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幼馴染と婚約したけど聖女も好きになったので頑張って爵位を取り、二人の女の子と結婚したい件  作者: ふくみどり
帝国学園編2年生

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新たな役目

闘技大会が無事に終わり、続いて皇帝自らが主催した結婚式も滞りなく終えた彼らは、

ようやくアーカットへと戻ってきた。


長く慌ただしかった日々がひと区切りつき、街にも少しずついつもの空気が戻り始めていた。


そして――。


ライブリオ隊の今後を決める日が訪れる。


ライブリオ、ネーミア、テミール、カンサル。


さらにロルフィン辺境伯とグランドギルドマスター・バサル。


かつて帝国東部最強と呼ばれた冒険者パーティが、冒険者ギルドの一室へ集まっていた。


部屋の中には、戦場とは違う種類の緊張感が漂っている。剣を抜く前の張り詰めた空気ではない。


だが、人生の進路を決める場にしかない、静かで重たい空気が確かにあった。


誰もが、これから先のことを考えている。


冒険者としての終わりと、新しい役目の始まり。

それを決めるには、十分すぎるほどの時間と覚悟が必要だった。


「さて……」


ロルフィン辺境伯がゆっくりと口を開く。


「まずはライブリオだ」


「評議会で正式に決まった」


「アーカットに新設される帝国騎士団。その初代騎士団長候補として、お主が推薦された」


その言葉に、部屋の空気がわずかに動く。


ライブリオは静かに頷いた。


アーカットへ戻る道すがら、ネーミアと何度も話し合い、自分の答えはすでに決まっていた。


迷いがなかったわけではない。

だが、迷った末にたどり着いた答えは、今の自分にとって最も自然なものだった。


「俺は……帝国騎士団に入ります」


その声は落ち着いていたが、そこには確かな決意があった。


隣のネーミアが、ふっと表情を和らげる。


「ライブリオなら、きっとそう言うと思っていました」


その笑みは、寂しさよりも誇らしさの方が強かった。

彼が選んだ道を、心から受け止めている顔だった。


「今まで冒険者として守ってきた街を、これからは騎士団として守る。それが俺の役目だと思うんです」


ライブリオはそう言って、まっすぐ前を見た。


冒険者として自由に戦う日々は、確かに彼にとって大切な時間だった。

だが、今のアーカットには、ただ強いだけの剣ではなく、組織として街を守る力が必要だ。


誰かが先頭に立ち、責任を背負い、街の未来を形にしていかなければならない。

その役目を、自分が担うべきだと彼は思っていた。


ロルフィンも満足そうに頷く。


「本人の意思確認も取れた。正式な手続きはこちらで進めよう」


「ありがとうございます」


ライブリオは深く頭を下げた。


その姿には、かつての荒々しい冒険者としての面影だけでなく、

これから人を率いる者としての落ち着きも見え始めていた。


「では次だ」


バサルが視線を移す。


「ネーミア」


呼ばれたネーミアは、静かに背筋を伸ばした。


「私は冒険者を引退します」


迷いのない返事だった。


「ライブリオと一緒に戦えた日々は幸せでした。

でも、これからは違う形で支えていきたいと思っています」


彼女の声は穏やかだったが、その奥には確かな意志がある。

誰かに決められたのではなく、自分で選んだ未来だということが、はっきりと伝わってきた。


「ならちょうどいい」


バサルは少し口元を緩めた。


「帝国騎士団の事務をやらないか?」


「えっと、私がですか?」


ネーミアが思わず聞き返す。


戦う側ではなく、支える側。

前線で剣を振るうのではなく、組織を動かす役目。

それは彼女にとって、まったく新しい立場だった。


「どうせライブリオは金の管理も書類仕事も、お前かカンサルに丸投げだったんだろ?」


バサルの言葉に、ライブリオがわずかに視線を逸らす。


その反応だけで、答えは十分だった。


「……」


「図星か」


「いや、その……」


「書類仕事が壊滅的なお前には、ネーミアが必要だ」


部屋に笑いが起こる。


ネーミアも、思わずくすりと笑った。ライブリオは苦笑するしかない。

カンサルも肩をすくめ、半ば諦めたような顔をしている。


「……分かりました」


ネーミアは少しだけ考えたあと、静かに頷いた。


「ライブリオを支えられるなら、お受けします」


その返事には、彼女自身の優しさと強さがにじんでいた。

戦うことだけが役目ではない。誰かの隣に立ち、必要な場所で支えることもまた、立派な力だ。


「次はテミールだ」


「俺か」


テミールは苦笑した。


「隊が解散するなんて思ってなかったからな」


「これからどうするか悩んでたところだ」


彼は腕を組み、少しだけ天井を見上げる。

いつもの軽口を叩く余裕はあるが、その目の奥には、

やはりこれから先のことを真剣に考えている色があった。


「お前も帝国騎士団へ来い」


バサルはあっさりと言う。


「実は軍務卿には、お前も推薦してある」


「ライブリオを補佐できる人材が必要だからな」


その言葉に、テミールは少し驚いたように目を瞬かせた。

だがすぐに、その表情は柔らかな笑みに変わる。


「……そういうことなら、断る理由はないな」


「今度は騎士として街を守るさ」


彼はそう言って、軽く肩を回した。


テミールにとっても、これは自然な流れだったのだろう。

彼は戦いの中で生きることに慣れているが、ただの荒くれ者ではない。


状況を見て、必要な場所に立てる男だ。

ライブリオの補佐としても、これ以上ない人材だった。


最後に残ったのはカンサルだった。


「問題は俺ですね」


カンサルは苦笑する。


「帝都追放処分ですから」


「帝国騎士団は無理でしょう」


その言葉には、自嘲というよりも、事実を淡々と述べる響きがあった。


帝都追放。


それは軽い処分ではない。

少なくとも、表向きには帝国の中枢に関わることは難しい立場だ。


ましてや、新設される帝国騎士団に入るなど、普通ならまずありえない。


その瞬間だった。

空間が揺らいだ。


空気がふっと歪み、部屋の一角に見慣れた気配が現れる。


「やっほ~、カンサル」


全員が振り向く。


「あなたは魔導士団に入ってね」


そこにいたのは、セラフィスだった。


「……え?」


カンサルが固まる。


「ちょ、ちょっと待ってください!」


「俺、帝都追放ですよ!?」


「知ってるよ♪」


セラフィスは笑顔のまま頷く。


あまりにも自然で、あまりにも軽い。

まるで「今日は天気がいいね」とでも言うような調子だった。


「でも大丈夫」


「宰相とディハンに許可もらってきたから」


「……え?」


その場にいた全員が、一瞬言葉を失う。


許可をもらってきた。


その一言が、あまりにもさらりと放たれたからだ。


「もう決めたからよろしくね〜」


「じゃ、帝都で待ってるから」


そう言って手を振ると、セラフィスはそのまま転移で消えていった。


静まり返る部屋。


「……」


「……」


「いや、決めたって何ですか!」


カンサルの叫びだけが、部屋に響いた。


バサルは苦笑する。


「相変わらずだな」


ライブリオも肩をすくめた。


「セラフィス様だからな」


全員が、もう笑うしかなかった。


こうして、それぞれの進路が決まった。


だが。


バサルには、まだ一つだけ話しておくべきことがあった。


彼は少しだけ表情を引き締める。


「ライブリオ」


「最後に一つだけ言っておく」


その声色が変わったことに、ライブリオも自然と姿勢を正した。


「去年の闘技大会の頃、ネーミアから相談を受けていた」


ライブリオの表情が変わる。


ネーミアも、わずかに目を伏せた。


「お前と距離を置くために、冒険者を引退しようと思っている、と言われた」


「……え?」


「理由は簡単だ」


「お前がクラリス嬢に夢中だったからだ」


ライブリオは黙り込む。


胸の奥に、ずしりと重いものが落ちた気がした。


「パーティを組む時は、あれほど熱心に誘ったくせに」


「一緒にいても、自分を見てくれていない」


「そう感じていたそうだ」


ネーミアは少し照れたように目を伏せる。


その横顔には、責める気持ちよりも、少しだけ切なさを含んだ静かな感情が浮かんでいた。


「今回の大会前にも引退を申し出てきた」


「俺は必死で止めた」


「だが本人の決意は固かった」


バサルはライブリオを見つめる。


「だからな」


「今回、お前がプロポーズしなかったら」


「ネーミアには振られていたぞ」


「…………」


「ま、まじっすか……」


ライブリオの間の抜けた声が、ぽつりと落ちる。


「俺は嘘はつかん」


バサルは即答した。


「Aランク依頼を一人で攻略する男が、一番近くにいる女の気持ちには気付かない」


「本当にお前らしいな」


ライブリオは苦笑しながらネーミアを見る。


「……危なかったんだな」


「ええ。実家に帰るつもりで宿も片づけていましたから」


ネーミアは優しく微笑んだ。


その笑みには、もう過去を責める色はない。

むしろ、今こうして隣にいられることへの安堵がにじんでいた。


「でも、今はこうして隣にいられます」


ライブリオは照れくさそうに頭をかいた。


「……ありがとう」


その一言だけで十分だった。


するとバサルが、わざとらしく腕を組んでため息をつく。


「まったく……」


「しかも今回は皇帝陛下が主催した結婚式だぞ」


「別れるようなことがあればどうなるか、分かってるんだろうな?」


「……」


ライブリオが固まる。


「え、えっと……」


「皇帝陛下の顔に泥を塗ることになるな」


「そういう問題じゃないだろ」


テミールが吹き出しそうになりながら突っ込む。


バサルはさらに続けた。


「帝国中に祝福された式を挙げておいて、すぐに別れました、

 なんて話になったら、俺が皇帝陛下に呼び出される」


「お前のせいで、俺まで胃が痛くなるんだ」


「す、すみません……」


ライブリオは完全に肩を落とした。


ネーミアはそんな彼を見て、くすくすと笑う。


「大丈夫ですわ。私は、もう離れるつもりはありませんから」


その言葉に、ライブリオはようやく少しだけ顔を上げた。


バサルは満足そうに頷く。


「よし」


「話は終わりだ」


「それぞれ、新しい場所で頑張れ」


その言葉に全員が力強く頷いた。


冒険者として歩んできた日々は終わる。


だが、それぞれが新たな立場でアーカットを支えていく。


ライブリオ隊の新しい物語が、静かに始まろうとしていた。

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