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幼馴染と婚約したけど聖女も好きになったので頑張って爵位を取り、二人の女の子と結婚したい件  作者: ふくみどり
帝国学園編2年生

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聖騎士団長との挨拶

祝賀パーティーは、終始華やかな雰囲気に包まれていた。


来賓たちはそれぞれ旧知の者同士で談笑し、

学生たちも普段とは違う装いで会話やダンスを楽しんでいる。


セラフィスとの一曲を踊り終えたイヴァンスは、軽く頭を下げた。


「ありがとうございました」


「うん!」


セラフィスは満面の笑みを浮かべる。


「ちゃんと踊れてたじゃない」


「マリーちゃんの特訓の成果だね」


「はい。本当に厳しく教えていただきましたから」


イヴァンスは少し苦笑しながら答えた。


思い返せば、礼儀作法から立ち居振る舞い、足運びに至るまで、マリーの指導は容赦がなかった。


だが、そのおかげでこうして人前でも恥をかかずに済んでいるのだから、感謝しかない。


「ふふっ」


セラフィスは満足そうに頷くと、軽く手を振った。


「じゃあ私はまた色々回ってくるね」


そう言って、彼女は名残惜しさを見せることもなく、

自由気ままに来賓たちの輪の中へと消えていった。


その後、イヴァンスは他の令嬢をダンスへ誘うことはなかった。


今日の主役は、自分だけではない。


それに、この場には帝国を支える重鎮たちが一堂に会している。


近衛騎士団へ入隊する身として、

こういう場で一人ひとりへきちんと挨拶をしておくべきだと考えていた。


まず向かったのは、皇帝ランジールのもとだった。


「陛下」


イヴァンスは背筋を伸ばし、深く一礼する。


「本日はご出席いただき、ありがとうございます」


「うむ」


ランジールは満足そうに頷いた。

威厳ある佇まいは相変わらずだが、その表情にはどこか親しみもある。


「イヴァンスよ。一般の部準優勝、大儀であった」


「ありがとうございます」


イヴァンスも頭を下げる。


「近衛騎士団内定者として恥じぬよう、これからも精進してまいります」


「その意気じゃ」


皇帝は穏やかに笑った。


「それに礼儀作法も随分と身に付いたようではないか」


「え?」


「歩き方も姿勢も自然になっておる」


「マリー嬢が相当鍛えたのであろう」


「はい」


イヴァンスは少し照れくさそうに笑った。


「毎日のようにご指導いただきました」


「良いことだ」


ランジールは満足そうに頷く。

だが次の瞬間、ふと周囲を見回すと、何かを思い出したようにイヴァンスへ身を寄せた。


そして、そっと耳元へ顔を近づける。


「ただし――」


声を落とす。


「女性関係だけは気を付けるのだぞ」


「……はい?」


イヴァンスは目を丸くした。


「二股などと言われぬようにな」


「えっ?」


一瞬、意味が理解できない。


「陛下、私はクラリスだけですよ?」


皇帝はしばらくイヴァンスの顔を見つめた。

どうやら本気で分かっていないらしい。


「……まあ、よい」


それだけ言うと、小さく笑ってイヴァンスの肩を叩いた。


イヴァンスは首を傾げたまま、その場を後にする。


(二股……?)


何のことだったのだろう。


まったく心当たりがない。


不思議に思いながらも、次の来賓のもとへ向かう。


そこにはグレッグ将軍、マルティア王女、そして聖騎士団長オルメスが談笑していた。


三人ともそれぞれ立場のある人物だが、こうして並ぶと妙に落ち着いた空気がある。


「グレッグ将軍」


イヴァンスは姿勢を正す。


「本日はご出席いただきありがとうございます」


「うむ」


グレッグは短く頷いた。


「一般の部準優勝、見事だった」


「ありがとうございます」


続いてマルティアへ頭を下げる。


「マルティア王女も、本日はありがとうございます」


「ふふっ」


マルティアは優雅に微笑んだ。普段よりも少しだけ大人びた、王女としての顔だ。


「改めておめでとうございます、イヴァンス君」


「来年の近衛騎士団入隊を、心より楽しみにしておりますわ」


「ありがとうございます」


イヴァンスは照れくさそうに笑う。


その視線が隣の男性へ向いた。


「えっと……」


「聖騎士団長のオルメスだ」

 

穏やかな笑みを浮かべ、オルメスが名乗る。


「以前、ワーランの宿屋で一度顔を合わせただろう」


「あっ」


イヴァンスは思い出したように目を見開いた。


「そうでした」


「失礼しました」


慌てて一礼する。


「オルメス聖騎士団長。本日はご出席いただきありがとうございます」


「気にしなくていい。いつもセーニャがお世話になっているようだね」


オルメスは笑いながら右手を差し出した。


「改めて、準優勝おめでとう」


「ありがとうございます」


イヴァンスも右手を差し出し、固く握手を交わす。


手のひらから伝わる力強さ。


だが、不思議と威圧感はなかった。


強者でありながら、人を安心させるような雰囲気がある。


それが聖騎士団長オルメスなのだろう。


「猊下がどうしても参加するとおっしゃってね」


オルメスは苦笑した。


「セーニャの晴れ姿を見届けるのだ、と」


「テオール枢機卿と私も、半ば命令で連れて来られたようなものだ」


「そうだったんですね」


イヴァンスは思わず笑みを浮かべる。


教皇らしい話だと思った。あの人なら、こういう場に誰を連れて来るかも、かなり強引に決めそうだ。


ふと視線を横へ向ける。


「そういえば、お二人でご出席されているんですね」


グレッグとマルティアを見比べる。


「わ、私は勅命だからな」


グレッグは少しだけ視線を逸らした。

普段の厳格な将軍らしさはあるものの、どこか言い訳じみた響きがある。


その様子を見たオルメスが苦笑する。


「グレッグ」


「もっと素直になれ」


「あまりそんな調子だと、宰相にうまく利用されるぞ」


「……分かっている」


短く答えるグレッグ。


そのやり取りを見て、マルティアは小さく笑った。


「本当に変わりませんわね、お二人とも」


イヴァンスも思わず笑ってしまう。


「えっと……なんだか、少し雰囲気が違いますね、マルティアさん」


「あら?」


マルティアはいたずらっぽく微笑んだ。


「私も今日は王女として出席しておりますのよ」


「いつも通りという訳にはいきませんわ」


「確かに」


イヴァンスは納得したように頷く。


「今日は皆さん、立場がありますもんね」


和やかな笑いが広がる。


ほんの短いやり取りだったが、こうして直接言葉を交わせるだけでも、

イヴァンスにとっては大きな意味があった。


しかし、その会話の最中も。


イヴァンスの視線は、何度となく会場の向こうへ向いていた。


そこにはセーニャがいる。


祝賀会が始まってからというもの、

次から次へと男子学生や若い貴族たちが彼女へダンスを申し込んでいた。


「聖女様、ぜひ一曲」


「私と踊っていただけませんか」


「少しだけでも構いませんので」


そのたびに。


「申し訳ありません」


マリーが柔らかな笑顔で断り、


「聖女様は少々お疲れですので」


プラーサも慣れた様子で間へ入る。


まるで飛び回る虫を払うかのように、次々と申し出をかわしていく。


断られた側も悪意があるわけではないのだろうが、

あまりに人数が多く、見ているだけでも少し気の毒になるほどだった。


その光景に、イヴァンスは思わず苦笑した。


(大変そうだな……)


それでも。


一人だけは違った。


オルメス聖騎士団長。


教皇に勧められたのだろう。

セーニャは穏やかな笑顔でその申し出を受け入れ、一曲だけ共に踊っていた。


聖騎士団長と聖女。


その姿は実に自然で、周囲からも温かな拍手が送られる。

立場のある二人が並んで踊るだけで、会場の空気まで少し柔らかくなったように感じられた。


イヴァンスは、その様子を静かに見つめていた。


やがて。


楽団の演奏が終わりを迎える。


司会役の教師が壇上へ立ち、閉会の挨拶を述べた。

学生たちの歓声も、来賓たちの談笑も、少しずつ落ち着きを取り戻していく。


こうして、帝国学園の祝賀パーティーは盛況のうちに幕を閉じたのだった。

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