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幼馴染と婚約したけど聖女も好きになったので頑張って爵位を取り、二人の女の子と結婚したい件  作者: ふくみどり
帝国学園編2年生

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特別試合③

帝都中央闘技場――。


特別試合。


先ほどまで熱気に満ちていた闘技場は、今や嘘のように静まり返っていた。

数万人の観客が息を呑み、中央の試合場へ視線を注いでいる。

誰もが、この一戦がただの模擬戦ではないことを理解していた。


帝国最強の四人。


それに挑むのは、まだ若い学生たち。


普通に考えれば、勝負になるはずがない。

だが、それでもなお、ここに立つ者たちの目は死んでいなかった。


審判が深く息を吸い込み、闘技場全体へ響く声で宣言する。


「――試合開始!」


その宣告と同時だった。


ドンッ!!


イヴァンスが地面を蹴る。


まるで弾丸のような踏み込みだった。

視界に残像を引きずるほどの速度で前へ出ると、その姿が一瞬だけ揺らいだ。


「おっ!」


観客席のあちこちからどよめきが起こる。


「気配分けだ!」


「最初から全力かよ……!」


二つに分かれた気配が、左右へ散る。


しかも、どちらも本物としか思えないほどの圧力を放っていた。

片方はラプロスへ、もう片方はグレッグへ

――そう錯覚させるほどに、イヴァンスの存在感は鋭く分裂していた。


真正面に立つラプロス総指南役が、その瞬間だけ嬉しそうに口元を緩める。


「来たな!」


叫ぶと同時に、自らも踏み込んだ。


だが、イヴァンスの本体は――。


ラプロスを狙っていた。


キィィィィン!!


激しい金属音が闘技場へ響き渡る。


剣と剣が真正面から激突し、火花が四方へ散った。

衝撃が足元の石床を震わせ、観客席の最前列にまで鋭い音が届く。


「ほう!」


ラプロスが笑う。


「良い踏み込みだ!」


イヴァンスは返事をしない。


剣を弾き、そのまま二撃目へ移る。無駄のない動きだった。

攻撃のための攻撃ではなく、相手の呼吸を奪うための連撃。

若さゆえの勢いではない。明確な意図を持った剣筋だった。


しかし、その横から巨大な影が迫っていた。


グレッグ将軍だ。


「甘い!」


豪快な横薙ぎ。


普通なら回避不可能な角度と速度。

空気を裂くような剣圧が、イヴァンスの胴を真っ二つにしようと迫る。


だが――。


《右です!》


プラーサの念話が飛ぶ。


イヴァンスは半歩だけ身体を流した。


ほんのわずかな動きだった。だが、その半歩が生死を分ける。

グレッグの剣が鼻先を掠め、髪の先を切り飛ばすように通り過ぎる。


そのまま空振り。


「ほう……!」


グレッグが目を見開く。


「今のを躱すか!」


その声には驚きよりも、むしろ嬉しさが混じっていた。


「やるな、イヴァンス!」


その頃――。

別方向では、ベラミカがすでに魔法を完成させていた。


「メガファイア!」


轟音と共に巨大な火球が一直線にセラフィスへ向かう。

空気が焼け、熱波が一瞬で広がる。観客席の前列にまで熱が届き、思わず身を引く者もいた。


しかし、それだけでは終わらない。


「アイスランス!」


「ライトニング!」


氷槍と雷撃が、ほぼ同時にコウランへ襲い掛かった。


三方向からの同時攻撃。


しかも、狙いは明確に分散されているようでいて、実際には一点へ収束していた。

イヴァンスの作戦通り、まずはコウランを崩す。

帝国最強の一角を落とせれば、それだけで試合の流れは変わる。


コウランが眉を上げる。


「いきなり本命は俺か!」


咄嗟に地面を蹴る。


その瞬間だった。


「パワー!」


「スピード!」


セーニャの支援魔法が完成する。


淡い光がロルマとカムシスを包み込んだ。

二人の身体能力が一段階跳ね上がる。足取りが軽くなり、踏み込みの鋭さが増す。


「行くぞ!」


ロルマが一気に踏み込む。


その反対側からカムシスも同時に距離を詰める。


左右からの同時攻撃。


コウランは紙一重で躱していく。剣を流し、身体を捻り、次の攻撃も避ける。

さすがは近衛騎士団副団長。攻撃の軌道を見切る目も、身体を捌く技術も一級品だった。


「いい連携だ!」


コウランが短く笑う。


だが――。


一瞬だった。


ロルマの剣を避けた足が、カムシスの踏み込みと交錯する。


「しまった!」


ほんの僅か体勢が崩れた。

その瞬間を、イヴァンス隊は逃さない。


「今!」


マリーが叫ぶ。


「レック!」


「ぴぃっ!」


赤い竜が大きく息を吸い込む。


ゴォォォッ!!


巨大な火炎が放たれた。


さらにマリーのファイア。


そしてベラミカが追撃の炎を重ねる。


三方向から放たれた炎が、コウランを完全に飲み込む。

爆炎が重なり、熱風が渦を巻き、土煙が一気に舞い上がった。


轟音。


衝撃。


そして、視界を覆う白茶けた煙。


観客席が総立ちになる。


「決まった!」


「今のは無理だ!」


「転移魔法陣だ!」


誰もがそう確信した。


実況も叫ぶ。


『決まったかぁぁぁぁ!!』


『近衛騎士団副団長のコウラン選手!! これはさすがに耐えられないでしょう!!』


だが。


待っても。


待っても。


転移魔法陣は現れない。


「あれ……?」


観客席がざわつく。


「何で出ない?」


「どういうことだ?」


「今の、直撃じゃなかったのか?」


やがて土煙がゆっくりと晴れていく。


その中心には――。


「いててて……」


頭を掻きながら立ち上がるコウランの姿があった。


「いやぁ……」


苦笑する。


「今のは本気でやばかった」


服は煤だらけ。


髪も乱れている。


だが、傷らしい傷は見当たらない。

あれだけの集中砲火を受けたにもかかわらず、致命傷どころか、まともな裂傷すらない。


会場中が静まり返った。


誰も理解できない。


すると。


「ふふ」


その横から、楽しそうな笑い声が響く。


セラフィスだった。


巨大なメガファイアを受けたはずなのに、服一つ焦げていない。

まるで最初から何もなかったかのように、余裕の笑みを浮かべている。


「うーん」


軽く首を傾げる。


「惜しかったかな?」


そしてイヴァンス隊を見渡した。


「戦力を一点集中させる判断は悪くないの」


その笑顔は、敵を見るものではない。


まるで授業中の教師そのものだった。

生徒の答案を見て、どこが良くてどこが惜しいのかを静かに講評しているような、

そんな落ち着きすらある。


「でもね」


コウランの前を指差す。


「狙いが最初から分かってるなら」


「いくらでも守れるのよ」


「発想は悪くないけど、まだまだ甘いかな。七十点ってところね」


そう言って。


パチン。


軽く指を鳴らす。


その瞬間。


コウランの前に展開されていた透明な障壁が、音もなく砕け散った。


会場が息を呑む。


「あれは……!」


「バリアだ!」


「いつ張った!?」


「誰も気付かなかったぞ!」


実況も目を丸くする。


『見えませんでした!!』


『魔導士団長のセラフィス選手!! いつの間にかコウラン選手の前へ結界を展開していました!!』


『しかも、あれだけの集中砲火を受け切っています!!』


その様子を見たベラミカが、小さくため息を吐いた。


「師匠……」


呆れ半分。


感心半分。


「相変わらず化け物ね」


セラフィスがぴくっと反応する。


「えー!」


頬を膨らませる。


「ベラミカ!」


「私、化け物じゃないもん!」


腕をぶんぶん振る。


「もう少し師匠には敬意を払ってよね!」


ベラミカは肩をすくめた。


「敬意は払ってますよ」


一拍置く。


「私だってAランク相当の魔術師ですよ。

 その私の最大出力を、あの薄いバリア一枚で防いじゃうんだもん」


「十分化け物でしょ」


「ひっどーい!」


セラフィスが本気で拗ねる。


「弟子にそんなこと言われる師匠なんて聞いたことないよ!も~」


「むぅ……」


頬を膨らませたまま腕を組むセラフィス。


その姿に、張り詰めていた会場から思わず笑いが漏れた。

あまりにも場違いなやり取りだったが、それだけに逆に緊張が少しだけ和らぐ。


だが、その笑いの裏で。


イヴァンスは静かに息を吐く。


――やっぱり。


作戦は、最初から見抜かれていた。


帝国最強。


その名は、決して飾りではなかった。


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