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幼馴染と婚約したけど聖女も好きになったので頑張って爵位を取り、二人の女の子と結婚したい件  作者: ふくみどり
帝国学園編

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崩壊寸前の均衡

セラフィスとサーペインが、静かに相対している。


距離は近い。

だが――その間に流れる空気は、あまりにも重い。


一歩でも踏み込めば、均衡が崩れる。

そんな張り詰めた緊張が、場を支配していた。


サーペインが、ゆっくりと笑う。


歪んだ笑み。

だが、その奥にあるのは愉悦ではない。


試す側の余裕。

観察者としての表情。


「こうして直接お会いするのは、久しぶりですね」


声は穏やか。


だが、どこか“遅れて届く”ような違和感がある。

言葉と気配が、わずかに噛み合っていない。


軽く一礼するように頭を傾ける。


その動きすら、滑らかすぎた。

まるで“人の動きに似せている何か”のように。


「セラフィスさん、でよろしかったですかね?」


その呼び名が、静かに落ちる。


わざとらしいほどの確認。

試すような言い回し。


セラフィスの視線が、鋭く細まる。


「相変わらずね」


短く、吐き捨てる。


「私がセラフィスだって知ってて、敢えてそういう物言いするの」


感情は、乗っていない。

ただ事実を指摘するだけの声音。


だがその裏に、明確な拒絶がある。


セラフィスは一歩も動かない。

それでも――場の主導権は完全に握っていた。


「で、今回は何の用?」


一拍。


「まさか旧知の仲を温めるために、私とお茶をしたいってわけではないでしょ?」


わずかな皮肉。

だが笑ってはいない。


サーペインの口元が、わずかに歪む。


「だとしたら?」


軽く返す。

その軽さが、逆に異様だった。


セラフィスの目が、さらに冷える。


「いつでも天に召されることのできる――」


一瞬の間。


「美味しい紅茶をふるまってあげるわ」


その言葉が落ちた瞬間。


空気が、軋んだ。

見えない圧が、周囲を押し潰す。


言葉は軽い。

だがその中身は、完全な“殺意の宣告”だった。


サーペインは――笑みを崩さない。

むしろ、わずかに楽しそうにすら見えた。


「それはそれは。とても魅力的なお誘いですね」


さらりと返す。

死の話を、世間話のように。


「ですが今日は――」


ゆっくりと、顔を上げる。

その目が、真っ直ぐにセラフィスを射抜いた。


「そこまで長居するつもりはありません」


サーペインが、静かに告げる。


まるで世間話の続きを切り上げるような口調。

だが――その一言に、場の緊張がわずかに軋む。


セラフィスの視線が、冷たく落ちた。


「じゃあ、さっさとお帰りなさい」


間を置かない。

言葉を被せるように、切り捨てる。


「アルフォース帝国に手を出すとどうなるか――」


一歩、わずかに前へ出る。


その瞬間、空気が沈んだ。


「身をもって思い知らせたはずだけど?」


低い。


感情を削ぎ落とした声。


だがその奥にあるのは、明確な“記録された暴力”。

過去に、確かに叩き潰したという事実。


サーペインの笑みが、ほんのわずかに深くなる。


セラフィスは止まらない。


「まだ懲りないようなら――」


一拍。


視線だけで、相手を縫い止める。


「こちらも考えがあるわよ」


その言葉が落ちた瞬間。


周囲の魔力が、ゆっくりと沈み込む。

広がるのではない。圧縮されていく。


逃げ場を、奪うように。


空気そのものが、ゆっくりと沈み込み――

場にいる全員の動きを、見えない手で縛り上げる。


その中心で。


サーペインが、くすりと笑った。


「フフ……いいですよ。

 帰ると致しましょう」


喉の奥で転がすような、軽い笑い。


だがその音は、やけに遠くから響いてくるように歪んでいる。


「しかし、私も手ぶらで帰るわけにはいきませんのでね」


一歩も動かない。

それでも――“距離だけが近づく錯覚”が走る。


イヴァンスの呼吸が、わずかに乱れる。


「一人くらい――」


わざと、言葉を区切る。


視線が、セラフィスの背後へと流れた。


「心臓が止まった状態で、いただいて帰りましょうか」


その瞬間、空気が軋んだ。

明確な殺害の意図。


それだけで、場の温度が一段落ちる。


スランザの目が細まる。


ジャックの口元から、完全に笑みが消えた。


セーニャがレックを抱き寄せる腕に、力が入る。


そして――


セラフィスは、動かない。

ただ、視線だけでサーペインを射抜く。


「私の仲間に手をかけると――」


静かに、だが一切の揺らぎなく。


「どうなるか」


「もう一度、ナピドラ連邦に思い知らせてあげるわよ」


それは宣言ではない。

既に“やったことがある”者の、確認だった。


サーペインの笑みが、わずかに歪む。

楽しげに、さらに興味深げに。


「ええ、ぜひ」


即答。


躊躇が、一切ない。


「ですが――」


その瞬間。


“何か”が、動いた。


気配ではない。


音でもない。


ただ、結果だけが発生する。


セーニャのすぐ横。


空間が、わずかに歪む。

そこに何かがあったことだけが、遅れて理解される。


「っ――!」


イヴァンスが反応するより、速く。


セラフィスの指先が、わずかに動いた。


――バキン。


乾いた音。

見えない何かが、砕け散る。


遅れて、衝撃だけが周囲に走る。


空気が震え、木々がざわめいた。

サーペインが、楽しそうに目を細める。


「やはり、あなたはお強い」


試した。


今のは、明確な“試し”だった。


命を奪うためではない。


“どこまで防げるか”を測るための一手。


セラフィスの目が、完全に据わる。

温度が、消える。


「次はないわよ」


その一言は、警告ではない。


“確定”だった。


その瞬間。


張り詰めていた均衡が――音もなく崩れた。


空気が、弾ける寸前まで歪む。


――戦いが、始まる。

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