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幼馴染と婚約したけど聖女も好きになったので頑張って爵位を取り、二人の女の子と結婚したい件  作者: ふくみどり
帝国学園編2年生

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未来を見据える宰相

祝賀パーティーの会場。


華やかな音楽が流れ、色鮮やかな装飾が天井から吊るされ、

学生たちや来賓たちの笑い声が絶えず響いている。


学園の催しとは思えないほどの格式と規模を備えたその場は、

まさに帝国の威信を示す社交の舞台だった。


そんな中で、一人だけ明らかに場違いな空気を放っている男がいた。


近衛騎士団グレッグ将軍。


普段は戦場や訓練場で部下を率い、剣と命令で物事を動かす彼にとって、

こうした社交の場はどうにも勝手が違う。


鎧を着て敵と向き合う方が、よほど気が楽だとすら思える。

それでも、隣にいる存在があることで、いつもよりは落ち着いていられた。


「珍しいな、グレッグ」


声を掛けられ、グレッグが振り返る。

そこには聖騎士団長オルメスが立っていた。


「お主がこのような場に姿を見せるとは」


「勅命でな」


グレッグは小さく息を吐く。


「さすがに陛下の命令を断るわけにはいかん」


「なるほど」


オルメスは苦笑する。


「戦場へ向かえと言われれば迷わず行く男が、舞踏会への参加命令には困った顔をするとはな」


「……」


グレッグは否定できなかった。


魔物との戦い。


敵国との戦闘。


危険な任務。


そうしたものならば、何の躊躇もなく前へ出られる。


だが、貴族たちの視線を受けながら礼儀を整え、

言葉を選び、場の空気を読むというのは、彼にとっては別種の戦場だった。


「まあ」


オルメスは楽しそうに笑った。


「今回は良い機会ではないか」


「何がだ」


「隣に未来の奥方がおられるのだからな」


そう言って、オルメスはちらりとマルティアを見る。


「しっかりエスコートしてやれ」


「オルメス様」


マルティアは困ったように微笑む。


「あまりからかわないでくださいませ」


「からかっているつもりはないのだがな」


オルメスは穏やかに笑った。


「二人が並んでいる姿は、帝国民にも良い印象を与えるだろう。

 何より、こういう場で自然に寄り添えるというのは、

 それだけで周囲に安心感を与えるものだ」


グレッグは小さく息を吐く。


「……そのような話は、まだ」


「分かっている」


オルメスは頷いた。


「だが、周囲がそう見るのも自然ということだ。

 立場ある者同士が並べば、そこに意味を見出すのが人というものだからな」


そんな会話をしていると。


「これはこれは」


落ち着いた声が響いた。


三人が振り返る。


そこに立っていたのは、帝国宰相カイルだった。


年齢を感じさせない整った身なりと、柔らかな笑み。

だが、その目の奥には常に計算の光が宿っている。

帝国の政務を長く支えてきた男らしい、静かな圧があった。


「グレッグ将軍」


「マルティア王女」


「此度の祝賀パーティーは、お楽しみいただけておりますかな?」


「ええ、カイル宰相」


マルティアが優雅に一礼する。


「学園の祝賀会とは思えないほど豪華な来賓の方々ですもの」


「とても楽しく過ごさせていただいておりますわ」


「それは何よりです」


カイルは微笑む。


だが、表情は穏やかでも、視線だけは決して軽くない。

相手の立場、周囲の反応、今後の流れ――そうしたものを一瞬で測る、政治家の目だった。


「ところで」


「グレッグ将軍」


「はい」


「マルティア王女との婚約については、いつ頃を予定されているのですかな?」


「……」


グレッグの動きが止まる。


隣を見ると、マルティアも少し驚いた表情を浮かべていた。


おそらく、先ほどのオルメスとの会話を聞いていたのだろう。

いや、聞いていたというより、最初からその流れを見越していたのかもしれない。


カイルはそういう男だ。

場の空気を読むのではなく、空気がどう動くかを先に読んでいる。


「まだ正式には何も決まっておりませぬ」


グレッグは慎重に答える。


「……そうですか」


カイルは穏やかな表情のまま続ける。


「ですが」


「このパーティーでもお二人で参加されている」


「国民から見れば、十分に関係を示しているようにも見えるでしょう」


「進めるべき時期ではないかと思いますがな」


その言葉は、ただの世間話ではない。


祝賀の席であえて婚約の話を持ち出すのは、

相手の反応を見るためでもあり、同時に周囲へ向けた牽制でもある。


グレッグとマルティアの関係が、単なる噂ではなく、

帝国の将来に関わる現実的な話題であると示しているのだ。


グレッグは少し考え込む。


「陛下のお考えもございます」


「なるほど」


カイルは頷く。


「もちろん、皇帝陛下のお考えを差し置いて話を進めるわけにはいきませんな」


そう言いながらも、その声音には別の意味が含まれていた。


皇帝の意向を尊重する――それは当然だ。

だが同時に、皇帝の意向をどう形にするか、

その過程に誰が関わるのかで、政治の流れは大きく変わる。


カイルはそのことを誰よりも理解している。


その時、オルメスが口を挟んだ。


「カイル宰相」


「まずは国民へ二人の関係を示すことから、という陛下のお考えなのではありませんか?」


「ほう」


カイルはオルメスを見る。


「確かに、そうとも取れますな」


オルメスの言葉は、あくまで場を和ませるためのものだった。


だがカイルは、その一言すらも逃さない。

誰がどの立場で何を言ったか、それが今後の布石になるかどうかを、常に頭の中で整理している。


「グレッグ将軍」


「もし決めていることがあるのであれば、話を進める必要があるでしょう」


「何なら」


カイルは微笑む。


「私から陛下へ進言することもできますぞ」


その言葉に、グレッグは僅かに目を細めた。


一見すれば、ただの親切な申し出。


しかし。


カイルほどの人物が、意味もなくそのような発言をすることはない。


アルフォース帝国の王女であるマルティア。


かつてカイルは、自身の子息であるリーパルを彼女と婚姻させることで、

次代の皇帝とし、さらにその先まで自らの影響力を残す構想を描いていた。


王家と宰相家を結びつけ、表向きは皇帝の血統を保ちながら、

実際には自分の一族が帝国の中枢に長く関与できるようにする

――それは、彼にとって極めて現実的で、そして有効な政治戦略だった。


だが、その目論見は崩れた。


リーパルを巡る構想は、もはや以前と同じ形では成立しない。

帝国の情勢も、周囲の力関係も、そして何よりマルティア周辺の事情も変わってしまった。


今、彼女の隣にいるのは、近衛騎士団のグレッグ将軍。


帝国最強と称される騎士であり、皇帝ランジールから絶大な信頼を受ける人物。


武の象徴であると同時に、皇帝の側近として帝国の中枢に深く食い込んでいる男だ。


カイルは静かに考える。


(リーパルを通じた未来は消えた……ならば、別の道を探すまでだ)


(グレッグ将軍。お前が今後、帝国でどのような立場になるのか――それを見誤るわけにはいかぬ)


(今のうちに関係を築いておく必要がある)


グレッグがどのような道を選ぶとしても、

帝国の中枢を担う存在になることは間違いない。


ならば、その未来に自分がどう関わるかを考えるのが、宰相としての務めだ。


表向きは祝福。

だがその実態は、次代の権力配置を見据えた静かな綱引きである。


「ありがとうございます」


グレッグは礼を述べる。


「ですが、まずは陛下のお考えを尊重したいと思います」


「そうですか」


カイルは穏やかに頷いた。


「それもまた、将軍らしい答えですな」


その言葉には、単なる賛辞以上のものがあった。

慎重で、軽々しく動かず、皇帝の意向を第一に置く

――それは忠臣としては理想的だが、同時に、

誰かが主導権を握ろうとした時には簡単には動かないということでもある。


だからこそ、カイルはなおさら興味を持つ。


この男を、どう取り込むか。


あるいは、どう距離を測るか。


そうした思考を胸の奥に隠したまま、カイルは一礼してその場を離れていく。


残された三人。


「……相変わらず抜け目のないお方だ」


オルメスが小さく呟く。


「だな」


グレッグも頷く。


「だが」


隣を見る。


マルティアは静かに微笑んでいた。


「我々がどうするかは、我々で決めることだ」


その言葉に。


オルメスは満足そうに笑った。


「そうだな」


祝賀パーティーの華やかな空気の裏側。


学生たちの笑顔と音楽に包まれたその場で、

帝国の未来を見据えた者たちの思惑もまた、静かに、しかし確かに動いていた。


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