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幼馴染と婚約したけど聖女も好きになったので頑張って爵位を取り、二人の女の子と結婚したい件  作者: ふくみどり
帝国学園編2年生

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特別試合⑤

帝都中央闘技場――。


『一般の部決勝・特別試合、ただいま白熱中です! 会場はすでに熱気でいっぱいです!』


戦場は三つに分かれ、それぞれがまったく異なる戦いを繰り広げていた。


中央では、イヴァンスがラプロス総指南役とグレッグ将軍を相手に剣を振るう。


金属音が幾度も響き渡り、三人の姿は観客の目では追えないほどの速度で交錯していた。


『中央戦場、これは……二対一とは思えない圧力です! 

 イヴァンス選手、完全に押し込まれているように見えます!』


「甘い!」


ラプロスの鋭い斬撃が横薙ぎに走る。


その一撃を紙一重でかわした瞬間、今度は背後からグレッグの剣が迫る。


イヴァンスは体をひねりながら辛うじて回避した。


「はあっ!」


反撃に転じるが、その剣はラプロスに受け流される。


さらにグレッグが間髪入れずに踏み込み、容赦ない連撃を浴びせてきた。


『おっと、グレッグ将軍の追撃が止まりません! 

 ラプロス総指南役との連携も見事! イヴァンス選手、逃げ場がない!』


観客席から見れば、イヴァンスは完全に押し込まれている。


いつ倒れてもおかしくない。


そんな戦況だった。


だが――。


(もっと速く動ける……!)


イヴァンスは必死に二人の剣を追い続けていた。


体は驚くほど軽い。

視界も広い。


筋力も反応速度も、普段とは比較にならないほど向上している。


それはもちろん、セラフィスが施した支援魔法による恩恵だった。


(今しかない……!)


この身体能力を一時的なものに終わらせるつもりはない。


今できる動きを何度も繰り返し、身体に刻み込む。

いつか支援魔法がなくても同じ動きができるようになるために。


それがイヴァンスの狙いだった。


『イヴァンス選手、ただ耐えているだけではありません! 

 あえてこの猛攻を受け続けているようにも見えます! 

 一体何を狙っているのでしょうか!』


《来る、左!》


頭の中へ直接響く声。

プラーサのサーチである。


ラプロスの重心。


グレッグの踏み込み。


次に放たれる攻撃。

その情報が一瞬早く共有される。


《分かった!》


イヴァンスはその情報を頼りに身を沈める。


直後、頭上をラプロスの剣が通過した。


さらに回転しながらグレッグの懐へ飛び込む。


しかし。


「いい判断だ。」


グレッグは満足そうに笑いながら受け止める。


ガキィンッ!


激しい衝撃。


イヴァンスは数歩押し返された。


ラプロスも静かに頷く。


「動きは確実に良くなっている。」


「まだ粗いがな。」


「ええ。」


イヴァンスも息を整えながら笑った。


「もっとお願いします!」


その言葉を聞き、ラプロスとグレッグは互いに視線を交わす。


本来ならば、今の隙で勝負を決められる。

だが二人にそのつもりはない。


今日の目的は勝敗ではない。


この若者が、どこまで高みへ届くか。


その限界を引き出すことだった。


『おおっと、ラプロス総指南役とグレッグ将軍、ここで攻めを緩めません!

 しかし勝負を急ぐ様子はありません! これは何か意図があるのでしょうか!』


「まだまだ行くぞ。」


「食らいついてこい!」


再び二人の剣が同時に迫る。


イヴァンスも迷うことなく飛び込んだ。


その少し離れた場所では――。


『こちらは別の戦場! ロルマ選手とカムシス選手、そしてコウラン副団長の三つ巴!』


「そこだ!」


ロルマの剣が横から走る。


同時に。


「逃がすか!」


カムシスの短剣が死角から襲い掛かった。


二人はこれまで幾度も共闘してきた。

互いの呼吸を読む必要すらない。


ロルマが正面から圧力をかければ、カムシスが背後を突く。

カムシスが動きを止めれば、ロルマが重い一撃を叩き込む。


理想的な連携だった。


だが。


「甘い。」


コウラン副団長は最小限の動きだけで二人の攻撃をかわしていく。


剣を軽く流し。


半歩ずれる。


それだけで二人の連携は空を切った。


『かわした! かわした! 

 コウラン副団長、まるで攻撃の軌道が見えているかのような回避! これは手強い!』


「くそ、近衛騎士団の副団長は伊達じゃねえってことか!」


カムシスが舌打ちする。


コウランは笑みを浮かべた。


「そういうことだ、カムシス!」


言葉と同時に剣が閃く。


ロルマが受け止めるが、その衝撃で大きく後退させられた。


「まだまだ!」


ロルマは踏み込み直す。


二人は再び息を合わせ攻撃を重ねる。


しかし決定打には至らない。


セラフィスの支援魔法によって身体能力は向上している。


それでも。


経験だけは支援魔法で埋められない。

歴戦の近衛騎士団副団長は、その差を見せつけていた。


『ロルマ選手とカムシス選手、連携は完璧! 

 ですが、コウラン副団長が一枚上手! 

 攻めても攻めても崩れない! これは厳しい!』


そして。


最も異様な空気を放っていたのが、第三の戦場だった。


ベラミカ。


セーニャ。


マリー。


三人の魔導士が一斉に魔法陣を展開する。


「ファイアランス!」


「かまいたち!」


「ライトアロー!」


三種類の魔法が同時に放たれる。


だが。


セラフィスは動かない。


避けようとすらしない。


魔法は彼女の目前まで迫る。


その瞬間。


ふっ。まるで霧が晴れるように消えた。


『消えた!? いや、届いていない! 魔法が、セラフィス選手の前で霧散したように見えます!』


「……え?」


ベラミカが目を見開く。


もう一度。


今度は角度を変えて放つ。


結果は同じだった。


届かない。


正確には。


本人の前にすら到達できない。


何か見えない壁が存在するかのように、すべての魔法が霧散してしまう。


『これはどういうことだ!? 魔法が当たらないどころか、近づく前に消えている!?』


「う、嘘でしょ……。」


マリーが思わず後ずさる。


セーニャも額に汗を浮かべた。


「魔力干渉……? でも、こんなの……。」


知識の中に存在しない。

理解が追いつかない。


セラフィスは困ったように頬へ指を当てた。


「うーん……。ちゃんと撃ってる?」


「撃ってます!」


三人が同時に叫ぶ。


「え~、そうなんだ。」


セラフィスは首をかしげる。


「じゃあ、もう少し本気で来てもいいよ?」


その一言で三人の表情が引き締まる。


しかし。


本気を出せば出すほど。


絶望だけが積み重なっていった。


どんな魔法も。


どんな工夫も。


どんな連携も。


彼女には届かない。


まるで魔法そのものが存在を拒絶されているかのようだった。


『信じられません! ベラミカ選手たちの魔法が、

 まるで最初から意味を持たないかのように消えていく! 

 セラフィス選手、一体どれほどの実力を隠しているのでしょうか!』


そんな光景を見ていたレックはというと――。


「ぴぃ、ぴぃ……。」


レックは来賓席にいたクラリスの元へ、パタパタと飛んで逃げた。

そのまま彼女の膝の上に飛び乗ると、小さく丸くなって震え始める。


竜としての本能が理解していた。


あれだけは駄目だ。

絶対に近づいてはいけない存在だ、と。


膝の上で小刻みに震えるレックを見つめたクラリスは、苦笑した。


「レック……そんなに怖がって、どうしたの?」


返事はない。

あるのは、震える尻尾だけだった。


そして闘技場では、それぞれの思惑を胸に秘めた三つの戦場が、さらに熱を帯びていくのだった。

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