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幼馴染と婚約したけど聖女も好きになったので頑張って爵位を取り、二人の女の子と結婚したい件  作者: ふくみどり
帝国学園編2年生

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新たな師との出会い

学園の祝賀パーティーが終わってから、一か月ほどが過ぎた。


あれほどまでに騒がしかった学園内も、ようやく落ち着きを取り戻しつつあった。


祝賀パーティーの余韻はまだ完全には消えていないものの、

日々の授業や訓練、寮での生活は以前と同じような穏やかさを取り戻している。


イヴァンスたちにとっても、ようやく肩の力を抜いて過ごせる時間が戻ってきたと言ってよかった。


もっとも、何もかもが元通りになったわけではない。


むしろ、あの祝賀パーティーを境に、周囲の空気は少しずつ変わっていた。

特に大きかったのは、セーニャを取り巻いていた男子生徒たちの熱気が、

ようやく静まり始めたことだった。


祝賀パーティーの夜、彼女は多くの視線を集めていた。

誰もが一度は声を掛けたい、踊りたい、

少しでも印象を残したいと願っていたのだろう。


だが、その後も彼女に近づこうとする者は少なくなかったものの、結果はほとんど変わらなかった。


プラーサが、ことごとくその前に立ちはだかったのである。


彼女は決して感情的に相手を追い払うわけではない。

だが、あの鋭い視線と、隙のない立ち居振る舞いの前では、

並の男子生徒など一歩も踏み込めない。


話しかける前に気圧され、近づく前に諦める者も多かった。

まるで見えない壁が張られているかのように、セーニャの周囲には自然と距離が生まれていった。


それでも、運よく彼女に言葉を掛けられた者がいたとしても、返ってくるのはいつも同じだった。


「ごめんなさい」


その一言を、セーニャは柔らかな笑顔とともに返すだけだった。


誰に対しても態度は変わらない。

冷たく突き放すこともなければ、期待を持たせるような曖昧な言葉を口にすることもない。


ただ、静かに、丁寧に、しかしはっきりと断る。

その姿勢が一か月近く続けば、さすがに周囲も理解せざるを得なかった。


――自分には望みがないのだ、と。


しかも、祝賀パーティーで彼女が踊った相手は、オルメスただ一人だった。


聖騎士団長という肩書きもさることながら、

その場にいた者たちの記憶に強く残ったのは、

セーニャが最後まで彼以外と踊ろうとしなかったという事実だった。


あの夜の光景は、あっという間に学園中へ広まっていく。

誰もが「なるほど、あれだけの相手なら仕方ない」と納得し、

やがて熱を帯びていた視線も少しずつ収束していった。


一方のイヴァンスも、似たような状況にあった。


祝賀パーティー以降も、彼のもとにも令嬢たちからの誘いはまだ届いていたが、その多くはマリーが間に立って丁寧に断っていた。


マリーはいつも通り落ち着いた様子で、

相手を不快にさせないよう言葉を選びながら、しかしきっぱりと線を引いていた。


その手際の良さは見事なもので、イヴァンス自身が直接対応する機会はほとんどなかった。


さらに、クラリスとの距離の近さも、周囲の目には明らかだった。


闘技大会でイヴァンスが「婚約者に勝利を捧げる」と宣言したこともあり、

二人の関係を知らない者はほとんどいない。


以前なら好奇心や憧れの視線が向けられていた場面でも、

今では「そういうことか」と納得したように引いていく者が増えていた。


無理に割って入ろうとする空気は薄れ、学園にはようやく以前のような静かな放課後が戻ってきていた。


その日も、授業を終えたイヴァンスは、いつものように近衛騎士団の訓練場へ向かっていた。


グレッグ将軍との稽古は、今ではすっかり日課となっている。

最初は緊張でいっぱいだった訓練場も、今では慣れ親しんだ場所のひとつだ。


木剣を握る手にも、以前ほどの硬さはない。

毎日の積み重ねが、少しずつ彼の身体に剣を馴染ませていた。


「失礼します!」


元気よく訓練場へ足を踏み入れると、そこにはいつものようにグレッグの姿があった。


だが、その隣に立つ人物を見て、イヴァンスは思わず足を止める。

白銀の鎧を身にまとい、静かな威厳を漂わせる男。


祝賀パーティーで一度挨拶を交わした、聖騎士団長オルメスだった。


「あれ……。確か、オルメス聖騎士団長さんでしたよね?」


少し驚いた様子で声を掛けると、オルメスは穏やかに微笑んだ。


「ああ、イヴァンス君。祝賀パーティーではセーニャがお世話になったね」


「い、いえ。こちらこそ帰りを無理やり譲っていただいてしまって……」


あの夜のことを思い出し、イヴァンスは少し照れくさそうに頭をかく。

セーニャを送り届けるために、オルメスが自ら帰路を譲ってくれたことは、今でも印象に残っていた。


あの時の落ち着いた態度と、相手を気遣う姿勢は、

さすが聖騎士団長と呼ばれる人物だと感じさせるものだった。


オルメスは苦笑しながら、ゆっくりと首を振る。


「気にしなくていい。あの時は私が譲りたかっただけだからね」


「ありがとうございます」


イヴァンスは改めて礼を述べると、二人の顔を交互に見た。


「それで、今日はどうされたんですか?」


するとグレッグが腕を組みながら、いつもの低い声で答える。


「実はな、イヴァンス。今日からオルメスにもお前の訓練を頼もうと思ってな」


「え?」


思いがけない言葉に、イヴァンスは目を丸くした。


「グレッグ将軍だけでも十分なような気がしますが……」


するとグレッグは静かに頷く。


「確かに、剣技を磨くだけなら私の指導だけでも問題はない」


そう前置きしてから、彼は少しだけ視線を遠くへ向けた。


「だがな。同じ流派、同じ師に学んだ者同士では、どうしても互いの癖が分かってしまう」


イヴァンスはその言葉に、思い当たる節があった。


ラプロス総指南役との模擬戦でも、相手に剣筋を読まれて思うように攻められない場面が何度もあった。自分では工夫しているつもりでも、長く同じ型を学んでいれば動きには癖が生まれる。その癖を読まれれば、思うように攻められない。


「つまり、同じ流派同士だと癖を読まれやすくて、本来の実力が出にくいということですか?」


「それもある。しかし、それだけではない」


グレッグは満足そうに頷いた。


「戦場では、相手がお前と同じ流派とは限らん。むしろ、違う剣を使う者と戦う方が圧倒的に多い」


「同門相手ばかりと手合わせしていると、どうしても対応が似通ってしまう。

 だからこそ、別の剣筋に慣れておく必要があるのだ」


「そういうことだったんですね」


イヴァンスは納得したように頷いた。言われてみれば、その通りだった。

これまでの訓練は確かに実り多いものだったが、それだけでは足りない。


相手が変われば、戦い方も変わる。

剣はただ強く振るえればいいものではなく、

相手に応じて柔軟に変化できなければ意味がないのだ。


グレッグは隣に立つオルメスへ視線を向ける。


「オルメスは聖騎士団独自の剣術を極めている。ラプロス殿の流れとはまったく違う戦い方だ」


「今のお前には、ちょうど良い経験になるだろう」


しかし当のオルメスは、少し困ったように苦笑していた。


「グレッグ、あまり期待させるものではない」


「私はそこまでの実力者ではないぞ」


「何を言う」


グレッグは即座に否定する。


「お前ほど謙虚な男も珍しい」


「聖騎士団だから目立たないだけで、帝国騎士団なら隊長格として十分通用する腕前だ」


「買いかぶりすぎだ」


「事実を言ったまでだ」


二人のやり取りを見ながら、イヴァンスは思わず笑ってしまった。


実力者同士なのに、どちらも自分を高く評価しようとはしない。

むしろ互いに相手を持ち上げ、当然のように謙遜し合っている。


その様子は、どこかグレッグとラプロスの会話にも似ていた。

強い者ほど、自分の強さをひけらかさないのかもしれない。

そんなことを考えながら、イヴァンスは自然と表情を緩める。


それに気付いたオルメスが、小さく肩をすくめた。


「こんな調子だから困る」


「私は派手な剣ではない。堅実で、守ることを重視した剣だ」


「それでも良ければ、付き合ってもらおう」


その言葉には、飾り気はない。だが、だからこそ信頼できる響きがあった。

派手さや華やかさではなく、確かな積み重ねと実戦に裏打ちされた剣。


イヴァンスはその言葉を聞いて、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。

彼は姿勢を正し、深く頭を下げる。


「よろしくお願いします、オルメスさん」


「こちらこそ」


穏やかな返事だった。


だが、その瞳には歴戦の騎士だけが持つ鋭さが宿っている。

柔らかな物腰の奥に、幾多の戦いをくぐり抜けてきた者の確かな重みがあった。


グレッグとは違う。


ラプロスとも違う。


まったく新しい剣との出会いだった。


イヴァンスは木剣を握り直す。

手のひらに伝わる感触は、いつもと同じはずなのに、今は少しだけ違って感じられた。


これから始まる訓練が、自分にどんな変化をもたらすのか。

期待と緊張が入り混じった感覚が、静かに胸の奥で膨らんでいく。


「では始めよう」


オルメスが静かに木剣を構える。


その構えには、派手な動きも大きな威圧感もない。

だが、一切の隙もない、美しい構えだった。


無駄がなく、崩れず、相手を真正面から受け止めるための堅牢さがある。

まるで守ることそのものを体現したような姿勢だった。


イヴァンスは木剣を握り直した。胸の奥に、期待と緊張が静かに入り混じっていく。


新たな学びの時間が、静かに幕を開けようとしていた。

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