表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染と婚約したけど聖女も好きになったので頑張って爵位を取り、二人の女の子と結婚したい件  作者: ふくみどり
帝国学園編2年生

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
281/333

自由奔放な魔導士団長

祝賀パーティーが始まって間もなく。


来賓たちがそれぞれ談笑を始める中、一人だけ周囲の空気をまったく気にしていない人物がいた。


帝国魔導士団長セラフィスである。


「あっ、カイル」


迷いなく歩み寄り、帝国の宰相へ声を掛ける。


突然名前を呼ばれたカイル宰相は振り返り、小さく息を吐いた。


「……セラフィス殿」


「カンサルの件、ありがとうね」


セラフィスは満面の笑みを浮かべる。


「帝都追放、取り消してくれて」


その言葉に、カイルは小さくため息を吐いた。


「セラフィス殿」


「はい?」


「こういう公の場では、せめて敬称を付けていただけますかな」


穏やかな口調だったが、その声音には「立場上そうしてほしい」という本音が滲んでいた。


「え~」


セラフィスは露骨に頬を膨らませる。


「そんな硬いこと言わなくてもいいじゃない」


「お互い立場というものがありますからな」


「え~、めんどくさい!」


まるで子どものような返答だった。


周囲で話をしていた来賓たちも、思わず視線を向ける。


帝国の宰相へ向かって、ここまで気安く話しかける人物など滅多にいない。


しかし、当のカイルは怒るでもなく、ただ静かに受け流していた。


「それで報告なんだけど」


「どのような報告ですかな?」


「カンサル! 魔導士団に入ること、本人から了承もらったから」


「……ほう」


「正式な手続きはこれからだけど、すぐディハンにお願いに行くね」


その瞬間だった。


「私に何をお願いするのですかな?」


背後から落ち着いた声が響く。


振り返ると、軍務卿ディハンがこちらへ歩いてきていた。


「あっ、ディハン。ちょうどいい」


「セラフィス魔導士団長」


ディハンは軽く一礼する。


「宰相閣下のおっしゃる通りです」


「その場に応じた呼び方を使うべきでしょう」


「も~」


セラフィスは呆れたように両手を広げた。


「ディハンまで硬いこと言うんだから」


「帝国騎士団の体裁というものがあるのだ」


「分かったわよ」


セラフィスは渋々頷く。


「宰相」


「はい」


「とにかくカンサルが魔導士団に入る件、許可しておいてね」


「承知しております。正式な手続きが済み次第、進めましょう」


「それと」


セラフィスは今度はディハンへ向き直る。


「ディ・ハ・ンも」


「……」


「ちゃんと許可よろしく」


ディハンは一つ息を吐いた。


「書類を正式に提出するのだ」


「え~」


「『え~』ではない」


即座に言い返す。


「魔導士団長ともあろう方が、手続きを軽視するわけにはいくまい」


「分かったわよ。も~」


セラフィスは肩を落とした。


「魔導士団の誰かに書かせるから」


「自身が確認し、自身の名で提出するのだ」


「団長として当然の責務である」


「はーい」


返事だけは実に素直だった。


だが、その表情からは反省の色はまったく感じられない。


「じゃ、イヴァンス君のところに挨拶してくるね~」


そう言ってセラフィスは軽く手を振り、その場を後にした。


残されたカイルは、小さく息を吐いた。


(……恨み言の一つでも言われた方が、まだ気が楽なのだがな)


カンサルを帝都から追放したのは、帝国騎士団、

そしてセラフィスへ権力が集中することを恐れたためだった。


だが、その件が発端となり彼女の逆鱗に触れた評議会は

レッドシャドウの設立を止めることができなかったのだ。


もはやセラフィスの要望を正面から退けることなど、不可能なのである。


そして今回の特別試合。


あの圧倒的な実力を目の当たりにした今、その考えは決定的なものとなる。


(今後、あの方の願いを真正面から退けられる者など、帝国にはおるまい)


カイルは、楽しげに歩いていくセラフィスの後ろ姿を静かに見送った。


祝賀パーティーが始まってしばらく。


来賓や学生たちが思い思いに歓談を楽しむ中、イヴァンスは次々と声を掛けられていた。


祝福の言葉。


労いの言葉。


そして、これからの活躍への期待。


その一つひとつへ丁寧に応じているものの、慣れない社交の場に気を張り続けていたイヴァンスは、内心ではかなり疲弊していた。


そんな彼のもとへ、一人の女性が軽やかな足取りで近付いてくる。


「イヴァンス君」


聞き慣れた声だった。


「セラフィスさん」


魔導士団長セラフィス。


相変わらず自由気ままな笑みを浮かべながら、イヴァンスの前で立ち止まる。


「準優勝のお祝い、楽しんでる?」


「それは……」


イヴァンスは苦笑した。


「正直、あまり余裕はありません」


「こんなに偉い方ばかり集まる場には慣れていないので」


「あはは」


セラフィスは楽しそうに笑う。


「そっか。大変だね」


そう言うと、何かを思い付いたように目を輝かせた。


「じゃあ、気分転換に踊ろっか」


「……え?」


イヴァンスは思わず聞き返した。


「踊る?」


「うん」


セラフィスは当然のように頷く。


「マリーちゃんにいっぱい練習してもらったんでしょ?」


「それは、そうですけど……」


「じゃあ大丈夫」


そう言って、セラフィスは自然に右手を差し出した。


「行こ?」


「えっ……」


イヴァンスは一瞬戸惑う。


本来であれば、女性から男性へダンスを申し込むことなど、貴族社会ではまずあり得ない。


周囲の学生たちも、その光景を見て目を丸くしていた。


「セラフィスさんが……」


「男性を誘ってる……」


「しかも相手はイヴァンス君?」


ざわめきが広がる。


だが――。


誰一人として、それを咎める者はいない。


相手は帝国魔導士団長セラフィス。


皇帝でさえ頭を悩ませる、帝国最強の魔導士である。


その自由奔放な振る舞いに口を挟める者など、この場には存在しなかった。


「いいんですか?」


イヴァンスは遠慮がちに尋ねる。


「え?」


セラフィスはきょとんと首を傾げた。


「イヴァンス君が嫌じゃなければ、いいんじゃない?」


まるで何でもないことのように笑う。


その笑顔を見て、イヴァンスも苦笑した。


「……分かりました」


「よしっ」


セラフィスは嬉しそうにイヴァンスの手を取る。


「せっかく練習したんだから、ちゃんと披露しなきゃね」


そのまま軽く手を引き、広間の中央へ歩き出した。


演奏が始まる。


イヴァンスは深呼吸を一つすると、マリーに教え込まれた通り姿勢を整えた。


右手を添え。


左手を重ね。


静かに一礼する。


「へぇ~、ちゃんと踊れてるじゃない♪」


セラフィスは嬉しそうに微笑む。


「そうですか?」


「うん。イヴァンス君だったら、顔真っ赤で固まると思ってた」


「……否定できません」


イヴァンスは照れ笑いを浮かべた。


ゆっくりと音楽に合わせて足を運ぶ。


一歩。


また一歩。


マリーとの厳しい特訓を思い出すように、身体は自然と動いていた。


「ふふっ」


セラフィスは楽しそうに笑う。


「マリーちゃん、ちゃんと教えてくれたんだね」


「はい」


「おかげで何とか踊れています」


二人は穏やかに言葉を交わしながら、会場の中央をゆっくりと舞う。


その光景を、周囲の学生や来賓たちは驚き混じりに見つめていた。


女性から男性を誘い、しかも誰一人それを咎めることなく踊りが続いている。


そんな前例のない光景に、誰もが目を奪われる。


だが当の本人たちは、そんな視線などまるで気にも留めていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ