表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染と婚約したけど聖女も好きになったので頑張って爵位を取り、二人の女の子と結婚したい件  作者: ふくみどり
帝国学園編2年生

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
249/293

特別試合①

帝都中央闘技場――。


夏の選抜闘技大会、その熱狂の余韻がまだ冷めやらぬ中、一般の部決勝から二日後の朝が訪れた。


帝都中が待ち望んだ特別試合の日である。


空はよく晴れ、太陽の光が石造りの巨大な闘技場を白く照らしていた。

だが、その清々しい空気とは裏腹に、中央闘技場の周囲はすでに熱気で満ちている。

開場と同時に押し寄せた観客たちで、観客席はあっという間に埋まり、

立ち見の場所にまで人があふれていた。

帝都の住民だけではない。近隣の町や村からも、この一戦を見届けようと人々が集まっている。


数えるのも難しいほどの人、人、人。

ざわめきは絶えず、期待と興奮が入り混じった空気が、闘技場全体を包み込んでいた。


「始まるぞ!」


「ついに特別試合だ!」


「イヴァンス隊、本当に帝国騎士団と戦うんだよな!」


「相手は将軍に魔導士団長だぞ!?」


「一般の部の優勝者が、あの帝国最強とやり合うなんて……!」


あちこちから飛び交う声は、どれも興奮を隠しきれていない。

普段なら闘技大会の決勝だけでも十分な盛り上がりだが、

今回はそれをさらに上回る。


帝国騎士団の実力を民に示すための特別試合。

しかも相手は、学生の部を制したイヴァンス隊だ。

誰もが、この一戦がただの余興では終わらないことを理解していた。


実況が興奮気味に声を張り上げる。


『皆様、お待たせいたしました!!』


『本日は夏の選抜闘技大会を締めくくる特別試合です!!』


『学生の部優勝チーム・イヴァンス隊が、帝国騎士団代表と激突いたします!!』


その声が響いた瞬間、観客席の熱気はさらに一段上がった。


『まずは挑戦者、イヴァンス隊の入場です!!』


入場口の扉が、重々しい音を立ててゆっくりと開く。


その先に現れたのは、七人と一匹の姿だった。


先頭を歩くのはイヴァンス。

いつも通り落ち着いた足取りで、まるで散歩にでも出かけるかのような自然さを崩さない。

その隣にはセーニャ。


少し緊張した面持ちではあるが、それでも背筋を伸ばし、しっかりと前を見据えている。


続いてマリー、プラーサ、ベラミカ。さらにロルマとカムシス。

そして最後尾には、小さな赤い竜――レックが、とことこと自分の足で歩いていた。


七人と一匹。


それが、今回のイヴァンス隊だった。


観客席から、ひときわ大きな歓声が上がる。


「イヴァンスー!!」


「セーニャちゃーん!!」


「レックかわいいー!!」


「ロルマさんも出るのか!」


「カムシスまでいるぞ!」


一人ひとりが紹介されるたびに、歓声が波のように広がっていく。

学生の部で見せた活躍を覚えている者も多く、彼らの名を呼ぶ声には、

純粋な応援と期待が込められていた。


だが、そんな中でも、イヴァンス以外の面々は少しだけ表情が硬い。


マリーは静かに息を整え、視線を前へ向けたまま、

胸の鼓動を落ち着かせようとしている。


プラーサは拳をぎゅっと握り締め、気合いを入れるように肩を回した。

ベラミカも珍しく真剣な表情で、目の前の闘技場中央を見据えている。


ロルマはわずかに苦笑した。


「まさか私が、この舞台へ立つことになるとはな……」


その声には、驚きと同時に、どこか感慨深さも混じっている。


カムシスも肩を竦めて笑った。


「人生って分からないもんだな。まさか帝国騎士団相手に、こんな大舞台で戦うことになるとは」


普段なら軽口を叩ける場面でも、さすがにこの空気は重い。

数万人の視線が一斉に自分たちへ向けられているのだ。

しかも相手は、帝国の頂点に立つ者たち。緊張しない方がどうかしている。


セーニャは思わず周囲を見回した。


「す、すごい人……」


闘技大会の決勝戦とはまた違う。

観客の熱気はもちろんあるが、

それ以上に、これから始まる戦いの意味を皆が理解しているせいか、

場内には張り詰めた空気が漂っていた。


歓声の裏に、息を呑むような静けさがある。

まるで、巨大な獣が牙を剥く直前のような緊張感だった。


その肩へ、イヴァンスがそっと手を置く。


「大丈夫」


穏やかな笑顔だった。


「いつも通りやればいいよ」


その一言は、不思議とセーニャの胸のざわめきを和らげた。

イヴァンスの声には、相手が誰であろうと変わらない安心感がある。

彼がそう言うなら、きっと大丈夫だと思えてしまう。


「……うん」


セーニャも小さく頷いた。


その頃。


反対側の入場口が、今度はゆっくりと開いていく。


実況席の声が、さらに力を増した。


『続きましてぇぇぇ!!』


『帝国騎士団代表の入場です!!』


その瞬間、場内が一気に沸き上がる。


観客たちは総立ちになり、歓声と拍手が渦を巻いた。

帝国の民にとって、騎士団は日々の平和を守る象徴であり、誇りそのものだ。

その代表が姿を現すとなれば、これほどの熱狂になるのも当然だった。


最初に姿を現したのは、巨大な体躯を誇る男。


帝国軍将軍――グレッグ。


その堂々たる姿は、まさに戦場を知る者の風格を備えている。

厚い胸板、鋭い眼光、無駄のない歩み。

彼が一歩進むたびに、場内の空気が引き締まるようだった。


その後ろには、帝国剣術の最高峰と称される男。


ラプロス総指南役。


後ろで束ね、年齢を感じさせる落ち着きと、

長年の鍛錬で磨かれた気迫を同時に漂わせている。

剣を持たずとも、その立ち姿だけで強者と分かる人物だった。


さらに続くのは、近衛騎士団副団長コウラン。


無駄のない動きと、隙のない視線。

帝国の中枢を守る者としての厳しさが、そのまま形になったような男である。


そして最後に。


紫色のローブを纏った小柄な女性が、いつもの調子で軽く手を振りながら歩いてくる。


魔導士団長セラフィスだった。


「将軍だ!」


「ラプロス様!」


「コウラン副団長!」


「セラフィス様ー!」


観客席からは、次々と名前を呼ぶ声が飛ぶ。

帝国騎士団の中でも、特に名の知れた四人が一堂に会しているのだ。

これほど豪華な顔ぶれは、そうそう見られるものではない。


実況も興奮を隠せない。


『帝国最強戦力が集結です!!』


『帝国軍を代表する四名!!』


『これ以上ない豪華な布陣となりました!!』


両チームが闘技場中央で向かい合う。


その瞬間、空気がさらに重くなった。


マリーが小さく息を呑む。


「本当に……帝国の頂点ばかりですわね」


その声は、緊張を押し隠そうとしてもわずかに震えていた。


プラーサも苦笑する。


「さすがに緊張するわね。相手が相手だもの」


ベラミカが静かに頷いた。


「私でも少し震えるわ。ここまでの相手と真正面から向き合うのは、そうないことよ」


ロルマも思わず苦笑する。


「外交交渉より緊張するな。相手の圧が違いすぎる」


カムシスも肩を竦めた。


「軍務卿直属の任務でも、ここまではなかったぞ。これはこれで胃に悪い」


全員が緊張していた。


ただ一人を除いて。


イヴァンスだけは、普段と変わらない穏やかな表情を浮かべていた。

まるで、目の前にいるのが帝国最強の四人ではなく、

いつもの知り合いであるかのような自然さだ。


その様子を見たグレッグが、小さく笑う。


「相変わらず大した胆力だ」


ラプロスも静かに頷いた。


「肝が据わっておる。あの年齢でここまで落ち着いている者は、そうおらんな」


イヴァンスは軽く会釈するだけで、余計なことは言わない。

その態度がまた、彼の器の大きさを際立たせていた。


その時だった。


来賓席。


ランジール皇帝が、ゆっくりと立ち上がる。


その動きひとつで、闘技場全体が静まり返った。

先ほどまでの歓声が嘘のように消え、数万人の視線が一斉に皇帝へ向けられる。

帝国の頂点に立つ者の存在感は、それだけで場を支配する力を持っていた。


皇帝はゆっくりと観客席を見渡した。


そして、よく通る声で語り始める。


「帝国の民よ」


静かな一言だった。


だが、その声は不思議なほど遠くまで響き渡り、闘技場の隅々にまで届いていく。

誰もが息を呑み、次の言葉を待った。


「普段、皆を守っておる騎士団の実力を、今日はその目で見るがよい」


その言葉に、観客たちはさらに静かになる。

皇帝が自ら、騎士団の存在意義を語っているのだ。

これは単なる試合ではない。

帝国の守り手たちが、民の前でその力を示す場なのだと、誰もが理解した。


皇帝は続ける。


「そして心に刻むのだ」


一拍置いて、場内を見渡す。


「帝国騎士団、ここにあり、と」


その一言には、誇りと信頼、そして帝国を支える者たちへの敬意が込められていた。


さらに続ける。


「今後も、この平和を維持する者たちの戦いを見届けるのだ」


その言葉が終わると同時に。


闘技場全体が、割れんばかりの歓声で揺れた。


「うおおおおおお!!」


「帝国騎士団!!」


「頑張れー!!」


「イヴァンス隊も負けるなー!!」


歓声はいつまでも鳴り止まない。

帝国騎士団への敬意と、イヴァンス隊への期待。

その両方が入り混じった熱狂が、観客席を包み込んでいた。


やがて審判が前へ進み出る。


「両者、位置につけ!」


その声に従い、イヴァンス隊と帝国騎士団代表が、

それぞれ所定の位置へ散っていく。


闘技場中央に、静かな緊張が満ちる。誰もが次の瞬間を待っていた。


その時だった。

イヴァンスの耳元で、小さく魔道具テレパスが起動する。


彼は静かに目を閉じた。


そして、仲間たち全員へ念話を送る。


《みんな、聞こえる?》


《ここからが本番だ》

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ