特別試合⑧
帝都中央闘技場――。
二人に増えたセラフィスを前に、誰もが言葉を失っていた。
「それじゃあ、始めよっか」
本体のセラフィスが笑顔で剣と盾を構える。
同時に、分身体も剣と盾を構えた。
自然と戦場は二つへ分かれる。
本体の前には、イヴァンス、ラプロス総指南役、グレッグ将軍。
分身体の前には、コウラン副団長、ロルマ、カムシス、ベラミカ、セーニャ、マリー、
そして少し離れた位置にいるプラーサ。
「行くぞ!」
グレッグ将軍の号令とともに三人が同時に駆け出した。
先頭はラプロス。
右からイヴァンス。
左からグレッグ。
三方向からの同時攻撃。
普通の相手なら、防ぐことすら不可能な連携だった。
ガギィン!
セラフィスは笑顔のまま魔力剣を振るう。
ラプロスの剣を受け流し、その反動を利用して盾でイヴァンスの剣を弾く。
さらに身体を半回転させ、グレッグの一撃を魔力剣で受け止めた。
金属音が闘技場へ響き渡る。
「速い!」
イヴァンスが目を見開く。
支援魔法でAランク冒険者に匹敵する身体能力まで引き上げられている。
それでも。
目の前の少女は、その全てを見切っていた。
「ほいっと」
軽い声とともに剣が走る。
三人は慌てて距離を取った。
「ふふっ、いい感じだね」
息一つ乱れていない。
「帝国最強と言われているのが恥ずかしくなるな。グレッグよ」
ラプロスが苦笑した。
「完全に斬撃が躱されているぞ」
グレッグも肩をすくめる。
「全くです、ラプロス様」
「我ら二人の本気を受け切れる人間が、この大陸に存在するとは思いませんでした」
「なによ~」
セラフィスが頬を膨らませる。
「まるで私が化け物みたいじゃない~」
「……。」
三人とも返す言葉が見つからない。
剣を構えているグレッグは小さくため息をついた。
「違うとは言えませんな。」
その言葉に観客席から思わず笑いが漏れた。
だが、その笑いの裏には恐怖も混じっている。
帝国最強の二人を相手に、余裕を持って会話を続ける魔導士など、
誰一人として想像したことがなかった。
一方その頃――。
もう一人のセラフィスは、七人を相手に圧倒的な魔法戦を展開していた。
「それじゃあ、こっちも行くよ~」
魔力剣を軽く振る。
その軌跡から無数のファイアが生み出された。
「なっ!?」
ベラミカが目を見開く。
一発ではない。
十発。
二十発。
いや、それ以上。
しかも。
「おい、全部のファイアが誘導弾だぞ!気を付けろ!」
コウラン副団長が叫ぶ。
炎の弾丸は意思を持つように軌道を変え、それぞれ別の標的へ襲い掛かる。
「散開!」
ロルマの声で全員が飛び退く。
しかし。
避けた先へさらに炎が追ってくる。
「くそっ!」
カムシスが短剣で叩き落とす。
その横ではベラミカが連続してウォーターボールを放ち、何とか数発を相殺した。
それでも数が多すぎる。
「まだ来ます!」
マリーが悲鳴を上げる。
セーニャとマリーはすぐさま並んでバリアを展開した。
もともとベラミカ、セーニャ、マリーは同じ位置に固まっていたため、
セーニャとマリーが防御、ベラミカが攻撃魔法という役割分担になっている。
「皆さん、防御を!」
セーニャの張ったバリアに、次々とファイアがぶつかって弾ける。
マリーも必死にバリアを維持し、二重三重に防御を重ねた。
ベラミカはその後ろから、隙を見てウォーターボールや風魔法を撃ち返す。
だが、セラフィスの放つファイアの数があまりにも多い。
攻撃へ転じる余裕がない。
そんな中だった。
「しまっ――」
プラーサの表情が変わる。
彼女はサーチ専門で、少し離れた位置にいた。
そのため、仲間たちの防御圏からわずかに外れている。
死角から回り込んだ一発のファイア。
サーチで捉えきれなかった。
「危ない!」
ロルマが迷わず飛び込む。
ガァン!
大盾が炎を真正面から受け止める。
衝撃で数歩押し込まれながらも、その場を踏みとどまった。
「大丈夫ですか、プラーサさん」
「あ、ありがとうございます」
プラーサは深く頭を下げる。
ロルマは苦笑した。
「もしかして、あなたサーチしか使えないのですか?」
「お、お恥ずかしながら……」
申し訳なさそうに俯く。
ロルマは小さく笑った。
「仕方ありません」
盾を構え直す。
「私がお守りしましょう」
そして視線を前へ向けた。
「コウラン副団長、カムシス」
「私はプラーサさんをお守りすることに集中します」
「セラフィス様の攻撃は任せましたよ」
「ああ、頼むぜ」
カムシスが短剣を構え直す。
コウラン副団長も頷いた。
「こちらは任せてもらおう」
その時だった。
「ロルマさん!」
プラーサが声を掛ける。
「ファイアの起動だけでも、サーチで共有します!」
「できますか?」
「やってみます!」
次の瞬間。
ロルマの頭の中へ、魔道具テレパスを通して次々と情報が流れ込んできた。
――右後方。
――左上。
――正面、高速接近。
「なるほど!」
ロルマは盾を構える。
ガンッ!
右後方から飛来したファイアを防ぐ。
すぐさま身体をひねり、左上から落ちてきた炎も受け止める。
さらに死角から迫った一発を、振り返ることなく盾で弾いた。
「これは助かります!」
「ありがとうございます!」
プラーサも必死にサーチを続ける。
一方。
「はあっ!」
コウラン副団長が剣を抜き、真正面から斬りかかった。
剣士である彼は、魔法ではなく剣で勝負を挑む。
鋭い踏み込みからの横薙ぎ。
続けざまに袈裟斬り。
さらに返す刃で喉元を狙う。
だが。
「えいっ」
分身体のセラフィスは、まるで遊ぶように盾を軽く動かしただけで、その全てをいなしてしまう。
ガン、ガン、ガン、と乾いた音が続く。
コウランの剣筋は確かに速い。
だが、セラフィスの盾はそれ以上に軽やかで、正確で、無駄がなかった。
「くっ……!」
コウランが歯を食いしばる。
「剣士相手でも、その程度じゃ届かないよ~」
セラフィスは楽しそうに笑った。
その直後、彼女の周囲から再び無数のファイアが生まれる。
「はあっ!」
コウランが後退しながら剣で迎撃する。
「メガファイア!」
ベラミカも巨大な炎を撃ち込む。
しかし。
「残念~」
分身体のセラフィスは微笑みながら無数のファイアを操り、その全てを迎撃してしまう。
炎が炎を撃ち落とし、風がかき消される。
攻撃を通そうとするたび、新たな誘導弾が襲い掛かる。
「全然近づけません!」
マリーが叫ぶ。
「この数……多すぎますわ!」
セーニャもバリアを維持するだけで精一杯だった。
七人がかり。
それでもなお。
分身体一人の猛攻を押し返すことすらできない。
闘技場の二つの戦場では、それぞれ異なる形で、人智を超えた少女の強さが刻々と証明され続けていた。




