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幼馴染と婚約したけど聖女も好きになったので頑張って爵位を取り、二人の女の子と結婚したい件  作者: ふくみどり
帝国学園編

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制御不能

セラフィスとサーペインが対峙している。


膠着状態は続いていた。


踏み込めば終わる。

だが踏み込めば、互いに“戻れない領域”を呼び起こす。


そんな均衡の上に、空気だけが重く積み上がっていく。


その中で――


「う……、が……」


イヴァンスの喉から、押し殺したような声が漏れた。


誰もが一瞬そちらを見る。


「存在……、許せない……」


視線は定まっていない。

だが明らかに、“何か”に抗っている。


その“何か”は、単なる怒りではなかった。


もっと深い場所――本能に近い層から、

引きずり出されるような拒絶。


レックが低く唸る。


「グルルル……!」


その瞬間、空気がわずかに歪んだ。


圧が一段、落ちる。


ただの威嚇ではない。

“存在そのものへの拒絶反応”に近い揺らぎだった。


セーニャが心配そうに一歩寄ろうとする。


「イヴァンス君……?」


その瞬間――


「あぶねえ!近づくな!」


スランザの鋭い声が飛ぶ。


だが、遅い。


イヴァンスの手が腰の剣へ伸びる。


――抜剣。


次の瞬間には、地を蹴っていた。


「っ――!」


セーニャが息を呑む。


イヴァンスは迷っていない。

ただ一直線に――サーペインへ。


「……来ますか」


サーペインが、初めてわずかに目を細める。


だが同時に、空間が“拒絶するように”歪む。


黒い線が走る。


それは先ほどと同じく――セーニャの心臓へ向かう軌道だった。


サーペインが“再現”するように放った一撃。


誰よりも早く反応したのはイヴァンスだった。


理屈ではない。


“そこに向けられた意志”を見た瞬間、体が動いていた。


「邪魔だあああっ!!」


剣が振るわれる。


黒い線に触れた瞬間――


ギィン、と音にならない衝撃が走った。


魔術でも刃でもない。


“存在そのものの拒絶”を断ち切るような一撃。


サーペインの眉がわずかに動く。


「ほう……やはりですか……」


楽しげな声。


だが、その奥に初めて薄い警戒が混じる。


「イヴァンス!」


セラフィスの声が飛ぶ。


同時に魔力が動こうとする。


だが――


セラフィスは一瞬だけ目を細める。


(……同時は厄介ね)


サーペインとイヴァンス。


片方なら潰せる。

だが同時に崩すには精密すぎる間合いだった。


それほどに、イヴァンスの動きが“乱れている”。


レックが吠える。


「グルルルル!!」


怒りが、空間を震わせる。


セーニャを狙った“存在”への本能的拒絶。


その感情が――イヴァンスの内側と噛み合う。


右手の竜紋が、脈打つように光る。


「……っ、止まれ……!」


イヴァンスの声がかすれる。


「違う……俺は……!」


だが剣は止まらない。


振るうたびに空間が裂ける。

一撃ごとに“怒り”が形を持っていく。


サーペインはそれを避けながら、わずかに楽しそうに目を細めた。


「面白いですねぇ……」


「怒りに呑まれながら、まだ自我を保っている」


軽い足取りで一歩。


それだけで距離が歪む。


剣が空を切る。


「ですが――」


視線が横へ流れる。


セラフィスへ。


「長居は危険ですね」


その言葉と同時に、空間がさらに歪む。


撤退の準備。


セラフィスの目が鋭くなる。


「逃がすとでも?」


だが――


サーペインの姿は、もう“そこにいない”。


残るのは、裂け目のような歪みだけ。


イヴァンスの剣が、その軌道を薙ぐ。


「……うああああっ!!」


叫びと共に放たれた一閃は、撤退の経路そのものを断ち切った。


だが次の瞬間――


「惜しいですね」


声だけが残る。


「イヴァンス君でしたね。名前は覚えておきますよ」


歪みが閉じる。


完全な撤退。


イヴァンスはその場に膝をついた。


剣を握ったまま。


呼吸が荒い。


「……俺は……」


視線が揺れる。


自分が何をしたのか、掴めていない。


セーニャが一歩踏み出す。


「イヴァンス君――」


そっと、手を伸ばす。


その瞬間だった。


イヴァンスの瞳が、揺れた。


――“接触”。


その意味を理解するより早く、体が反応する。


「っ――危ない!!」


ガキィン!!


セーニャの首筋へ振り下ろされた剣を、セラフィスの結界が間一髪で受け止める。


衝撃が爆ぜるように広がり、セーニャの体が弾かれる。


「っ……!」


空気が一気に張り詰める。


セラフィスの表情が変わる。


「周辺の攻撃力、魔術力の排除……」


低い声。


まるで“世界そのものを書き換える命令”のように。


「戦闘力の源を……全て無力化……!」


その瞬間、周囲の魔力が“検閲されるように”圧縮されていく。


敵味方の区別すらない。


ただ“危険な力”そのものが排除対象になっている。


レックが唸る。


「グルルルルルッ!!」


その体からも、同質の圧が滲む。


イヴァンスの竜紋が激しく明滅する。


「……あ……ああ……っ!」


理性が、崩れていく。


セラフィスが鋭く言う。


「ジャック!」


「セーニャを守りなさい!」


「まじかよ~……」


ジャックが頭をかく。


「ぼくちゃん、そういう“守る役”の趣味ないんだけどね~?」


だが、次の瞬間にはもう動いている。


「セラッちのお願いだもんな、

 仕方ないよね~、了解~」


軽口とは裏腹に、動きは速い。


スランザが舌打ちする。


「くそ……完全に暴走か」


レキサルが静かに目を細める。


「理性より先に、魔術力が“敵認識”を始めておりますな」


イヴァンスの周囲の空気が、歪む。


視線が定まる。


それはもはや“人を見る目”ではない。


戦場を排除するための視線だった。


セラフィスが、低く呟く。


「……さすがに面倒なことになったわね」


その声は、警戒に満ちていた。


「これは……止めるしかないわね」


そして――

戦場は、次の段階へ移行しようとしていた。

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