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幼馴染と婚約したけど聖女も好きになったので頑張って爵位を取り、二人の女の子と結婚したい件  作者: ふくみどり
帝国学園編2年生

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聖騎士団長の冗談

放課後の近衛騎士団訓練場。

乾いた木剣の音が、規則正しく響いていた。


カンッ――。


イヴァンスの木剣がオルメスへと鋭く振り下ろされる。


しかし、その一撃は真正面から受け止められることはなかった。

オルメスはほんのわずかに剣を傾けるだけで、イヴァンスの剣を横へと流す。


勢いを失ったイヴァンスの身体がわずかに前へ泳いだ瞬間、

木剣の切っ先が首元へ静かに添えられていた。


「……参りました」


イヴァンスは苦笑しながら木剣を下ろした。


「今のは良かった。」


オルメスも木剣を下げ、穏やかに微笑む。


「以前なら力で押し切ろうとしていたが、今日は相手の動きを見てから踏み込めていた。」


「ありがとうございます。」


イヴァンスは素直に頭を下げる。

隣で腕を組んで見守っていたグレッグが口を開いた。


「だが、最後が惜しい。」


「相手の剣を押し返そうとしたな。」


「はい。」


「オルメスの剣は受け止める剣ではない。流す剣だ。」


グレッグがそう言うと、オルメスも頷く。


「私は守ることを第一に考えているからね。」


「相手の力に力で対抗するより、受け流して隙を作る方が効率がいい。」


「なるほど……。」


イヴァンスは何度も頷きながらその動きを頭の中で思い返した。


ラプロスの剣は鋭く。


グレッグの剣は力強い。


そしてオルメスの剣は柔らかい。


同じ剣でありながら、まるで別物だった。


「もう一本。」


「はい!」


再び木剣がぶつかり合う。だが今度は、先ほどとは違う。

イヴァンスは無理に押し込まず、一度力を抜いて相手の動きを見極める。


「そうだ。」


「焦らなくていい。」


オルメスの穏やかな声が飛ぶ。


その言葉に導かれるように、イヴァンスの動きも少しずつ変わっていった。

その様子を見ていたグレッグが、小さく笑う。


「飲み込みが早いな。」


「将軍が鍛えたからですよ。」


「違いない。」


二人が笑った、その時だった。


「皆さま、お疲れ様です。」


聞き慣れた声に振り向く。


そこにはマリーとセーニャが立っていた。


マリーは小さなワゴンを押し、その上には紅茶の入ったポットと焼き菓子が並んでいる。


「セーニャさんが久しぶりに顔を出してくださいましたので、皆さまでお茶でもいかがでしょう?」


「おっ、それはありがたい。」


グレッグが豪快に笑う。


「ちょうど休憩しようと思っていたところだ。」


訓練場の隅に置かれた丸いテーブルへ五人が集まる。

マリーが慣れた手つきで紅茶を注ぎ、焼き菓子を皿へ並べていく。


甘い香りが辺りへ漂い、先ほどまで張り詰めていた空気が一気に和らいだ。


「こうして皆でお茶を飲むのも久しぶりですね。」


セーニャが嬉しそうに微笑む。


「最近は私も礼拝や教会のお仕事が増えてしまって」


「忙しいのは良いことだ。」


グレッグが紅茶を口に運びながら頷いた。


「聖女殿も人気者だからな」


「そんなことありません」


セーニャは照れくさそうに首を振る。


その様子を見ていたグレッグが、不意にオルメスへ視線を向けた。


「そういえばオルメス。

 先日は俺の将来の奥方などと言っていたが、お前はどうなのだ?」


突然話を振られ、オルメスは苦笑する。


「私か?当てはないよ」


「そうなのか?」


「聖教会では人気者だと聞いているが」


「人気と言われても困るな」


オルメスは肩をすくめながら紅茶を一口飲んだ。


「まあ……」


少しだけ考えるように視線を上げた。


「セーニャみたいな子でもいたら、一度くらい口説いてみるかな」


「ぶふっ!」


突然、セーニャが紅茶を吹きそうになり、慌てて口元を押さえた。


「ご、ごほっ……ごほっ……」


「大丈夫ですか?」


マリーがすぐに背中をさする。


セーニャは真っ赤になりながら咳き込んだ。


「オ、オルメス様!」


「からかわないでください!」


その反応を見て、オルメスは思わず吹き出す。


「ははは」


「すまない」


「少し意地悪だったかな」


「もう……」


頬を赤く染めたまま、セーニャは視線を逸らす。


そんな様子を見ていたグレッグが豪快に笑った。


「珍しいな」


「お前がそんな冗談を言うとは」


「たまにはいいだろう」


オルメスも笑みを浮かべる。

そして、少しだけ真面目な表情になった。


「だが、魅力的な女性だと思っているのは本当だ」


「優しく、努力家で、誰にでも分け隔てなく接する」


「聖女としても、一人の女性としても立派だ」


「…………。」


セーニャはますます顔を赤くしてしまう。


「も、もう知りません!」


恥ずかしそうに顔を背ける姿に、マリーも思わず笑みを漏らした。


一方のイヴァンスはというと、


「そうですよね」


「確かにセーニャって、本当に優しいですもんね」


和やかな笑い声が訓練場へ響いた。


しばらくして紅茶を飲み終えたグレッグが立ち上がる。


「少し身体が鈍ったな」


木剣を手に取ると、オルメスへ向き直った。


「オルメス」


「久しぶりに立ち会うか?」


「いいだろう」


オルメスも静かに立ち上がる。


「近衛騎士団長に相手をしていただけるとは光栄だ」


「ふっ」


グレッグが口元を緩める。


「何を言っている」


「お前ほどの男と剣を交えられる機会など、そう多くはない」


二人は静かに向かい合う。


構えた瞬間、空気が変わった。


先ほどまでの穏やかな雰囲気が嘘のように消え去り、訓練場全体が張り詰める。


「始め!」


グレッグの踏み込みは速かった。


だが、それを迎え撃つオルメスの剣はさらに静かだった。


真正面から受けず、流し、かわし、相手の力を利用する。


一方のグレッグは圧倒的な剛剣で押し込んでいく。


剛と柔。


まるで正反対の剣。


それでも互いに一歩も譲らない。


「すごい……」


イヴァンスは思わず息を呑んだ。


どちらもラプロスとは違う。


剣にはこれほど多くの形があるのかと、改めて実感する。


その隣で、セーニャは静かに微笑んでいた。


「オルメス様」


「あんな冗談ばかりおっしゃいますけれど……」


イヴァンスが振り向く。


「聖教会では、本当に人気なんですよ」


セーニャは立ち合いから目を離さないまま、小さく微笑んだ。


「皆さん、とても優しくて頼りになる方だとおっしゃいますし……」


セーニャは立ち合いを見つめたまま、どこか懐かしそうに微笑んだ。


「私が十二歳で帝都へ来てから、ずっと気に掛けてくださっているんです」


「お姉さまが一緒にいてくださるとはいえ、『まだ十二歳の女の子が親元を離れて聖女として頑張っているんだから』って、何かと声を掛けてくださって…」


「もう四年間ずっと変わりません」


少し照れくさそうに笑ってから、セーニャは再びオルメスへ視線を向ける。


「だから、私にとってはとても頼りになる方なんです」


そして、木剣を交えるオルメスの姿を見つめながら、自然と言葉を続けた。


「ああして剣を振るわれる姿も、とても素敵ですもの」


イヴァンスは感心したように頷く。


「確かにそうだよな」


その何気ない一言は、立ち合いに見入る二人の耳には届かなかった。


訓練場には、木剣が打ち合う乾いた音だけが、いつまでも心地よく響いていた。

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