特別試合④
帝都中央闘技場――。
特別試合。
イヴァンス隊の一点突破作戦を、セラフィスはいとも簡単に見破ってみせた。
コウランを守っていた透明な障壁が消え、闘技場には再び静かな緊張が戻る。
観客席もまだ先ほどの光景を理解しきれていなかった。
「あれだけの集中砲火を……」
「薄いバリア一枚で防いだのか……?」
「魔導士団長って、本当に人間なのか……?」
ざわめきが広がる中、セラフィスはにこにこと笑ったままベラミカへ視線を向ける。
「そういえばさ~」
軽い口調だった。
「ここのところ稽古してなかったわよね、ベラミカ」
「え?」
ベラミカが目を瞬かせる。
嫌な予感しかしなかった。
セラフィスは楽しそうに笑う。
「久しぶりに稽古つけてあげる。あっ、それとセーニャちゃんとマリーちゃんもね。
せっかくだし、魔法組はみんなまとめてお稽古しましょ」
「……師匠?」
「それとね~」
周囲を見回した。
イヴァンス。
セーニャ。
マリー。
プラーサ。
ロルマ。
カムシス。
レック。
全員を順番に見渡す。
「イヴァンス隊のみんなも、それぞれ稽古してもらおっか」
その瞬間だった。
パチン。
セラフィスが軽く指を鳴らす。
淡い光が一斉に広がり、イヴァンス隊全員を包み込んだ。
「っ!」
イヴァンスが目を見開く。
身体の奥から、とてつもない力が湧き上がってくる。
筋肉が軽い。
呼吸が楽だ。
視界まで鮮明になった気がする。
「な、なんだこの支援魔法……!」
思わず拳を握る。
「今まで感じたことがないくらい力がみなぎるぞ……!」
セーニャも驚いていた。
「魔力まで増えてる……?」
ロルマが静かに息を呑む。
「身体能力だけではない……思考まで冴えている」
プラーサが苦笑する。
「これが魔導士団長の支援魔法なのね……」
一方。
セラフィスはまるで何事もないように右手を前へ出した。
「じゃあ始めよっか」
その指先へ、小さな火が灯る。
赤い炎。
だが、その色は徐々に変化していく。
赤。
橙。
白。
そして――。
蒼。
「……!」
マリーの表情が凍り付いた。
「嘘……」
思わず一歩後ずさる。
「嘘でございますわよね……」
その震えた声に、周囲の視線が集まる。
マリーは蒼い炎を見つめたまま、小さく呟いた。
「あんな高位のファイアを……」
「無詠唱で……」
「しかも五つ同時に……?」
普通なら一発撃つだけでも高位魔導士級の魔法。
それを五発同時に、しかも無詠唱で制御している。
誰も言葉を返せなかった。
セラフィスの魔法を初めて見るマリーは、ただただ驚愕していた。
普通のファイアを強くするだけなら簡単だ。
魔力を大量に流し込み、炎を巨大化させればいい。
メガファイア。
ギガファイア。
そうした高威力魔法は、その延長線上にある。
だが蒼い炎は違う。
炎の色が青へ近付くということは、魔力効率を極限まで高めた証。
無駄を一切許さず、圧縮し切った炎だけが、その色へ到達する。
しかも。
それを五個。
同時に。
無詠唱。
マリーの背中へ冷たい汗が流れた。
「こんなの……」
「人間技ではありませんわ……」
その瞬間。
「行くよ~」
セラフィスが笑った。
シュッ!!
五つの蒼い炎が、三人を包み込むように襲い掛かった。
速い。
目で追える速度ではない。
その瞬間、ベラミカの表情が一変した。
「セーニャ、マリー! ありったけの魔力でバリアを展開するのよ!」
「全力よ! 一瞬でも緩めたら死ぬわよ!」
「えっ……!」
「いいから早く!」
ベラミカの叫びに、セーニャとマリーが息を呑む。
次の瞬間、三人はほぼ同時に両手を前へ突き出した。
「バリア!」
「バリア!」
「バリア!」
三重に展開された障壁が、蒼い炎の進路を塞ぐ。
ドォォォォン!!
轟音とともに闘技場全体が震えた。
爆発と同時に凄まじい衝撃波が広がる。
砂煙が巻き上がり、さらに熱と風圧が押し寄せる。
観客席の前列までざわめきが走った。
「これ……本当に稽古なんですよね!?」
セーニャが悲鳴じみた声を上げる。
「稽古よ」
セラフィスは涼しい顔で笑った。
「対魔導士戦では、まず相手の初撃を受け切ること。
防げないなら、次の一手なんてないでしょ?」
「師匠、それを稽古って言うんですか!?」
ベラミカが叫ぶ。
だがセラフィスは楽しそうに指先を揺らした。
「もちろん。ほら、まだ終わってないわよ?」
さらに。
ゴォォォォッ!!
爆風。
観客席の前列まで風圧が押し寄せ、思わず身を伏せる者まで現れた。
「なっ……!」
「風が来たぞ!」
「今度は風魔法か!」
闘技場は再び土煙に包まれた。
やがてゆっくりと煙が晴れていく。
その中央でベラミカが膝をついていた。
肩で息をしている。
目の前にできた巨大な障壁はひび割れだらけだった。
「はぁ……はぁ……」
全身から汗が流れる。
「師匠……!」
息も絶え絶えだった。
「私達を殺す気ですか!?かまいたちの嵐なんて人にぶつけないでください!」
するとセラフィスがきょとんとした。
「え?」
そして笑う。
「何言ってんの、ベラミカ」
首を傾げる。
「当たらなければ、どんなに強い魔法だって意味ないって教えたでしょ?」
「いや!」
ベラミカが思わず叫ぶ。
「それ、絶対教え方が違います!」
「そう?」
セラフィスは本当に不思議そうだった。
「避けられたじゃない」
「避けてません!」
ベラミカが涙目になる。
「ありったけの魔力で作ったバリアと障壁で、ようやく防げたんです!」
「え~」
セラフィスが頬を膨らませた。
「それも立派な実力よ?」
「いやいやいや!」
観客席から笑いが漏れる。
だが笑っているのは一般人だけだった。
ロルマ。
カムシス。
そしてコウラン。
三人とも、思わず言葉を失っていた。
「あれが……」
ロルマが小さく呟く。
「魔導士団長……」
誰も反論できなかった。
一方。
そのすぐ横では。
キィィィィン!!
イヴァンスの剣とラプロスの剣が激しくぶつかる。
さらに。
ドォン!!
グレッグの重い一撃が襲う。
「っ!」
だが。
先ほどまでとは違った。
セラフィスの支援魔法を受けたイヴァンスの身体は、驚くほど軽い。
「速い!」
グレッグが笑う。
「先ほどとは別人だな!」
イヴァンスが一歩踏み込む。
ラプロスへ斬り込む。
キィィン!!
火花が散る。
「ほう!」
ラプロスも楽しそうだった。
「支援一つでここまで変わるか!」
イヴァンスは何も答えない。
ただ。
今まで感じたことのない力を全身へ巡らせながら、帝国最強の二人へ真正面から挑み続ける。
その姿を見ながら。
セラフィスは満足そうに微笑んだ。
「うんうん」
「やっぱり稽古は、こうじゃなくっちゃね♪」
ベラミカはその笑顔を見て、本気で頭を抱えた。
「……私たち、生きて闘技場を出られるわよね?」




