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幼馴染と婚約したけど聖女も好きになったので頑張って爵位を取り、二人の女の子と結婚したい件  作者: ふくみどり
帝国学園編2年生

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姉妹の会話

## 第〇話 教会の夜


聖教会の馬車は、祝賀パーティーの喧騒が遠くに消えたあとの静かな帝都を、ゆっくりと進んでいた。


窓の外には、夜の帳に包まれた街並みが流れていく。

石畳に落ちる馬蹄の音だけが、規則正しく車内にまで届いている。


先ほどまでの華やかな会場とはまるで別世界のように、馬車の中は落ち着いた空気に満ちていた。


やがて馬車は教会の正門前で静かに速度を落とし、ほどなくして止まった。


御者が扉を開く。


イヴァンスは先に馬車を降りると、周囲をさっと確認してから、

自然な動作で振り返った。そして、まだ車内に残るセーニャへ向けて手を差し出す。


「どうぞ」


「ありがとうございます」


セーニャは小さく微笑み、その手を取ってゆっくりと馬車を降りた。


夜気は少しひんやりとしていたが、不思議と心地よかった。


純白のドレスの裾が月明かりを受けて淡く輝き、教会の石畳へふわりと広がる。

その姿は、まるで夜の静けさの中にそっと降り立った光のようだった。


イヴァンスはその様子を見て、思わず息を呑む。

だが、その余韻に浸る間もなく、背後から聞き慣れた声が飛んできた。


「あれ?」


少し呆れたようでいて、どこか面白がるような声だった。


「イヴァンスじゃない」


二人が同時に振り返ると、教会の入口の方からベラミカがこちらへ歩いてきていた。


いつものローブ姿。

祝賀パーティーの華やかな空気とはまるで無縁の、普段通りのベラミカである。

だが、その表情はどこか柔らかく、夜の静けさに溶け込むような落ち着きがあった。


「なんであんたがセーニャと一緒なのよ」


ベラミカは片眉を上げ、少し驚いたように首を傾げる。


イヴァンスが答えるより先に、セーニャが一歩前へ出た。


「お姉さま」


「オルメス様が、『せっかくだから二人で帰りなさい』と馬車を譲ってくださったんです」


「ああ、そういうこと」


ベラミカはすぐに納得したように頷いた。

そして、何かを察したような、少し楽しげな笑みを浮かべる。


「よかったじゃない、セーニャ」


「お、お姉さま……」


セーニャはたちまち頬を赤くした。


「からかわないでください」


「はいはい」


ベラミカは軽く肩をすくめると、それ以上は追及しなかった。

だが、その口元にはまだ薄く笑みが残っている。


それから今度はイヴァンスへ視線を向ける。


「イヴァンス」


「はい」


「教会のホールがある食堂、場所分かる?」


「ええ、以前一度お邪魔しましたから」


「なら話は早いわ」


ベラミカは満足そうに頷いた。まるで段取りの良さを確認したかのような顔である。


「そこで待ってなさい」


「セーニャが着替え終わったら、一緒に食事しましょ」


「食事ですか?」


イヴァンスは少し意外そうに目を瞬かせた。


「どうせ祝賀パーティーじゃ、まともに食べてないんでしょ?」


その言葉に、イヴァンスは苦笑するしかない。


「確かに、ほとんど食べられませんでした」


挨拶に回っているうちに時間はあっという間に過ぎ、

料理の皿を手に取る余裕もほとんどなかった。


口にしたとしても、ほんの一口二口。空腹を感じる暇もないほど慌ただしい場だったのだ。


「やっぱりね」


ベラミカは得意げに頷いた。


「だから用意してあるわ」


「軽いものだけど、お腹を満たすくらいなら十分よ」


「ありがとうございます」


イヴァンスが礼を言うと、ベラミカは軽く手を振った。


「じゃ」


そう言って、ベラミカはセーニャの肩へそっと手を添える。


「着替えに行くわよ」


「はい」


セーニャは素直に頷いた。


二人は教会の奥へと歩いていく。

白い石壁に囲まれた廊下は静かで、足音さえも控えめに響いた。


イヴァンスはその後ろ姿を見送ると、ひとり食堂へ向かう。


夜の教会は、昼間とは違ってひどく静かだった。

窓から差し込む月光が床に細い帯を落とし、

壁に掛けられた聖像を淡く照らしている。


どこか厳かな空気の中に、先ほどまでの祝賀の余韻だけがかすかに残っていた。



更衣室。


セーニャはゆっくりと髪飾りを外しながら、ベラミカに背中のリボンをほどいてもらっていた。


豪華なドレスは見た目こそ美しいが、一人で脱ぐには少し手間がかかる。


だからこういう時は、いつもベラミカが手伝ってくれるのだ。

慣れた手つきで留め具を外しながら、ベラミカは何気ない調子で口を開いた。


「それにしても。どうやってイヴァンスと合流したのよ?」


「え?」


セーニャは鏡越しにベラミカを見る。


「帰り道よ」


「ああ……」


少しだけ照れたように、セーニャは頬を緩めた。


「イヴァンス君が、馬車まで走ってきてくれたんです」


「走って?」


「はい」


ベラミカの手が一瞬止まる。


「それで……」


セーニャは少し嬉しそうに目を細めた。


「『一緒に帰らないか』って」


その言葉を聞いたベラミカは、ほんの少しだけ目を見開いた。


「へぇ」


思わず感心したような声が漏れる。


「あいつも少しは甲斐性あったんだ。ちょっと意外だわ」


「もう、お姉さま」


セーニャは振り返り、困ったように眉を下げる。


「さすがに言い過ぎです」


「はいはい」


ベラミカは悪びれる様子もなく肩をすくめた。


「分かったわよ」


そう言いながら、ベラミカは無駄のない動きで次々と作業を進めていった。


「はい、腕上げて」


「はい」


「こっち向いて」


「はい」


「髪、引っかからないように気をつけて」


「ありがとうございます」


セーニャは少し恥ずかしそうにしながらも、素直に指示に従う。

姉妹らしいやり取りが、静かな更衣室に穏やかに流れていく。


やがて着替えは終わり、セーニャは普段着へと身を包んだ。


華やかなドレス姿から一転して、落ち着いた装いになると、

どこか肩の力が抜けたようにも見える。


ベラミカは最後に服の襟元を整え、満足そうに頷いた。


「よし!終了」


「ありがとうございます」


セーニャが丁寧に頭を下げる。

するとベラミカは、何かを思い出したように口を開いた。


「そうそう。食堂には二人分の食事を用意してあるから。

 イヴァンスと一緒に食べてきなさい」


「え?」


セーニャは少し驚いたように目を丸くした。


「それでは、お姉さまのお食事が……」


「私は家へ帰って何か食べるわ」


「でも……」


「いいの」


ベラミカはやわらかく微笑んだ。


その笑みは、いつもの少しぶっきらぼうな姉の顔ではなく、妹を気遣う穏やかな表情だった。


「せっかくなんだから。たまには、わがまま言いなさい」


「え?」


「聖女だからって、いつも周りに気を遣ってばかりじゃ駄目」


「今日はイヴァンスとゆっくり話してきなさい」


その言葉に、セーニャは少しだけ目を潤ませた。


胸の奥がじんわりと温かくなる。

いつも自分のことより周囲を優先してしまう彼女にとって、

こうして背中を押してくれる存在はとても大きかった。


「……ありがとうございます」


「お姉さま」


「いいからいいから」


ベラミカは照れ隠しのように笑う。


「今日は私が姉らしいことしたってことで」


そう言うと、ローブの裾を翻しながら出口へ向かった。


「それじゃ、私は帰るから。ちゃんと楽しんでくるのよ」


「はい」


小さく頷くセーニャを見届けると、ベラミカは軽く手を振った。

そしてそのまま、夜の教会を後にする。


静かな廊下に、彼女の足音が遠ざかっていく。


残されたセーニャは、しばらくその背中を見つめていたが、

やがて小さく息を吐き、胸の前でそっと手を握った。


今夜は、少しだけ特別な時間になりそうだった。

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