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幼馴染と婚約したけど聖女も好きになったので頑張って爵位を取り、二人の女の子と結婚したい件  作者: ふくみどり
帝国学園編

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竜の紋様の鼓動

意識が浮上したイヴァンス。


「レック……」


かすれた声だった。


喉が焼けつくように乾き、言葉がうまく形にならない。


それでも――呼ぶ。


「正気に戻れ……セーニャを殺す気か……!」


その言葉は、確かに“届いた”。


レックの咆哮が、一瞬だけ揺らぐ。


「……グ……ル……」


牙の奥で、音が途切れる。


その瞳が、わずかに焦点を取り戻しかける。


セーニャの姿を――“認識しかけた”。


だが。


次の瞬間。


「グルルルルルルッ!!」


咆哮が爆ぜた。


理性を引き裂くような、荒々しい音。


戻りかけた意識が、無理やり引き剥がされる。


「く……っ」


イヴァンスの視界が歪む。


繋がりかけた“人としての回路”が、軋みながら千切れていく。


右手の竜紋が、脈打つ。


一度ではない。


二度、三度――不規則な周期で明滅を繰り返す。


「やめ……ろ……」


自分の腕を、自分で押さえ込む。

だが、どうしても止められない。


内側から溢れ出る力が、意思を踏み潰していくのだ。


「ぐ……あ……あああ……っ!!」


イヴァンスの絶叫が空間を震わせた。


次の瞬間。


瞳から、光が消える。


意識が、落ちた。


「――っ、まずい!」


誰かが叫ぶより早く。


イヴァンスの身体が跳ねた。


ドンッ!!


爆発的な踏み込み。


同時に振り抜かれる剣。


狙いは――結界。


セーニャたちを隔離する、その中心。


衝撃が叩きつけられる。


結界が軋み歪む。


まるで内側を押し潰すように、空間そのものが悲鳴を上げた。


「くっ……!」


ベラミカの喉から苦鳴が漏れる。


次の瞬間――


衝撃が、結界越しにではなく、術者そのものへと直撃した。


「――っ!!」


身体がわずかに浮く。


踏みしめていたはずの足元が揺らぎ、膝が折れかける。


魔力の流れが強引にねじ曲げられる。

張り巡らせた術式が、内側から軋む。


「なによ、これ!」


結界にかかっているはずの負荷が、そのまま神経へ流れ込んでくる。


痛みではない、押し潰される感覚。


肺が圧迫され、呼吸が一瞬止まる。


視界が、揺れる。


「ぐ……あ……っ!」


歯を食いしばるが、止まらない。


もう一撃。


ドンッ!!


衝撃が重なる。


その瞬間、ベラミカの肩が大きく揺れ

指先が震える。


術式の維持が、一瞬だけほどけかけそうになる。


「師匠……維持、きつい……!」


声を絞り出す。


魔力を流し続けなければ、結界は即座に崩壊する。

だが流せば流すほど――押し返される。


イヴァンスの一撃は、結界展開の術者にも圧力をかけているのだ。


セラフィスも歯を食いしばりながらも、視線を逸らさない。


崩れかけた均衡を、強引に維持する。


その一方で――


結界の中。


セーニャは、レックにしがみついていた。


「レック……!」


腕を回し、必死に抱き寄せる。


その身体は熱く、荒く震えている。


まるで別の生き物のように。


「お願い……正気に戻って……」


声が震える。


涙が頬を伝い、レックの体に落ちていく。


「お願い……!」


強く抱きしめる。


逃がさないように。


繋ぎ止めるように。


だが――


「グルルルルルルッ!!」


低く唸る。


その声に“理解”はない。


ただの本能。ただの衝動。


セーニャの腕の中にいながら、その瞳は彼女を見ていなかった。


「レッ……」


喉が詰まる。


それでも、離さない。


離せない。


その外側で――


ドンッ!!


再び、結界が打ち据えられる。


今度は、より深い歪み。


表層ではない。


“構造そのもの”が削られていく。


セラフィスが鋭く叫ぶ。


「ジャック!」


「了解ッ!」


ジャックは地面を蹴る。


その動きに、もう軽さはない。


一直線にイヴァンスへ突っ込む。


「とにかく引き剥がせってことでしょ!

 ぼくちゃん、自殺願望はないんだけどな~!」


剣圧の嵐へ、無理やり身体をねじ込む。


風圧が肌を裂く。


骨が軋む。


それでも止まらない。


「スランザ!」


セラフィスの声が重なる。


「スタンショックでイヴァンスの動きを止めるのよ!」


「承知だ!」


スランザの周囲に魔力が収束する。


空気が震え、細かな光の粒が帯電する。


雷撃の前兆。


「――スタンショック!」


閃光。


電撃が戦場を貫く。


ジャックとイヴァンス、双方を巻き込んで叩きつけられる。


「うおっ!? まじで~!?

 ここで止まったら本当に死ぬって!」


ジャックが歯を食いしばりながら身を捻る。


ギリギリで直撃を避ける。


だが――


イヴァンスには、直撃。


「……!」


一瞬動きが鈍る。


筋肉が強制的に収縮し、剣の軌道が僅かにブレる。


だが止まらない。


「ちっ……効きが浅い!」


その隙間に――


ガキィンッ!!


レキサルが割り込む。


剣と剣が激突する。


衝撃が火花となって散る。


「ここは、お任せくだされ!」


重く踏み込み、力任せに押し返す。


だが押し切れない。


むしろ、徐々に押されている。


「……っ、長くは持ちませぬぞ!」


その間。


セラフィスは、動かない。


ただ、詠唱している。


周囲の魔力が静かに、だが異常な密度で集束していく。


空気が張り詰める。


時間そのものが、引き延ばされたように。


「――今よ」


次の瞬間。


セラフィスの姿が消えた。


空間転移。


イヴァンスの懐へ。


至近距離。


逃げ場のない位置。


両手に集束された魔力が、同時に解放される。


「――ディスペル・シール」


一つ。


強化そのものを剥がす術式。


「――ソウル・アンバインド」


二つ。


魂に絡みつく束縛を断ち切る術式。


二重詠唱。


同時発動。


逃げ場はない。


直撃。


「ぐあああああああああああああっ!!」


イヴァンスの絶叫が弾ける。


竜紋が、激しく明滅する。


暴れていた力が、逆流する。


内側から引き剥がされるように。


「……っ!」


身体が崩れる。


膝から、落ちる。


剣が手から離れ、地面に転がる。


「……は……」


呼吸が、途切れる。


そのまま。


イヴァンスの意識が、完全に落ちた。


静寂。


竜紋の光が変わる。


激しい明滅は消え、柔らかな光へと変質する。


それに呼応するように――


レックの身体からも、力が抜けた。


「……くぅ……」


低く、弱い声。


そのまま、セーニャの腕の中で崩れ落ちる。


「レック……!」


セーニャが抱きしめる。


今度は、確かに“重み”が違った。


暴れる力ではない。


ただの体温。


ただの命。


戦場に、ようやく――


ほんのわずかな静けさが戻った。

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