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幼馴染と婚約したけど聖女も好きになったので頑張って爵位を取り、二人の女の子と結婚したい件  作者: ふくみどり
帝国学園編

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封じる者と壊す者

イヴァンスの剣が振るわれた瞬間、空気が裂けた。


――重い。


ただの斬撃ではない。

「切る」というより、「押し潰す」という意思そのものが形を持って、空間ごと叩き潰しに来ていた。


「っ……!」


ジャックが反射的に跳ぶ。


直後、足元の地面が“遅れて”崩壊した。

まるで現実が一拍遅れて痛みを理解したかのように、瓦解する。


「ちょちょちょ……」


いつもの軽口が出かかって、途中で止まる。


「なにこれ、ぼくちゃんたちってさ」


一瞬だけ視線をレキサルへ投げる。


「冒険者で言うAランカーの強さ、あったよね?」


レキサルは答えない。

否、答えられない。


目の前の剣圧は、ランクという概念そのものを無意味にしていた。


次の瞬間、斬撃。


だがそれは「見えた攻撃」ではない。

“避けた先”に合わせて軌道がずれる。


読まれているのではない。

行動そのものを“先に潰されている”。


「なのにさぁ、二人で押されてんだけど?」


ジャックの声から、完全に余裕が剥がれ落ちる。


イヴァンスは止まらない。


踏み込み、振り抜き、また踏み込む。

一撃ごとに重さも軌道も変質し、もはや剣術ではなく“現象”に近い。


「どうやら、次なる攻撃が迫っておりまするな……」


レキサルの声は低い。

冷静を保っているようで、その実、呼吸がわずかに乱れていた。


次の一撃。


空気が悲鳴を上げ、空間が裂ける。


ジャックが舌打ちする。


「冗談抜きでさぁ、これ遊びじゃなくなってるんだけど」


軽口を続けようとして――言葉が途切れた。


“言う余裕がない”。


その事実が、じわりと戦場全体に染み出す。


その中心で、セラフィスの声が鋭く飛んだ。


「ベラミカ!」


「何よ師匠!」


「結界を二重展開。プラーサとセーニャを隔離する。手伝いなさい」


「分かったわ!」


魔力が一気に解放される。


空間に幾何学的な紋が走り、重層的な結界が展開されていく。


戦場の一角が切り取られ、セーニャとプラーサの存在だけが別領域へと押し込まれていく。


その瞬間、セラフィスが叫ぶ。


「セーニャ!」


「とにかくレックを正気に戻しなさい!」


一拍。


「ひっぱたいてでもいいから!」


命令は荒い。

だが、その声には焦りが混じっていない。


すでに“最悪手前”の判断を済ませた者の声だった。


結界が完成した、その瞬間だった。


イヴァンスの視線が変わる。


戦場全体ではない。

“一点”へ。


結界の中心。

セーニャ、プラーサ、そしてレック。


戦力が一点に収束したと認識した瞬間、剣の軌道が切り替わった。


狙いはジャックでもレキサルでもない。


“結界そのもの”だ。


「まずい!」


ベラミカの叫びと同時に――


ドンッ!!


衝撃。


結界が内側から殴られたように歪む。

空間が軋み、音ではなく“構造”が悲鳴を上げる。


セラフィスの表情がわずかに険しくなる。


「……本気で来てるわね」


短く呟き、即座に命を下す。


「ベラミカ!出力上げて!」


「これ……維持きついです!」


「いいからやりなさい!」


イヴァンスの動きは、もはや剣士の枠ではなかった。


踏み込みのたびに地面が沈み、

振り抜くたびに空間の“境界線”が削られていく。


存在そのものに刃を当てているようだった。


「ジャック!レキサル!下がりなさい!」


怒声。

だが視線だけは一切ブレない。


イヴァンスの“中心”だけを見ている。


その右手。


竜紋が、明滅を始めていた。


脈打つように。

呼吸するように。


「ぐ……あ……っ」


声にならない呻き。


その奥に、まだ“人間としての意識”が残っている。


ほんのわずかに。


「……違う……俺は……」


その言葉は、剣圧に呑み込まれて途中で消える。


レックが咆哮する。


「グルルルルルルッ!!」


その瞬間だった。


空間が震えた。


音ではない。

圧だ。


存在そのものが拒絶を始めるような、根源的な圧力。


ジャックの表情から完全に軽さが消える。


「……あー、これさぁ」


「マジでやばい領域に足突っ込んでるやつじゃん」


レキサルが短く息を吐く。


「剣戟の範疇を、すでに超えておりますな」


イヴァンスの一撃ごとに波動が生まれ、

結界そのものを内側から削っていく。


セラフィスの目が細くなる。


「……ここまで引っ張るのね」


その声は小さい。


だが次の瞬間、空気が変わった。


冷えたのではない。

“静かになった”。


怒号も焦燥も削ぎ落とされた、純度の高い制御。


「ベラミカ」


「はい!」


「結界、第一層を捨てる」


「えっ……!」


「第二層だけ残す。歪みは私が受ける」


その瞬間、セラフィスの魔力が質を変えた。


防御ではない。


守るための構造から、“封印の檻”へと変質する。


イヴァンスの剣が振り下ろされる。


ドンッ!!


結界が悲鳴を上げる。

だが――まだ割れてはいない。


ただ、ひたすらに歪む。


その歪みの中心で、黒い影が立ち上がるように絡みついた。


イヴァンスの動きが、一瞬だけ鈍る。


ほんの刹那。


その隙間に、意識が浮上する。


「レック……」


かすれた声。


「正気に戻れ……セーニャを殺す気か……!」


――その言葉だけが、戦場に落ちた。

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