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幼馴染と婚約したけど聖女も好きになったので頑張って爵位を取り、二人の女の子と結婚したい件  作者: ふくみどり
帝国学園編2年生

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この場所を離れられない理由

ファーリン教会――。


柔らかな陽光が色鮮やかなステンドグラスを通り抜け、礼拝堂の床へ幻想的な光を映し出していた。


静かな祈りの時間が終わり、教会には穏やかな空気が流れている。


その一室では、一人の老人が深く息を吐いていた。


聖教会枢機卿――テオール。


帝都からわざわざファーリンまで足を運んだ理由は、一つしかない。


向かいに座る一人の女性。


白銀の長い髪を揺らし、穏やかな笑みを浮かべる聖女。


シファレスである。


「シファレスよ」


テオールは静かに口を開いた。


「今日こそ良い返事を聞かせてくれぬか」


その言葉に、シファレスは困ったような笑みを浮かべる。


「テオール枢機卿……」


「どうか聖女筆頭になってほしいのだ」


真っ直ぐな眼差し。


その声には切実さが滲んでいた。


「これは猊下たってのご希望でもある」


「……」


「お主ほど支援術に秀で、人々から慕われる者は、聖教会の歴史を見渡しても数えるほどしかおらぬ」


テオールはゆっくり立ち上がる。


「帝都には、お主のような者が必要なのだ」


「聖女筆頭として教会を導いてほしい」


「どうか……考え直してはくれぬか」


部屋に静寂が流れる。


シファレスは少しだけ目を伏せた。


申し訳なさそうな表情。


やがてゆっくりと微笑む。


「申し訳ありません、テオール枢機卿」


その笑顔は穏やかだった。


だが、決意は揺るがない。


「どれほどお願いされても、私の答えは変わりません」


「私はファーリンを離れるつもりはありませんので」


きっぱりと告げる。

迷いは一切感じられなかった。


テオールは肩を落とす。


「そうか……」


苦笑しながら首を振る。


「今回も駄目か」


「申し訳ありません」


「謝る必要はない」


テオールは優しく笑った。


「お主がそういう人間だからこそ、猊下もわしも諦めきれぬのだ」


シファレスは少し困ったように笑うしかない。


「だが」


テオールは扉へ向かいながら振り返る。


「気が変われば、いつでも帝都へ来てくれ」


「聖教会は、いつでもお主を歓迎する」


「はい」


シファレスは深く一礼した。


「ありがとうございます」


テオールは小さく頷き、教会を後にする。


その背中を見送りながら、シファレスは静かに息を吐いた。


「また断っちゃった……」


小さく苦笑する。


その独り言を聞いていた人物がいた。


「また断ったんですか?」


振り返ると、入口には少女が立っていた。


まだ十一歳になったばかりのベラミカである。


少し呆れたように腕を組んでいた。


「ええ」


シファレスは苦笑しながら頷く。


「また聖女筆頭のお話でした」


「何回目です?」


「何回かしら」


「何回かじゃありません」


ベラミカは呆れたようにため息をつく。


「私が知っているだけでも六回は来てますよ」


「そんなにかしら?」


「そんなにです」


シファレスは困ったように笑った。


「でも、お断りするしかありませんから」


「どうしてです?」


ベラミカは素朴な疑問を口にする。


「聖女筆頭なんて、聖教会最高の名誉じゃないですか」


「みんな憧れる立場ですよ?」


シファレスは教会の窓から外を見つめた。


子どもたちが楽しそうに遊んでいる。


近所の人たちが笑顔で話している。


穏やかな景色だった。


「この町には、私を必要としてくださる方がたくさんいます」


優しく微笑む。


「病気で苦しんでいる方」


「怪我をされた方」


「一人暮らしのお年寄り」


「困ったことがあれば、皆さんここへ来てくださいます」


ベラミカは静かに聞いていた。


「私が帝都へ行ってしまったら、この方たちはどうなるのでしょう」


「……」


「だから私は、この場所を離れられないんです」


ベラミカは少しだけ感心したように笑った。


「やっぱりシファレス様らしいですね」


「そうかしら?」


「でも」


ベラミカは口元をにやりとさせた。


「それだけじゃないですよね?」


「え?」


「本当は」


一歩近づく。


「アレグさんと離れたくないだけでしょう?」


「なっ……!」


その瞬間。


シファレスの白い頬が一気に赤く染まった。


「べ、ベラミカ!」


思わず大きな声が出る。


「そ、そんなこと……」


「違うんですか?」


「そ、それは……」


目が泳ぐ。


言葉に詰まる。


ベラミカは勝ち誇ったように笑った。


「図星ですね」


「ち、違います!」


慌てて首を振る。


「違わなくは……ありませんけど……」


最後の方は小さな声になっていた。


「ほら」


ベラミカはくすくす笑う。


「やっぱり」


「も、もう……」


シファレスは両手で真っ赤になった顔を隠した。


「からかわないでください」


「だって、本当のことでしょう?」


「うぅ……」


反論できない。


そんな様子を見て、ベラミカは楽しそうに笑った。


「シファレス様ももういい歳なんですし」


「なっ……」


「婚期を逃したら困りますからね」


「べ、ベラミカ!」


シファレスはさらに顔を赤くして抗議する。


「そ、そんな言い方……!」


「だって事実じゃないですか」


ベラミカは悪びれもせず肩をすくめた。


「帝都からは何度もお迎えが来る」


「教会ではみんなに頼られてる」


「それなのに、ずっと独り身のままだなんて、周りが心配するのも当然です」


「そ、それは……」


シファレスは言葉を失う。


ベラミカはにやにやしながら続けた。


「しかも相手はアレグさんでしょう?」


「ええと……」


「優しい」


「真面目」


「それでいて、シファレス様のことをちゃんと見てくれてる」


「……」


「そんな人、逃したら本当に後悔しますよ?」


「べ、ベラミカ……」


シファレスは完全にたじたじだった。


「からかっているでしょう……」


「少しだけです」


「少しだけじゃありません……」


「ふふっ」


ベラミカは楽しそうに笑った。


「安心しました」


「え?」


「シファレス様も、ちゃんと普通の女の人なんだなって」


その言葉に、シファレスは一瞬きょとんとする。


やがて優しく笑った。


「私は最初から普通の女性ですよ」


「全然そうは見えません」


ベラミカは肩をすくめる。


「教会のみんなから頼られて」


「帝都から何度も迎えが来て」


「聖女筆頭になってほしいなんてお願いされる人が普通なわけありません」


「ふふっ」


シファレスは穏やかに笑った。


「そう見えるだけですよ」


その時だった。


教会の外から聞き慣れた声が響く。


「シファレス」


その声を聞いた瞬間だった。


「!」


シファレスは嬉しそうに振り返る。


入口には一人の青年が立っていた。


魔導士アレグ。


教会へ迎えに来たのだろう。


「お疲れ様」


優しく笑いかけるアレグ。


「はい」


シファレスも自然と笑顔になる。


その様子を見ていたベラミカは、小さくため息をついた。


「ほら」


ぼそりと呟く。


「やっぱり離れたくないだけじゃないですか」


「べ、ベラミカ!」


再び真っ赤になるシファレス。


教会には、三人の穏やかな笑い声が静かに響いていた。


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