表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染と婚約したけど聖女も好きになったので頑張って爵位を取り、二人の女の子と結婚したい件  作者: ふくみどり
帝国学園編2年生

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
248/294

先輩からの助言

帝都中央区――宿屋ワーラン、二階の貸し切り部屋。


一般の部決勝を終えた夜のことだった。


窓の外には、まだ祭りの熱気を引きずった帝都の灯りが揺れている。

遠くでは歓声の残響がかすかに聞こえ、戦いの余韻が街全体に薄く漂っていた。

だが、この部屋の中だけは、先ほどまでの激闘が嘘のように穏やかだった。


大きな丸机の上には、焼き魚や肉料理、香草の効いたスープに果実酒まで並び、

ライブリオ隊、イヴァンス隊、そしてレッドシャドウの面々が思い思いに皿を手に取っている。


勝敗の重さを一度置き去りにしたような、肩の力の抜けた空気がそこにはあった。


その部屋の隅では、セーニャとネーミアが向かい合って座っていた。


セーニャは湯気の立つ紅茶を両手で包み込むように持ったまま、

視線を落としている。先ほどからずっと、肩が小さく縮こまっていた。


「……私のせいで、負けちゃいました……」


ぽつりと漏れた声は、今にも消えてしまいそうなほど小さい。


ネーミアはその様子を見て、困ったように、それでいて優しく苦笑した。


「違うわよ」


「え……?」


「あなた、無理をし過ぎたの」


セーニャが目を瞬かせる。自分を責めることしか考えていなかった彼女にとって、

その言葉は少し意外だったらしい。


ネーミアは指を一本立てた。


「まず、イヴァンス君に掛けていたあのパワー強化」


「は、はい……」


「あれ、最大出力だったでしょう?」


セーニャは申し訳なさそうに小さく頷いた。


「……だって、イヴァンス君が押し負けそうだったから……」


「でしょうね」


ネーミアは責めるでもなく、ただ納得したように頷く。


「でもね、支援魔法って威力だけじゃないのよ」


少しだけ身体を乗り出し、教師のような口調で続けた。


「私はライブリオに最大出力なんて掛けてないわ」


「え?」


「時間を優先したの」


セーニャが目を見開く。


ネーミアはゆっくりと言葉を選びながら説明した。


「七割の強化を長時間維持するか」


「十割の強化を短時間だけ使うか」


「支援術師は、その判断をしなきゃいけないの」


セーニャは真剣な表情で耳を傾けていた。

自分が知らなかっただけで、支援術にはそんな考え方があるのだと、初めて知った顔だった。


ネーミアはさらに続ける。


「あなたは全部を背負おうとした」


「パワー強化を最大出力で維持して」


「風魔法も使って」


「障壁も維持して」


「それを全部、一人でやった」


そこで一度言葉を切り、ネーミアは小さく息を吐いた。


「正直、最後まで立っていただけでもすごいわよ」


セーニャはぽかんとした。


「……すごい?」


「ええ」


ネーミアは迷いなく頷く。


「私なら最初からやらないもの」


「えぇっ!?」


「だって倒れるって分かるもの」


あまりにもあっさりした言い方に、セーニャは思わず言葉を失った。

自分なら当然やるべきだと思っていたことを、ネーミアは最初から選ばないと言う。

その事実が、少しだけ彼女の視界を揺らした。


そんなセーニャを見て、ネーミアは少しだけ笑う。


「でも、あなたらしいとも思う」


「……?」


「イヴァンス君を勝たせたかったんでしょう?」


その問い掛けに、セーニャは少しだけ俯いた。

耳まで赤く染まり、紅茶の湯気に隠れるように視線を落とす。


そして、ほんの小さく頷いた。


「……はい」


その返事を聞いたネーミアは、くすりと笑った。


「そういうところ、嫌いじゃないわ」


「……ありがとうございます」


セーニャは少しだけ照れながら、ようやく小さく笑った。


ネーミアはその笑顔を見て、しばらく何かを考えるように目を細める。

それから、少しだけ声を落として言った。


「それにね、結婚したら、私もそろそろ引退になるだろうから」


「え……?」


「セーニャちゃん、ちょっと支援術師として鍛えてあげようか?」


セーニャは目を丸くした。


「え、ええっ……!?」


「今のままでも十分頑張れるけど、伸びしろはあるわ」


ネーミアは穏やかに微笑む。


「支援術師って、前に出る人を支えるだけじゃないの。

 戦場全体を見て、どこに力を回すか、どこで抑えるか、どこで切るかを考える仕事なのよ」


「……」


「あなたは優しいから、きっと人を助けようとして無理をする。

 でも、それを続けるには、ちゃんとした技術が必要になるわ」


セーニャは戸惑いながらも、どこか嬉しそうにネーミアを見つめた。


「……私でも、できますか?」


「もちろん」


ネーミアは即答した。


「むしろ、あなたみたいな子の方が伸びるかもしれないわね」


その言葉に、セーニャの表情が少しだけ明るくなる。

先ほどまでの沈んだ空気が、ほんの少しだけ和らいだ。


少し離れた席では――。

ライブリオが片手に酒杯を持ち、もう片方の腕をイヴァンスの肩へ回していた。


すっかり出来上がっているらしく、上機嫌な笑みを浮かべている。


「イヴァンス」


「はい?」


「クラリスちゃんとは進展したのか?」


いきなりの問いに、イヴァンスは苦笑するしかなかった。


「いや……頼りっぱなしで、何も……」


ライブリオは深いため息を吐く。


「お前なぁ……」


呆れ半分、笑い半分の声だった。


「特別試合が終わったらデートに誘え」


「え?」


「お前のことだから、婚約もなし崩しになってるんだろ?」


「……う」


図星だった。


ライブリオは肩を竦める。


「ちゃんと俺みたいに結婚を申し込んどけ」


少し照れくさそうに頭を掻きながら、しかし言葉だけは真剣だった。


「あんな気立てのいい子、本当にそうそういないぞ」


イヴァンスは真面目な表情になり、深く頭を下げた。


「ライブリオさん……ありがとうございます」


「礼を言う前に実行しろ」


「はい……」


ライブリオは満足そうに頷いた。


そして、少しだけ口元を緩める。


「それより」


「もう一人って話はどうなってんだ?」


「もう一人?」


「セーニャちゃんだよ」


ライブリオは苦笑した。


「俺からすると、完全にセーニャちゃんだと思ったんだけどな」


イヴァンスは即座に首を横へ振る。


「いや、セーニャは違いますよ」


あまりにも迷いのない返答だった。


「俺のこと、特別どうって思ってないと思います」


ライブリオは思わず目を丸くする。


「……本気で言ってるのか?」


「はい」


イヴァンスは本当に不思議そうだった。


「セーニャはいい子だとは思いますけど」


ライブリオは首を傾げる。


「闘技大会を見てた限りじゃ、お前に気があるようにしか見えなかったがな」


「いやいや」


イヴァンスは苦笑する。


「そんなことないですよ」


「本当にセーニャは優しい子なんです。だから僕だけ特別ってことはないですよ」


少しだけ笑って続けた。


「確かに言い寄るやつは多いですけどね」


ライブリオは額を押さえた。


「……お前」


「はい?」


「周りのみんなは大変だな」


「え?」


「いや、何でもない」


ライブリオはそれ以上何も言わなかった。


目の前の男へ恋愛を説明するのは、まだまだ時間が掛かりそうだと思ったからである。


その様子を少し離れた席から見ていたジャックが、小さく肩を震わせた。


「やっぱりだ~」


隣ではレキサルも静かに頷いている。


「まこと、イヴァンス殿は他者のお心を察することには、

 ひときわ長けておいでにござりまするが」


「ご自身の御事となりますれば、たちまち御察しの冴えが鈍うなられまするな」


「そこが面白いんだけどね~」


ジャックはくすくすと笑った。


「セーニャちゃんもクラリスちゃんも、大変だ~」


部屋のあちこちで笑い声が広がる。


当のイヴァンスだけが、何がそんなに面白いのか分からないという顔で首を傾げていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ