気の中、生徒たちの楽しげな声が響き渡る。


中庭の中央には、この日のために特設された舞台が設置され、

その周囲には教員や来賓の姿も並んでいた。


そして、舞台の正面には教会関係者の姿もある。


その中心に立つのは、今年も学園を訪れていた人物だった。


「一年の歩みに感謝を忘れず、来年もまた皆が健やかに過ごせることを願います」


リカルテオン教皇。


聖教会の最高位に位置する人物の言葉は、静かでありながら中庭全体へ響き渡る。


生徒たちは普段接することのない偉大な人物を前に、自然と姿勢を正していた。


説教は長いものではなかった。

しかし、その一言一言には重みがあり、聞く者の心へ静かに染み込んでいく。


やがて教皇の話が終わる。


すると、待っていた生徒たちの間に再び小さなどよめきが広がった。

次はいよいよ、毎年恒例となっている巫女舞の時間である。


帝国学園の感謝祭では、

代々聖女や教会に認められたシスターが舞を披露することになっている。


そして今年も――。


「セーニャさんだ」


誰かが呟いた。


その名前が広がると、周囲から期待の声が上がる。


セーニャが学園内で「高嶺の花」と呼ばれるようになってから、数か月。

祝賀パーティー以降、彼女へ向けられる視線は以前とは少し変わった。


だが、それでも彼女の人気が衰えることはなかった。


むしろ、誰にでも優しく接し、決して驕ることのない姿勢は、

以前よりも多くの生徒から慕われるようになっていた。


今年、セーニャが披露する巫女舞は去年とは違う。


去年は舞だけだった。


しかし今年は、聖歌を歌いながら舞うという、より高度なものに挑戦することになっている。


それは簡単なことではない。

舞とは、ただ決められた動きを覚えればいいものではない。


一つ一つの足運び、手の動き、視線の向け方。

すべてを正確に保ちながら、さらに歌声を乱さず届けなければならない。


呼吸を整えなければ、歌声は揺れる。

歌に意識を向けすぎれば、舞の美しさが失われる。


逆に舞に集中しすぎれば、聖歌に込められた祈りが届かなくなる。

二つを同時に成立させるには、長い練習と高い集中力が必要だった。


セーニャはその難しい舞を、今年挑むことになったのだ。


舞台の近く。

イヴァンスは静かにその時を待っていた。


「今年もすごいんだろうな……」


去年の感謝祭を思い出す。


あの時も、セーニャの舞は多くの人を魅了した。

だが、今年はさらに難しいものへ挑戦する。


どんな姿を見せてくれるのか。

自然と期待が膨らんでいた。


ふと、隣にいた女子生徒たちが少し騒がしくなる。


「え……?」


「聖騎士団長様?」


何事かと思い視線を向ける。


そこには、白銀の鎧を身につけた人物が歩いてきていた。


聖騎士団長オルメス。


普段は聖教会の任務に就いている彼が、学園の行事へ姿を見せることは珍しい。


そして、彼は迷うことなくイヴァンスの方へ近づいてくる。


「あれ、オルメスさん」


イヴァンスは驚きながら声を掛けた。


「学園のイベントに参加なんて珍しいですね」


「こんにちは、イヴァンス君」


オルメスは穏やかに笑う。


「今日はセーニャが巫女舞をするだろう。

 聖歌を歌いながらの巫女舞は今回が初めてだから」


少しだけ舞台へ視線を向ける。


「舞だけでも集中が必要なのに、歌まで合わせなければならないからね。

 それだけ難しいものだから、私も練習に付き合ったんだ」


「せっかくだから、最後まで見届けようと思ってね」


「そうだったんですね」


イヴァンスは納得したように頷く。


(オルメスさん、相変わらずセーニャのことを気にかけているんだな)


イヴァンスは思っていた。


その様子を、少し離れた場所にいた生徒たちが見ていた。


「……やっぱり」


「何が?」


「最近の噂。本当なんじゃない?」


小さな声が、周囲へ広がる。


「毎日のように学園へ迎えに来ているっていう……」


「感謝祭の練習だって聞いてたけど」


「でも、わざわざ聖騎士団長様が見に来る?」


「確かに……」


「毎日迎えに来て、今日は巫女舞まで見に来てるんだよ?」


「それって……」


「やっぱり、そういうことなのかな」


「だって、普通はここまでしないでしょ」


「聖騎士団長様だよ? 忙しい方なのに、わざわざ学園まで来るなんて」


「セーニャさんも、オルメス様の前では少し雰囲気が違うって聞いたよ」


「もう、ほとんど決まりじゃない?」


そんな声が、周囲で小さく交わされる。


やがて、舞台へ一人の少女が姿を現す。


その瞬間。

ざわめいていた中庭が静まり返った。


白い上着。鮮やかな赤い袴。

聖女だけが身にまとうことを許された巫女装束。


長い袖が冬の風を受け、ゆっくりと揺れる。


その手には、神楽鈴。


まるでその場だけ空気が変わったかのようだった。


男子生徒たちも、いつものように声を上げることはなかった。


ただ静かに、その姿へ見入っている。


セーニャは舞台の中央へ立つと、ゆっくりと目を閉じた。


そして――。


チリン。


小さな鈴の音が、中庭へ響き渡る。


その音を合図に、セーニャは静かに舞い始めた。

同時に、澄んだ歌声が冬の空へ広がっていく。


聖歌。


神への感謝と祈りを込めた歌。

その声は決して大きいわけではない。


だが、不思議とその場にいる全員の耳へ届いた。


舞と歌。

二つの異なるものを同時に操っているとは思えないほど、動きには迷いがない。


袖が優雅に翻り、鈴が規則正しく鳴る。


一歩進むたびに舞の形が変わり、その度に歌声が重なる。


まるで歌そのものが舞になり、舞そのものが祈りになっているようだった。


イヴァンスは息を呑む。


去年とは違う。

同じ巫女舞でも、そこに込められたものが変わっている。


一年間、聖女として学び続けてきた少女の成長が、そこにはあった。


隣を見る。

オルメスもまた、静かに舞台を見つめていた。


その視線は、舞台のセーニャから一度も離れなかった。


そしてセーニャの歌声は、冬の澄んだ空へと響き渡っていった。

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